涙の権利
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「2度ほど、ピューゼンとの戦いを経験している父が言っていた話だが、60年前の終焉の戦いは、これまでの戦いとは、全く違うと、そう言っていた。」
ヘンリー様はウィリアム伯父様に、60年の前の戦いでは、負傷した兵が戦場に戻ってくるのを結構見た事を説明している。
きっと、140年前は、衛生管理が出来ていないから、傷の治りが遅いか、亡くなったからだろう。
もしくは、エリック様の様に戦線離脱して自宅療養となったか・・・。
それにしても、この世界でも、戦いから医療に衛生管理が必要と知るとは・・・悲しい。
人と人との殺し合いに得るモノに、果たして誇りを持っていいのだろうか?
胸を張っていいモノなのだろうか?
その胸には、希望しかないのだろうか?
もし、そうなら自分も含めて、他人ですら軽蔑する。
そう、私は、私自身を軽蔑している。
イリス帝国に、革命という戦いでしか、人々に希望を持たせるしか出来なかった。
一時期、亡命を辞めて、イリス帝国に留まり、何とかしようと考えた。
でも、それが出来ない程に、国が壊れていた。
戦いでしか国を豊かに出来ないと・・・。
いいワケだよね。
本当に、いいワケでしかない。
だって、人が人を殺すんだよ。
人を慈しむべきなのに、それが偽りだと言わんばかりに人を殺める。
そこに導いてしまった責任は、だれの責任と課すのだろうか?
皆で仲良く分け与えて、残酷なことに蓋をする。
その行動が、残酷の上乗せと気づいているのだろうか?
そもそも、残酷という言葉が悪いのか?
残った酷って・・・残すも、何も、大々的に酷でしかないのに・・・嘆かわしい事だ。
「サーシャ。どうしたんだ?」
と、いきなりヘンリー様に腕を引かれて、ヘンリー様の顔が目の前に来る。
・・・心臓に悪いです。
えっと、ヘンリー様。もう片方の手で、私の頬に触れないで頂けますか?
・・・非常に心臓に悪いです。
例え、もっと顔のアップを見ていようとも、心臓に悪いには、変わり在りません。
「何故、そんなに悲しい顔をしているのだ?」
ヘンリー様の一言に、私は顔を避ける。
・・・苦しいと、思ってしまったからだ。
だが、すぐに頬に触れていた手が、私の顎を掴み、引き寄せられる。
「今にも泣きそうな顔をして・・・泣いていいんだよ。」
そう言い、私を引き寄せて抱きしめてくれる。
ヘンリー様の優しい行為に、私は痛みを感じながら、首を左右に振る。
甘やかさないでください。
・・・私に泣く権利はないのです。
それどころか、癒されてもいけない。
癒されれば、その罪の責任に、蓋をして終わりにしてしまう。
私には、人と人とが殺し合う場に導いてしまった責任がある。
「放してください。」
私は、ヘンリー様の腕の中でもがくが、放してくれない。
「サーシャ。どうしたんだ・・・説明して貰わないと、放せない。」
ヘンリー様はしっかり私を抱きしめて、放してくれない。
「・・・ダメ・・・ダメなの・・・。」
目頭が熱くなっているのは解っている・・・でもダメ。
視界がぼやけているのも解っている・・・・でもダメなの!!
