願い
夕食が終わると、リディアちゃんは寝る時間に近づいている事から、ソフィーさんと食堂を出て行った。
食堂のテーブルには、食後のコーヒーが回収され、紅茶が出て来る。
すると、デリック先生が立ち上がり、私の方へと来る。
「お約束通り、お返しいたします。」
と、私の前にリュヌの銀の櫛が置かれる。
・・・母の形見の品。
「ヴァルナに、リュヌの銀の耐性は付きましたか?」
私の質問に、デリック先生は、首を左右に振る。
まだ、耐性が付いていないのね。
「最初の頃よりは、良くなっているのだけどね・・・。」
ルイーズさんも、ヴァルナにリュヌの銀の耐性を持って欲しくて、仕事の合間に見守っていたのね。
私はエリック様の方を見る。
「何かな?」
と、エリック様に話しかける前に察して、先に言ってくれた。
「姉を夏休みに入るまで、あのまま牢に入れておいて頂けませんでしょうか?」
エリック様は、微笑みを見せてくれる。
「一か月とちょっとぐらい任せていいよ。」
私は、頭を下げてお礼を言い、デリック先生の方を向く。
「明日、ここを発つ前に、形見をお渡ししますね。」
私は、デリック先生に笑顔を見せるも、デリック先生は申し訳なさそうな顔をする。
「ナーガ王国へ行けば、形見の品を手放すのでしょう。少しでも手元に置いておくべきでは?」
私は、首を左右に振った。
「元々、ナーガ王国に捕虜になったドラゴンと国家鑑定士、それにドラゴン騎士の解放をお願いした時に手放した物です。」
私の事を調べるために、派遣した諸々が、ウィリアム伯父様に捕まり、その者たちの解放をお願いするために形見を品を渡した。
それが、姉さまのホルンメーネ国から脱走した事を伝えるために、再び私の手元に来たのだ。
・・・昨日の姉さまに会った後に、すぐに返されたら、見るのも嫌になったであろう品だ。
今は、周りに私を想ってくれる人々がいるから、まともに見る事が出来る。
なら・・・周りの人々の為に使ってあげたい。
「人々の為に使った品で、再び人々の為に使うように戻された品でもあります。」
ウィリアム伯父様が私の戻した理由も、そう言う事なのだろう。
「ですから、ナーガ王国に行くまでの少しの間ですが、人々の為に伝うべき品なのですよ。」
私が、そう言うと、デリック先生は頭を下げてお礼を言ってくれた。
◇ ◇ ◇
「サーシャ。大丈夫なのか?」
と、ヘンリー様は、心配そうに私の手を握っている。
「そばにヘンリー様がいてくれますから大丈夫です。」
私は、そう言うと、地下牢への扉を開いた。
「姉さま。」
「何しにきたの?」
と、嫌々そうに姉さまは言って来た。
「夏休みに入ったら、姉さまをナーガ王国に連れて行くことになりました。」
「何ですって!」
姉さまはいきなり鉄格子を握り、私に訴えかけてきた。
「元々、ホルンメーネから出たら、ヘリ―ドール家が捕まえに来るという流れだったはずです。」
そう言う約束で、ウィリアム伯父様から、姉さまたちのホルンメーネでの自由をお願いしたのだ。
それが出来なくなった今、ナーガ王国に連れて行かないとならない。
私は、姉さまに見えるように、手に持っている物を見せる。
「母さまの形見の櫛です。これをウィリアム伯父様に差し出せば、内容にもよりますが、お願い事を一つ叶えてくれると思います。」
そう言うと、やはり姉さまは、自分の自由を言って来た。
「姉さまの自由をお願いしたら、姉さまも私も、きっとウィリアム伯父様に殺されますよ。」
私は、再度、内容にもよる事を伝える。
「自由以外何があるのよ・・・・そもそも、何で私に聞くのよ。」
「姉さまが、母ステラを慕っているから、姉さまの為に、母の形見を使うべきと思ったからです。」
私の一言に、姉さまは面食らい考え込む。
「それで、どのようなお願いをしますか?」
「簡単に思いつくわけないでしょう」
それも、そうだわ。姉さまのいう通りだ。
「夏休みまで、一か月少々時間がありますから、ゆっくり考えてください。」
そのように言い、その場を立ち去った。