空高く帰還・・・。
「そろそろ、ここを発たないと、リンドル国に夜遅くになってします。」
ヘンリー様が、部屋の時計を見て言って来る。
もう、そんな時間になっていたんだ。
治ったとはいえ、コスモが怪我をした後の初めて飛ぶ事になる。
それも長距離。
だから、今回もリンドル国に一泊の計画だ。
「もう、そんな時間なの・・・って事にしてあげよう。ただし、度々ナーガ王国に来なさい。」
ケルヴィン国王が言って来る。
「結婚式の招待状を届けに来る、約束をしています。」
ウィリアム伯父様が、ケルヴィン国王に自慢げに言う。
「そうか、そうか・・・なら、その際は王宮に泊まりなさい。」
ウィリアム伯父様が失敗したと言わんばかりに、ショックな顔をする。
ただすぐに顔色を変え、凛とした顔をしだす。
「なら、サーシャのウエディングドレスは、伯父である私が用意をしよう。」
「それは、結婚相手である俺の役目です。」
「いやいや、サーシャが、ナーガ王国と深い関りがあると、知らしめるべきだろう。ここは、ナーガ王室が用意するべきだ。」
えっと・・・その・・・3人して、私のウエディングドレスで、バトルしないでくださいませんか?
「え―――い。結婚式、結婚披露宴と結婚報告の時に、しっかり着させていただきますから、喧嘩しないでください!!」
ウエディングドレス3着は、全て有難く、そして遠慮なく、着させていただきます。
これでどうよ!!
結婚式の会場がドラゴンの大樹で、結婚披露宴の会場が王都のルベライト公爵の屋敷の為に、ルベライト領民への報告をする機会を設けたのが結婚報告だ。
領都ルベルタをパレードするのだが・・・なんか、領都ルベルタだけでなく、他の都市でもという声が挙げっていたりもする。
黄金のドラゴンであるコスモが絡んでいる為に、結婚報告当日は、領都がごった返すのを避ける為とかで・・・。
でも、コスモが怪我をしたことで、この話は頓挫になるだろう。
ヘンリー様も乗る気ではなかったので、良かったと言えるが・・・。
それにしても、どうして嫌だったんだろう。
ヘンリー様と初めて会ったチューラの町も含まれているのにな。
”ギューギュー”
と、窓からドラゴンの鳴き声がして、窓を見るとジジイ様がこちらを見ていた。
帰宅を促しているのだろう。
「ロゼリス殿等での報告の件だが・・・。」
「ウィリアム伯父様。その報告は、ラスキンさんを通してくださればいいですよ。」
私が、ウィリアム伯父様にそう言うと、気づいていたのかというように鼻で笑ってくれた。
「ラスキンさんの経営している商会は、世界中を駆け巡っていると聞いています。つまり、その国の情報も自然と入手が出来ます。そして、学園内にも難なく入れて、女性の部下だとは思いますが、私の寮の部屋にも入る事が出来ると言えば出来ます。」
母の形見の品を、勝手に私の部屋に入って置いたのは、ラスキンさんの女性の部下だろう。
ウィリアム伯父様から、ラスキンさんの手に渡り、私のもとに届いたと見て言い。
「わかった。次からはそうしよう。」
ウィリアム伯父様がこちらに来る。
”ぎゅっ”
と、私を抱きしめるウィリアム伯父様。
「次来るのを楽しみに待っている。必ず来なさい。」
「はい。わかっています。ウィリアム伯父様。」
”ムギュー”
と、ウィリアム伯父様に抱きしめられている中で、私の背後から抱きついて来る人。
ヘンリー様の感覚ではない。
「次は、ナーガ王国を巡って欲しいなあ。」
と、ケルヴィン国王だった。
「許して頂けるのなら、次は、アンリエット様のお墓に挨拶をしに行きたいです。」
「もちろんだよ。」
嬉しそうに許可してくれたケルヴィン国王。
「ごほんっ」
と、ヘンリー様がワザとらしい咳をした。
「ウィル。懐かしいな。ステラがイリスに嫁ぐ際にも、こんなことあったよな。」
「はい、そうですね。あの時のデューク殿の顔ときたら・・・ふっ」
ウィリアム伯父様が吹きだし笑うと、ケルヴィン国王も笑い出した。
「はいはい、そのようにされれば、花嫁の婿は嫉妬します。」
ヘンリー様は、私の手を取り、2人の腕の中から引きずり出す。
「あははははっ」
「くくくくっ・・・正に同じ行動をするとは、愉快ですね。」
大笑いする2人を尻目に、きつく私を抱きしめるヘンリー様。
笑いが止まると、ウィリアム伯父様は、真剣な顔でこちらを見る。
「ヘンリー殿。私たちのかけがえのないステラの娘を、どうかよろしくお願いします。」
と、ウィリアム伯父様が言う。
なんか、娘を嫁にだす父親のような言葉だな・・・。
「はい。」
ヘンリー様も真面目な口調で返事をした。
こうして、ジジイ様の背に乗り、ナーガ王国を出た。
◇ ◇ ◇
「今回は、空高く飛んでいるのね。」
窓から赤いドラゴンが空高く飛んで行くのが見える。
サーシャが、ドラゴニアへ向かうのね・・・・違うか。
ドラゴニアに帰るが正しい。
「不思議ですね。」
私は、お腹をさすりながら言う。
サーシャが、ドラゴニアに帰る事を寂しいと感じてられている事に対して、過去の自分には考えられないと思ったからだ。
「ありがとうサーシャ。」
そう言わずにはいられなかった。
本人の前では、言う気はないけど。




