王と権力
遅くなりました。
リンドル国エメリー修道院
エメリー修道院には、中に孤児院もあるので、結構大きな施設となっている。
ドラゴンの来訪に、孤児院の建物から子供たちが出て来る。
そのドラゴンの中に、黄金のドラゴンであるコスモがいると判ると、修道院から一斉に人が出て来て、コスモを崇めに来る。
初めのうちは、コスモに群がるように人だかりが出来ていたが、そのうち子供たちは、3頭の白いドラゴンと遊びだし、コスモの周りに残ったのは、崇めまくる熱狂的な方々のみとなった。
慣れている感じのヘンリー様とコスモも、さすがに、土下座されて崇められる姿勢は戸惑っていた。
何度もヘンリー様は、『土下座はしないでください』『コスモも驚いているからやめて欲しいと言っている』と、訴えていた。
そんなこともあり、あっさりと修道院に一泊することができた。
だが・・・・。
「黄金のドラゴンを、野宿などさせられません。どうぞ、この建物の出入り口を壊してでも、建物の中で休ませてあげてください。」
修道院の管理者である老女が、ニッコリ笑顔で言って来た。
「出入り口を壊したことが原因で、建物が壊れたら、コスモが怪我します。」
ヘンリー様の一言に、老女はハッとするが、野宿をさせたくない気持ちも消えないでいた。
「なら、この建物で使用している絨毯を何枚か外に移動して貰って、その上にコスモを休ませたらどうですか?」
と、グレアム様が提案をしてくれた。
老女も、グレアム様の提案に納得してくれて、修道女たちで、建物の中に敷かれた絨毯を外に運び出す。
夜に近づいた頃、姉さまの泊まる部屋に私はいた。
入浴をしたいと言って来た姉さまに、逃げ出さない様に見張る為だ。
浴室内に、姉さまと私がいる。
一応、浴室の外には、修道女が3人ほど念のために待機してくれている。
「わざわざ、黄金のドラゴンを借りて、ナーガ国へ行く意味はあるの?」
姉さまの言った言葉に、私は首を傾げてしまった。
「ヘンリー殿は、自分の赤いドラゴンを国に置いて、王家から黄金のドラゴンを借りてきたのでしょう。」
「姉さま・・・ヘンリー様は、黄金のドラゴンのコスモと、絆を結んでいるのでますが・・・。」
私の言葉に今度は、姉さまが首を傾げた。
浴室内の時が止まってしまった。
そして、姉さまと私の目がパチクリしだし、時が動き出したが、それでも、互いの目のみ時が流れ出した様になっている。
「えっと、姉さま・・・お風呂に入っては・・・いかがでしょうか?」
そう言葉をかけると、姉さまは服を脱ぎだす。
やはり、姉さまの胸は大きい。
前世の漫画やアニメで、胸に何かを忍ばせるシチュエーションがあるが・・・出来てしまうだろう。
ゲームの世界が基準なので、お胸・・・重力逆らってますって、主張している気がする。
ゲームの世界であっても、ここは現実の世界。
重力よ、しっかり仕事をしているの?
チクショ・・・私の胸の谷間には、飴ちゃんも入らないわよ。
「ヘンリー殿は、王になろうとしないの?」
姉さまは、おかしな一言を放った。
「公爵になろうと・・・善良な公爵になろうとはしてますよ。」
私の答えに、姉さまはため息をついた。
「黄金のドラゴンの主なのよ。王になるべきお方ではないの?」
「そのような事をして、何か意味があるのですか?」
吐き捨てるように言い放った姉さまに、私は質問返しをした。
「偉大なるドラゴンなのよ。その権力も偉大なはずでしょう。」
そうかもしれない、先ほどの崇め方といい、私が想像していた以上に、黄金のドラゴンは、偉大なる権力を持っているのだと思う。
「もし、そのような理由でヘンリー様が王となったとしたら・・・黄金のドラゴンの権力とは、悲しいモノですね。」
カーテン越しでも、姉さまがイラついている表情をしているのだと、思わせる雰囲気が伝わってくる。
「黄金のドラゴンの子に、黄金のドラゴンが生まれた話は、聞いたことがありません。」
黄金のドラゴンと絆を結んだ者の子が、黄金のドラゴンと絆を結べるか以前に、そもそも、黄金のドラゴンが存在しているかの問題だ。
つまり、黄金のドラゴンは一世代だけの存在。
その一世代だけの人が、王となる為に、どれぐらいの人々が苦しむのだろうか。
元々の王族に民。
それに、例え王となったとしても、国を軌道に戻す為に、どれぐらいの苦労を人々に虐げる事になるのだろうか。
その事を姉さまに伝える。
「もし、王族が悪政を虐げているのなら、王となる為に動くべきと思います。でも、現国王のハミッシュ陛下は、立派に王としての勤めを果たしています。」
まあ、視察という名の旅行癖はあるが・・・。
「その王太子殿下であるカティス様も立派な方です。」
学園で流れて来る噂に、王太子殿下であるカティス様の事も耳に入ってくる。
役所の業務改善に力を尽くしているようだ。
最近は、国家鑑定士長官になったアーサー・カンラン殿の業務内容に着手する一方で、カンラン殿から、地方役人の業務内容を聞き、改善できる箇所を探しているようだ。
ハミッシュ陛下は、優秀な役人を中央に揃えて、優秀な役人しかいないとされるダンビュライトに近い西側に、役人としては、凡人もしくは凡人以下の役人を置き、公爵領の人たちに監視させる。
そして、『やあ、来ちゃったよ~』と、視察という名の旅行をして、王家も、しっかり地方を監視していると睨みを利かせる。
旅行好きならではのハミッシュ陛下だから出来て、そして許される事だろう。
でも、カティス様は旅行癖はない。
真面目にコツコツと仕事をこなす人だと聞いてる。
あえて良くない箇所を上げるとすると、今のところハミッシュ陛下並みの華はない・・・と、いうところだろう。
でも、学園の休憩時間中にライ様と、カティス様の話となると、カティス様押しになるのよね・・・。
ハミッシュ陛下の次の王が、カティス様で良かったという。
時代の流れが、ハミッシュ陛下から、カティス様に流れている感が、ひしひしと感じるのよね・・・。




