遠くに感じられる・・・
遅くなりました。
「姉さま、ドラゴニアは、ハミッシュ陛下から、カティス王太子殿下に移行しつつあるわ。」
水面下で、それを期待しているのだ・・・ハミッシュ陛下自身も。
息子の成長が嬉しい父親の顔と言うのだろうか。
「ハミッシュ陛下も、4大公爵家も、カティス王太子殿下が、国王陛下として君臨できる時期を待っているのよね。」
私は、カーテン越しの姉さまにニッコリと微笑む。
「王となる人が2人もいて、国が成り立つのかしら?」
姉さまは、カティス様とヘンリー様の2人を指している事を伝えて来た。
「そもそも姉さまは、何故、ヘンリー様を王にしたいのですか?」
コスモと絆を結んだだけで、王にさせるのは、おかしいと言ったはずだし・・・。
他にどのような理由があって、そこまで言うのかしら?
「呆れた・・・サーシャはヘリオドール一族の者でしょう。王家に取って変わる存在にならなくては、いけないのではないの?」
姉さまは、ヘリオドール一族をそのように思っているのか・・・違う気がするのだけどな。
「もし、王が名君だったとしたら、こちらが逆にやられる。そうなったら、ヘリオドール家の威厳が損う事になるわ。」
ヘリオドール家にとったら、そちらの方が怖いはずだ。
「国に、ヘリオドールの威厳を知らしめ、国の政の流れをスムーズにする。それが、ヘリオドール一族の考えではないのかしら?」
実際にウィリアム伯父様に聞いてみないと判らないけど・・・。
一応、聞いてみないと判らない事を姉さまに伝えると、吐き捨てるように『うるさい』と、言われてしまった。
「サーシャ。私が聞きたいのは・・・。」
何をでしょか?
私は、首をかしげながら、姉さまに問いかけた。
「ルベライト公爵家の跡取りの嫁が、ここ数世代続けてメイドだったので、ヘンリー殿の嫁は、貴族の娘を娶るようにという遺言がされているわよねぇ・・・。」
ゲームの公式設定の内容ですね。
私が、サーシャとして生まれる前から知っている内容です。
「それって、サーシャが貴族の娘だから、愛してくれてるのでしょう。それも、ヘリオドール一族の血が流れているのだから、尚更ではないの?」
姉さまは、悪役令嬢のような振る舞いをするように、嫌みったらしく伝えてきた。
地位や名誉の肩書を愛する・・・国を出る前の私に、向かられた男性たちの眼差し。
だが男性たちが、次に見るのは、姉さまの胸。
人によっては、姉さまの胸から目が離せなくなる男性もいたわね。
地位や名誉のないサーシャ・カーネリアンとして生きていた時期、そんなに不自由せずに生活出来ていたわよね。
前世の記憶が、多いに役に立っている事も、そうだけど・・・・。
クラウンコッパー家に贈られてきていた貢物という資金源も、役に立っているのもあるけど・・・。
「うん・・・・ん?・・・う~ん・・・。」
「何、頷いているのよ。」
考え込みだしてしまい、つい頷き発してしまった声に、姉さまはウザがり、訴えてきた。
「当初、ドラゴニアを巡り、素敵な場所があったら、そこで一生を過ごす計画だった・・・。」
計画通りと言えば、そうなんだけど・・・。
クラウンコッパー公爵家の名に問題があるから、ゲームの攻略キャラを遠くから眺める程度で、静かに暮らそうとしていたのに・・・。
もろに、関係を持ってしまったのよね。
もし、聖ライト礼拝堂でハミッシュ陛下に会わなかったら、そのまま、ドラゴニアを巡る事になってたし・・・。
まあ、ルベライト領の温泉には惹かれるから、ピンクアメジの町か、港町のピンクスピネ、もしくは、ピンクカルサの町の、どれかの町で家を買い、生活の拠点にしていたと思う。
そして、その地に緑がない事で、海が瘦せている事を、領地の管理者であるリアルガー伯爵に訴えて、領地改革を進めると思うから、リアルガー伯爵家で、秘書みたいな仕事をしていたかもしれないわね。
そこで、私がクラウンコッパー公爵家の娘とバレてしまったと、すると・・・私の連行される先は、王宮ではなく、ルベライト城だわ。
そうなると、キャサリン様に出会わない。
・・・・ヘンリー様に、恋愛感情を抱く事が無くなる。
一瞬で、血の気が引き、よろけて浴室のドアに寄りかかった。
「姉さま。私は、ヘンリー様を好きになる為に・・・ヘンリー様を愛したいから、生まれてきたのかもしれません。」
前世で、人の愛し方を知らない私が・・・愛し方のやり直しをするために・・・この世界に転生をした・・・させてくれた。
・・・そうあって欲しい。
ヘンリー様に、今すぐ会いたいな。
この感情が、現実のモノであることを伝えたい。
同じ建物内にいるのに、凄く遠くに感じる。
胸が・・・熱くて、切なくて、溢れだしそう・・・。




