幸せのカタチ
”ドクンッドクンッ”
と、心臓の音が響いている。
だけど、この音は、どこらかするモノなのだろうか?
自分の音でないはず。
だって、生きた心地が全くしないのだから・・・。
白いドラゴンが、頭上から降り立つ。
そこに乗っていたのは、ハワードさんと、知らない小父さんだった。
「陛下からの勅命を頂きました。宮廷医師のジタン・ヌーマイトと申します。」
そう言うと、持っていた筒状の物の包装を解く。
包装の中身は角だった。
「・・・これは。」
デリック先生が、ジタン先生に聞く。
「ユニコーンの角です。」
なんてモノを持っているのだ!?
ジタン先生が、ユニコーンの角を砕き、容器に入れて磨り潰し粉にする。
その粉をコスモの傷口に振りかける。
すると、傷口がテカテカと光沢を帯びる。
「うん、大丈夫そうだ。」
再び、磨り潰した粉をコスモの傷口に振りかけると、徐々に光沢が無くなり、傷口がかさぶたとなる。
「誰か、水を頂けないか?」
ジタン先生の言葉に、すぐにグレアム様が、水筒を差し出さてくれた。
ユニコーンの角をすり潰し粉状になった物が入っている容器に、水を入れる。
「黄金のドラゴン様。こちらを飲んでください。」
と、ジタン先生は、コスモの口元へ行き伝える。
コスモは、ゆっくりと口を開ける。
その口にジタン先生は、ユニコーンの角の粉が混ぜられた水を流し込む。
”フウーーー”
と、コスモの鼻から息が出され、ホッとしたように息遣いが穏やかになった。
「コスモ・・・苦しくないか?」
ヘンリー様の問いにコスモは、ギューと穏やかな鳴き声を出した。
「もう大丈夫だ。」
デリック先生の言葉に、一同が肩の荷を下ろす。
◇ ◇ ◇
”ザザザザ ザザザザ”
と、微かに遠くの方から波音が聞こえる。
イリス帝国から出て、ナーガ王国のウィリアム伯父様の所へ少しの間滞在し。ナーガ王国を出る際の船を待ちをしている時に、海岸近くにある城塞ウルナムに泊めさせてくれた。
あの時に聞いた波の音に似ている。
前世にて、モナ・リザの作者が埋葬されている教会と、隣接した城に似ている城塞ウルナム。
あの時と同じように、心がバラバラに砕け散りそうな感覚。
いっそ、バラバラになった方が楽ではないかと思う程に痛い気持ちが、自分の中に大きく存在している。
”ザザザザ ザザザザ”
波の音が、心を崩れ落ちるようにさらっていく。
そんな感覚に襲われている。
”ザザザザザザ・・・ブワッ・・・ササササ・・・”
波音と感じている音色が、別の音へと変わり、風が通り過ぎていく感覚がし、目を開く。
「ここは・・・。」
目の前に見えるのは、人工的に作られた広場。
”ササササ・・・”
と、葉と葉が擦れる音が風によって聞こえて来る。
私は、公園のベンチに座っていた。
私の斜め前に止められている赤い自転車。
そう、あの時・・・中学校の入学式の帰りに寄った、あの場所。
「大丈夫よ。大丈夫。」
私は、ベンチから立ち上がり声のした後ろを振り向く。
そこには、若い老婆と高校生ぐらいの男性がいた。
「あの時の・・・。」
中学校の入学式の後で寄った公園であった2人。
「そんなに不安にならなくても、ちゃんと幸せはつかめるわ。」
若い老婆が私の右手を握る。
「だから、諦めないで・・・。」
高校生ぐらいの男性が私の左手を握ってくる。
「絶対に諦めるな。」
2人の励ましの言葉と、手の優しい温もりが伝わってきた。
”ポロポロ”
と、気が付けば涙を流していた。
「私は・・・私は・・・」
”フルフル”
私は、左右に首を振り涙を止めようとする。
「幸せの感じ方が・・・変わっていた事に・・・気が付きました。」
首を左右に振って涙を止めようとしたのに、涙が溢れて来る。
「私の幸せが・・・ヘンリー様の中に感じる事に・・・。」
”ぎゅっ”
若い老婆が私を抱きしめてくれる。
”ぎゅっ”
高校生ぐらいの男性が、握ってくれている手に力に力が入った。
「とても、嬉しくて・・・とても、恥かしくて・・・愛おしい。」
だから・・・離れ離れになるのが嫌だった。
「あなたが今、感じるようになった幸せのカタチ以外のモノも、あなたの知らないいろいろな幸せのカタチはあるはずよ。これまで違う幸せのカタチで、いきてきたのだから。」
抱きしめてくれている若い老婆が、私の頭を撫でながら言ってくれた。
「でも、あなたがそのような幸せのカタチを見つけられて、私はうれしいわ。」
「だから、幸せを諦めてはダメだ。絶対にダメだ!どんなにカタチが定まらないと感じても、カタチを理解できるときは来る。」
”コクコク”
私は、頭を上下に振る。
「生きたくても、生きられない人々を知っているだ。」
イリスの革命で命を絶った人たち。
そして、父様も母様も生きて、家族4人でドラゴニアで暮らしたかったはず。
それが、出来なかったのだ。
「生きれる命を・・・生きなくては、相手の気持ちを汲んでいる意味も、これまでの幸せのカタチも意味がなくなる。」
高校生ぐらいの男性に握られている手が、念を込めるように額に持って行かれる。
「だから、生きなさい。」
若い老婆と高校生ぐらいの男性が一緒に言う。
私は、何度も頷く。