お腹が空いては・・・
黄金のドラゴンの紋章
そして・・・温もり
油断したら、とろけてしまいそうな香り
私は、ヘンリー様の腕の中にいた。
ベッドの中、ヘンリー様に抱きしめられ眠っていたのだ。
それで・・・いつベッドに?
ベッドに入った記憶のない私だった。
”ザザザザ ザザザザ”
遠くの方で波音が聞こえる。
ここは、城塞ウルナムだと思われる。
それで・・・いつ、城塞ウルナムに?
記憶にない。
私は、思い出すというか・・・似たような事が、過去にもあったなと。
イリス帝国から出て、ウィリアム伯父様の所へ行き、出されたお茶を飲んで気を失った。
睡眠薬を盛られたのだ。
後ほど理由を聞いたら、気を落ち着かせるためにした事だと。
確かに、イリス帝国から出る際に、気が立っていて、眠れないでいたから、気を落ち着くことが出来たっけな。
そして、今もそうだ。
眠った事で、気持ちが落ち着いている。
・・・つまり、盛られたということか。
ウィリアム伯父様から水を渡されて、飲んだのだから、それに睡眠薬が入っていたのだろう。
面と向かって、気を落ち着かせるために、薬を飲んで一旦寝ろと、言ってくれればいいのに・・・。
これでは、素直にお礼が言えないじゃないの。
お礼は言うけどさぁ~。
私は、目の前に見えるヘンリー様の胸の文様を見る。
黄金のドラゴンの文様があるという事は、コスモは生きている。
それも、命の危険はない。
だって、もし命の危険があるなら、ヘンリー様がこうして私を抱きしめて、眠っているはずはないからね。
私は、ヘンリー様の黄金のドラゴンの文様にキスをする。
「っ!」
眠っていたヘンリー様が、目を開ける。
「おはようございます・・・ではないですね。」
私は、朝ならこうも簡単にヘンリー様が目を覚ますわけがない事を伝える。
「昼過ぎだな。」
ヘンリー様はそう言い、コスモが矢に刺されてから一日経ったことを教えてくれた。
そして、私の額にキスをする。
恥かしくって、戸惑ってしまうのですが・・・じゃないわ。
「コスモは?」
「だるさが残る程度だ。」
矢を射られた当初は、毒を取り除くためとはいえ、コスモを切りつけ、血が流れていた。。
つまり、コスモは絶賛貧血中というわけだ。
「毒は、ユニコーンの角のおかげで、解毒されている。」
ケルヴィン国王にも、お礼をしに行かないとな。
まあ、まずは腹ごしらえだ。
浴室で、体も洗いたいわ。
そうなると、水分を補給しないとね。
丸一日、何も摂取していないのだから・・・本当に?
今は夏よ、夏。
水分摂取をこまめにしないと、熱中症とならない?
・・・前世の夏のような暑さはないけど、丸一日、水分を補給してないと、危険でしょう。
めまい等の訴えがあってもいいはず。
只今の私。
喉の渇き・・・ありません。
お腹が空いてます。
汗をあまりかいてない?
いやいや、汗かいて、体がベトベトッて感じになってます。
そして・・・やはり、概要欄でもいいので、お腹空いてますを入れといてください。
お腹が、凄く空いています。
おかしい。
まあ、おおよその検討はつくけど・・・。
「ヘンリー様。私・・・今、喉が渇いてないのですが、どうしてか、わかりますか?」
ベッド上で起き上がりながら言うと、すぐにヘンリー様もベッド上に起き上がり、私を腕の中に引き込む。
「それは、サーシャが干からびないように、俺が潤いを保っていたのだが・・・。」
やはりね。
口移しで水分を飲ませていたのだろう。
「えっと・・・ありがとうございます。」
私は、俯きながらお礼を言う。
”グルルル・・・”
恥ずかしさを増長させるように、お腹が鳴る。
耳まで熱い。俯いている顔に、プラスアルファそっぽを向けるしかない。
”チュッ”
おいおい、私のこめかみにキスするな!
これ以上、恥かしさをどう隠せばいいのよ。
「コスモの治療に、ユニコーンの角を出して頂いたのです。ケルヴィン国王にお礼をしに行かなければ・・・。」
私は、場の雰囲気を変えるために言う。
「そうだね。」
「まずは、食事をとって、体を洗わないと・・・。」
”ぎゅっ”
私は、ヘンリー様から離れようとヘンリー様の肩に手を置いたつもりが、ヘンリー様の肩付近の服を掴んでいた。
私は、目をパチクリする。
「えっと・・・お礼を言いに準備をしないと・・・。」
握っている手が緩んでくれない。
私の手・・・どうしたの?
「えっと、食事を・・・お礼を・・・」
目をパチクリしながら、次の行動を言うも、体が動こうとしない。
「体を洗ってから、食事にしよう。」
ヘンリー様が、そう言うと私を抱えて立ち上がる。
「それで、いいのですが・・・。」
ヘンリー様が、私を抱えて歩き出す。
「ヘンリー様。どちらへ・・・行くのですか?」
恐る恐る言う。
「浴室に決まっているだろう。一緒にお風呂に入ろう。」
「遠慮します。」
私は、やっと服を握ていた手が離れた。
「私が先で、ヘンリー様が次でお風呂を使いましょ。逆でも当然いいですよ。」
浴室に向かっているヘンリー様に言う。
「お腹が空いているのだろう、早く食事にしような。」
「もっと、遅くなる雰囲気なのですが!」
浴室の扉が刻々と近づく中で言う。
「そうならない為にも、協力し合おうな。」
”ガチャっ”
浴室の扉が無残に開く。
「お腹の空いている私に、できるわけないでしょ!!」