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小豆の恵み

 「くふぁ~」

 いけないとわかっていても口に出してしまっている。

 この、至福の味『クリームあんみつ』

 黒蜜は別になっていて後がけが条件。

 黒蜜は濃厚な甘さ故に、果物の素材を消してしまう事がある。

 味に飽きたらかける程度がいいのよね。

 クリームとあんこで十分足りる時もあるけど、それはそれで私はいいと思っている。

 このラーイ界に転生して、クリームあんみつがある事を知ったのは8年前。

 転生した国で、ドラゴニア王国に行く準備は着々としていたが、クリームあんみつが果たしてドラゴニア王国に存在するか心配になり、一時期亡命を中止しようとしたことがあったわね。

 赤の領土は、砂糖、天草、もち米、米、フルーツ、牛乳が特産。小豆が唯一北の領土というだけで、期待はできると思っていたが・・・。

 ちゃんとありました。

 至福のひととき、しっかり感じています。

 

 ここはチューラの町

 ルベライト領の中心都市と王都を結ぶ街道にある街。

 カリスタ様の故郷で、ルベライト領の祭『クッキー祭』の発端となった町。

 だからこの喫茶店『シンシャ』のスイーツには、プラスでクッキーが付いてくる。お得感があるわよね。

 「・・・う~ん」

 男性の小さな唸り声が聞こえた。

 カウンターの奥、厨房からしている。

 「何かあったのですか?」

 私はカウンターにいた小母さんに声をかける。

 「あら、いや~よ。」

と、小母さんは片手を口に、もう片手を手首のスナップ利かせ払う。

 よくある小母ちゃん行動をした。

 そして、この町はクッキー祭の発端の町だから、クッキーを出すのはどこの店でもしていることで、他に特徴のあることをしたいのだけど思いつかなくて悩んでいると言ってくれた。

 ・・・なるほどね。

 「私なら、このスプーンをクッキーにしますね。」

 私は、あんみつを食べる際に使っているスプーンを少し高く上げる。

 「スプーン型のクッキーを作って、スプーンとして使用してもらい、使い終わった後に食べてもらう。スプーンを洗う手間も省けて一石二鳥という利点にもなります。」

 厨房からご主人が出てきて、私の手を握る。

 「その案、貰ってもいいか!」

 私は『どうぞ』と、ニコッと笑い了承する。

 この店の主人は、お礼に今食べているクリームあんみつ代を無料にしてくれると言ったが断わった。

 「このクリームあんみつに使われている小豆は、北の領土から仕入れているのでしょう、中央領を挟んでいるから運搬に結構な金額がかかるわ。でも提供されている金額は安い。赤字覚悟で提供している物を頂くことはできません。」

 ご主人と小母さんは目がキョトンとする。

 「ルベライト領に小豆を作るようになったんです。それから安く小豆が入るようになって、あんこの入った商品を値下げしたんです。」

 ご主人が説明をしてくれた。

 「つまり、このクリームあんみつは『ルベライトの恵みのてんこ盛り』なんですね。」

 私は、目をキラキラさせ残り3口ほどのクリームあんみつを見て言う。

 「あら、いい表現ね。」

 小母さんは笑ってくれた。

 「ご主人さん、ではお願いがあります。クリームあんみつをもう一杯ください。お代はしっかり出します。ですが・・・あんこを少し多めに、ルベライト領の小豆だと噛みしめながら食べたいので。」

 私は、満面の笑みで言うと、ご主人も嬉しそうに引き受けてくれた。

 あんこの量が多めのクリームあんみつを待っている間、私は残りのクリームあんみつを食べる。


 ”チリリ~ン”

と、涼やかな鈴の音色が聞こえる。

 客が入ってきたようだ。

 「まあまあヘンリー様。いらっしゃいませ。」

 小母さんが、カウンターから出て店の出入り口へ行く。

 ヘンリー様だと?

 私は振り向き、店の出入り口を見る。

 深みのある赤毛に、若干青の入った灰色の瞳。

 年齢は20代半ばぐらいで老いが留まったように見える。

 ヘンリー・ルベライト。その人だよ。

 ゲーム内ではリオンと同い年の18歳だったので大人びて見える。いつもにこやかにしていたが、今はそのような趣きはない分、色っぽく見える。

 これが、ハミッシュ陛下たちが言っていた光が無くなったっていうモノなのか?

 イケメンには変わりないのだが・・・。

 もしかしてそれだけじゃないのか?

 でも、おかしい。

 いたって普通に領民と接しているように見えるんだけど・・・。

 クレシダが亡くなってから間もなくのラリマー邸の感じはしない・・・もしくは私の例えが極端過ぎなのか?

 

 ヘンリー様は私の座っている席の2つ離れた席に座る。

 「ヘンリー様が、ルベライト領に小豆の生産に乗り出してくださった方なんですよ。」

と、小母さんが言った。

 私は、席を立ちヘンリー様の方へ行く。

 そして、丁寧にお辞儀をする。

 「サーシャ・カーネリアンです。」

 「ヘンリー・ルベライトです。」

と、ヘンリー様も左手を胸に、右手を後ろにし左足を後ろに下げる。正式なあいさつをしてくれた。

 「ルベライトという事は領主様、公爵様ですか?」

 ヘンリー様は違うと否定し、その息子だと言った。

 まだエリック様が領主で、ヘンリー様が公爵家の嫡子なんだ・・・。


 「ヘンリー様はお汁粉でいいですよね。」

と、小母さんが言う。

 ヘンリー様は、ここの常連さんのようだ。 

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