向かいます
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「サーシャ様、ご自身の立場を考えてますか?」
デボラの手に持っているのは、シンプルなボンネットの帽子。
私が、ナーガ王国へ行く際の日焼け対策として被る為に、王都で買って来た物だ。
「メイドから借りた物ですか?」
私は首を左右に振り、帽子屋へ行き買った物だと伝えた。
「なら、メイドに差し上げてください。」
私は驚き、理由を聞く。
「サーシャ様は、公爵家にほぼ嫁いでいる令嬢なんですよ。使用人のような者がする恰好を身に着けるのは、周りに貶される恐れがあります。」
そう言っても・・・あまり目立ちすぎる格好も良くないような・・。
私は、その旨を伝える。
「それでも、この帽子はやりすぎです。目的地がナーガ王国の宰相の家なのですよ。一般家庭にお忍びで向かっているのではありません。」
商人の娘もしくは、下級貴族の格好をするように言われてしまった。
あまり目立つ格好をしない方がいいと思って、飾り気のないが、素材のいい帽子を買ったのにな~。
「サーシャ様が、大量のレースとフリルを使っている物が苦手なのは、聞いていますが、極端すぎるのです。少しは取り込もうと努力してください。」
”コンコンコン”
と、ドアのノック音が聞こえて、お腹の大きいマリーと、どこかで見覚えのある女性が数人、箱を持って入って来た。
デボラは、持って来た椅子に座るように伝えて来る。
「座るのは、マリーではないの?」
お腹の子は、もう産まれても大丈夫な大きさになっていると聞いているんだぞ。
「マリーさんは、ソファーに座って、荷物の確認をして貰いますから、安心してください。」
デボラは、そう言い、マリーにソファーに行ってもらう。
私は、マリーが座るのを見てから、椅子に座る。
すると、箱からボンネットの帽子を取り出した。
ボンネットの帽子には、薔薇のコサージュが付いている。
「ま、ま、待って・・・レース生地はいいとして・・・薔薇のコサージュは・・・出来れば、鈴蘭がいいかな?」
私は、鈴蘭が婚約者の守護の花と、言われているのを伝える。
「そのような言い伝えを、聞いたことはございませんでした。」
帽子を持ってきた人たちが、お互い顔を見合わせながら言って来た。
「フィ・・・でなく、学園の生徒から聞いたのです。」
フィオナの故郷と言おうとしたが、事実は違い、私が悪役にならない為。フィオナが、私に鈴蘭のモチーフを身に着けさせる為に取った嘘だ。
ここで、フィオナの故郷と言えば、デボラの故郷でもあるので、嘘をついている事になる。
そうなれば、これまでの苦労が水の泡だ。
私は、悪役になりたくないので、嘘でも押し通す。
この際、鈴蘭の花が、婚約者の守護の花というのを広めようではないか。
嬉しい事に、帽子を持って来た女性の一人が『鈴蘭を店に取り込まなくては・・・。』と、言っていたので、まずは安心だ。
「レース生地の柄も、出来ましたら、鈴蘭かコスモスがいいかな?」
”ギラッ”
ソファーから、マリーが睨め付けて来ている。
「マリー・・・どうしたの?」
「コスモスは、ヘンリー様のイメージですから辞めましょう。桑の実はありますか?」
マリーは、店員に聞く。マリーって、コスモス嫌いだったっけ?
貝殻柄のレース生地のボンネットの帽子を購入する事になった。
そして、帽子を持って来た女性たちが、一年以上前のヴァネッサ様の誕生日のに、私の手が痙攣して、ドレスを着せてくれた人たちだと、思い出した。
◇ ◇ ◇
ドラゴンたちの背中の鞍が、いつもと違い大きな荷物を乗せる用物で、背負子のようになっている。
だけど、背もたれ付きの鞍に見えるので、乗る人間はいつもよりは快適に過ごせるようにも見える。
チェスターさんと絆を結んでいるペルディータの背負子には、姉さまがロープでぐるぐる巻きにまかれている。
姉さまの頭には、私が王都で購入したボンネットが付けられていた。
「サーシャ様。鞄にしっかり、日焼け止めとやけどの塗り薬が入ってますので、しっかり塗ってくださいね。」
私は、マリーにお礼を言う。
「あなたが生まれる前には、帰ってくるからね。」
と、マリーのお腹に声をかける。
マリーは、嬉しそうにお腹をさすった。
「行ってきます。」
城のみんなに見送られながら、ルベライト城を発った。