「何が、ダメなんだ?」
ヘンリー様、優しく囁かないで、優しく頭を撫でないで・・・。
お願い・・・今すぐ、私を罰してください。
さもないと、罪に蓋をしてしまう・・・。
”ツーーー”
「ダメ、ダメ・・ダメ・・・私に・・泣く権利は・・・ないの。」
ヘンリー様の手が私の頬に触れ、指で涙を拭ってくれる。
頬から伝わるヘンリー様の温もりに、涙が溢れて止まらなくなる。
・・・・止めなくてはならないのに。
「どうして、泣く権利がないのだ?」
”ブルブル”
と、私は首を左右に強く振る。
ヘンリー様には、伝えられない。
涙を止めないといけない。
「・・・涙、流れているね。」
再び、ヘンリー様は私の頬を伝う涙を拭ってくれる。
「涙を意識させないでください。」
「そう言っても、涙は流れているし・・無理だね。」
ヘンリー様は、私の体を引き寄せる。
「甘やかさないで・・・。」
「それこそ無理だ。とことんサーシャを甘やかしたいからね。こんな気持ちにさせるのはサーシャだけないいだよ。」
ヘンリー様は私の額にキスを落とす。
「ゴホンッ・・ヘンリー殿。私の目の前だという事をご存じですか?」
ウィリアム伯父様が、ヘンリー様に注意をする。
本当に辞めてくださいヘンリー様。
「無理ですよ。目の前に悲しんでいるサーシャがいるのに、何もしないなんて酷ですよ。サーシャにも俺にも。」
ヘンリー様のこの言葉に、ウィリアム伯父様はすんなりと納得してしまい『確かに』と、言葉をこぼした。
「サーシャ。イリス帝国の事で辛い思いをしているのは解っているが、どのように辛いか、ヘンリー殿に伝えないとならないと、解っているはずだ。」
ウィリアム伯父様は、私にもっともらしい言葉を諭すように伝えて来るた。
解っている。解っているの・・・でも、それでも・・・。
私は、先ほどよりも首を激しく振る。
「解っていても嫌っ!!」
駄々をこねるとはこういう事なのだろうか・・・。
そうであっても・・・言えるワケがない。
”ギューッ”
と、ヘンリー様の腕の中にすっぽり入るように、抱きしめられる。
「サーシャは、イリス帝国に『情けないモノしか残してあげられなかった』と、昔、言ってたよね。」
はい、言いました。
殺し合いをさせるという、情けなさをイリスの人々に残してしまいました。
「でも、こんなにも希望を残しているのに、サーシャは浮かない顔をしているのは、イリス帝国に対して罪悪感からだよね。」
むしろ罪悪感しかありません。
「それでも、ドラゴニアに来てくれて・・・俺と出会ってくれて・・・俺を好きになってくれて・・・ありがとう。」
優しくしないで・・・。
「俺にも、サーシャの苦しみを分けて欲しい。」
それは、絶対に出来ない。
「これは、私の罪です。分けるなんて甘やかして、その罪に蓋をする事は、死に追いやった者としてしてはいけない。」
私は、ヘンリー様に向かって訴える。
「私は、希望を盾にして、たくさんの人々を死に追いやった。
これしか方法が無くても、出来る限りの事をしたとしても、それでも、人を殺す場をつくってしまったのだ。
その事をヘンリー様とウィリアム伯父様に強く言い聞かせる。
「では、その罪を償うために、サーシャは革命後のイリス帝国に戻ってくるのか?」
ウィリアム伯父様の言葉に私は、ハッとしてヘンリー様を見つめる。
「もう、それが出来ない身だ。それに、そんな事はさせない。」
ウィリアム伯父様の断言する言葉に今度は、ウィリアム伯父様の方を向く。
「サーシャは、革命を早く終わらせるために打ち出した案だけで充分だ。それに、罪を償いために新生イリス帝国に戻ってきたら、否応なしにサーシャは女帝にされるだろう。」
そんなの無理に決まっている。
私は、目でウィリアム伯父様に訴えた。
「無理なのは解っている。例えヘンリー様と全く婚姻関係でなかったとしてもだ。」
ウィリアム伯父様は、ふと苦笑いを私に見せる。
「ヘリオドールの申し子なら尚更だ。」
ナイチンゲールが活躍したクリミア戦争
これまで何度も争いが起きていますが、再び起きてしまいました。
とても、嘆かわしいです。
メイド編から傷の感染症の事を上げていて、今回の鈴蘭の心ローズの心編でも、ナーガ王国に来た時にイリス帝国の革命の話に触れねばならぬと、予てより思っていました。
ですが、今回、この時期に、これですか?
冗談であって欲しいと思っても、事実は戦闘が開始。
文章内にて、ナイチンゲールが活躍したクリミア戦争で終わらすはずが・・・。
すみません、できませんでした。
大幅にまわり道をしていますが、ご了承ください。
そして、情けないのですが、修正に困っていたりもします。
修正に長い事かかりそうですが、頑張ります。