急変
「ウィル―ーー!!」
と、慌てる感じに、こちらに小走に走って来る陛下。
サーシャの見送りに呼んでくれなかったのを怒るのかな?
それにしても、陛下が走る姿を見るとはな。
威厳がという前に、笑えるな。
「サーシャが危険だ!!!」
何だと?!
一瞬で、場の空気が変わる。
「どういうことですか?!」
ロゼリス殿が陛下に向かって言う。
陛下の手に握られた書状が、私に差し出される。
それを見ると、すぐにロゼリス殿に渡す。
「兵を出せ――――!!!」
私は叫ぶ様に伝える。
・・・希望を失うわけにはならない!!
◇ ◇ ◇
「ヘンリー様。私は自分が思っていた以上に、幸せ者なんだと、今回ナーガ王国に来て感じました。」
私は、ヘンリー様に伝えると、ヘンリー様はいきなりため息を付いた。
何事だと思った次の瞬間、ヘンリー様に、頭の後ろから手を回され、キスをされる。
それも、しっかり濃厚な、逃げ場なしの羽交い絞めにされているキスである。
地上からは、コスモを崇め称えている人たちが、私たちを見ている。
上空では、ドラゴンに乗っている者たちが、こちらを見ている。
・・・どうすることも出来ない。
そして、誰も助けてはくれない。
ああ、デリック先生が呆れ顔でこちらを見ているよ。
にんまり顔で見ているチェスターさんも拝見できます。
もう・・・やめて下さい。
私は、ヘンリー様の胸をポカポカと叩く。
集中できないので、叩く力がへなちょこパンチでしかないのは、分かっているが、私の心が限界です。
ゆっくりと、唇が離れていく、目の焦点が合わないままヘンリー様を見ると、すぐにヘンリー様の腕の中に閉じ込められるように抱きしめられる。
「サーシャを幸せにするのは、この俺だ。」
拗ねたように言うヘンリー様。
「ヘンリー様から、しっかり幸せを貰っています。それにプラスアルファがある事に、より幸せを感じているのですが・・・。」
独占力が露わになって、いきなりキスしたのですか?
「私も、ヘンリー様を幸せにしたいのですが、どうしたらいいですか?」
ヘンリー様が一瞬止まった感じになる。
私は、ヘンリー様を揺さぶると、すぐに口を開いた。
「サーシャから俺にキスして欲しい。うん、今はこれでいい。」
サラッと、簡潔に、納得したように言って来た。
「今は無理です!」
私もサラッと口にする。
「俺の幸せを思っていると言っているのに、キスしてくれないのか?」
「ですから、今は無理です!」
私は、顔を真っ赤にして言う。
「早くしてくれないと、また俺からキスするよ。」
やめて下さい。
私は、首を左右に振る。
「そんな無理な事をするなよ。可愛い過ぎだろう。」
ヘンリー様の指が、私の顎に来る。
私は、そっぽを向く。
「ヘンリー様。海に出ますよ!海に!!」
私は、誤魔化すように、海が見えてきた事を伝える。
青い海がキラキラと輝いていた。
空の眩しさと、海からの照り返しの眩しさの双方が襲って来る。
日焼け止めの塗り薬をしっかり塗った事を思い出す。
”ズブッ”
と、鈍い音がする。
「コスモ!!!」
デリック先生の悲鳴に聞こえる声を聞きながら、目の前が青一色になっていった。
”ザブー――――ンッ”
”コボコボ”
息を出したらダメでしょう。
泳がなくては・・・。
前世の水泳の授業で、水の上に浮くのが好きだったでしょう。
さあ、遠慮なく浮きなさい。
・・・服が重いよ~。
手を使って泳ぐしかない。
解っているなら動こう。
私は、必死に手をかき、水面に顔を出す。
「ヘンリー様!!!」
と、水面に上がると、周りを見回す。
”ザパーーーッ”
と、いきなり手を引かれて、上空へと飛ぶ。
「シスター。大丈夫ですか?」
ハワード様が、私の手を取り、オベロンに乗せてくれた。
「ヘンリー様は!?コスモは!?」
私は、辺りを見回すと、ヴァルナとペルディータが、一斉に海に入る。
”ザパーーーッ”
と、コスモのしっぽをヴァルナが咥え、ペルディータがコスモの腕を加えて、海面を出て来る。
”シュンシュンシュン”
と、弓矢が放たれる音がする。
”ブオ―――――ツ”
オベロンが口から竜巻を発生させ、弓矢を跳ね返す。
コスモに装着されている手綱を掴んでいるヘンリー様が、竜巻に揺さぶられながら、手綱をつたわりながらコスモに乗る。
弓矢が放たれている陸に向かってドラゴンたちが向かう。
”バリバリバリバリ”
と、アリエルが地上の敵に向けて、広範囲に雷を打つと、弓矢が向かってこなくなった。
こうして、コスモは地上に降ろされる。




