ぬくもりの行方
本当に遅くなって申し訳ないです。
「姉は、母ステラを慕っていました。」
慕っていたからこそ許せずに、新たに来た義母と一緒になって、私をいじめていたのだろう。
その事も、キャサリン様に伝えた。
「ステラさんの事を慕っているのなら、ステラさんの代わりとなってサーシャを守るべきよ。」
キャサリン様は、少しふくれっ面をしながら言う。
「サーシャをいじめるロゼリスさんを見たら、ステラさんが悲しむわ。」
キャサリン様は、本当に姉さまが、母さまであるステラを慕っているとは思えないと言ってくれた。
キャサリン様は、私にタオルを渡した。
そして、背中を洗って貰うために、私に背中を向ける。
私は、キャサリン様の背中を渡されたタオルで洗いながら、別の観点から考える。
「もしかして・・・母さまも、私が女だった事がショックで嫌っていた。」
それなら、辻褄が合う。
生まれた子が、女の私でショックを受け、母ステラが私を嫌っているのを見て、そのまま義母と一緒に私をいじめた。
前世に引き続き、私は実の母親に嫌われていたのか・・・・。
「サーシャ?」
と、キャサリン様は首を後ろに向け私を見る。
どうやら、背中を洗っている手が止まっていたようだ。
私は、手を動かした。
「キャサリン様。もし、神様が許してくれるなら、次に生まれる時は、キャサリン様の子として生まれたいです。」
もし、その願いが叶うなら、それだけ幸せなのだろう・・・。
リオンが死してなお、ドラゴニアを守ってくれている優しさは、きっとキャサリン様の子として生まれた影響もあるだろう。
相手の心を読み解き、寄り添おうとする想いが、人の心を豊かにさせる。
キャサリン様のような人になりたい・・・。
そう思っても、無理なのは判ってしまう。
自分の置かれた環境が、どれほど乏しいのか、かけ離れているのか。
だけど、そう思えるだけでも、幸せなのかもしれない。
「サーシャ。私の子として生まれたいと、言ってくれてうれしいわ。」
やはり、キャサリン様は、こんな私だとしても、うれしいと言ってくれる。
・・・私って、幸せなんだな。
「でもね。お腹を痛めて生んでなくても、サーシャは私の子よ。」
キャサリン様は、私の方に体制を向けて、私の手からタオルを受け取る。
「お腹を痛めなくても、心を痛めて生まれた子よ。だから、サーシャは間違えなく私の子よ。」
・・・・・っ!?
何か言いたくて、伝えたくて口を開けるも、言うべき言葉が解らずに、口をパクパクさせるしか出来ない。
その、代わりに、目から大量の涙が溢れて来る。
「まあまあ・・・洗い流しましょうね。」
キャサリン様は、シャワーヘットを持ち私にシャワーをかける。
「サーシャ、頭も洗いましょう。」
そういい、キャサリン様に成すがままに、キャサリン様に頭を洗って貰い。交換でキャサリン様の頭を洗うと言ったが、『また、今度ね。』と、言われてしまい、先に温泉に浸かる。
浸かりながら、周りの人々に恵まれて幸せだと、ドラゴニアに来て本当に良かったと思った。
こんな贅沢な幸せ。
貰ってばかりで・・・何も・・・返していない。
私は、自分の事ばかりで、何も返せていない。
それどころか、迷惑ばかりかけて・・・情けない。
・・・・いつか、嫌われてしまう。
でも、どうすればいいのか・・・わからない。
「サーシャ・・・?」
髪を洗って来たキャサリン様が声をかけてきた。
「私・・・・何も、返せない。それどころか、迷惑ばかりで・・・私って・・・なんて情けない人間なんだろう・・・いつか・・・嫌われてしまう。」
「何を言っているの、嫌うわけないじゃない。」
キャサリン様は私の両肩を掴む。
「でも、私は温かなモノを持っていない。そんな環境で育っていないから・・・人が人らしく生きていく当たり前なモノが・・・乏しくて・・・温もりを貰ってばかりで・・・何も返せない。」
キャサリン様は私を抱きしめる。
「人の温もりをわかっているだけでいいのよ。」
そんなのだめ。
私は首を左右に振る。
・・・貰ってばかりでは、いつか嫌われる。
「今は、それでいいの。いつかは温もりを返せばいいのよ。貰っているばかりではダメと思っているだけで、今はいいの。」
キャサリン様は、体勢を変えて、私の横に、肩と肩が触れる位置に座る。
「手探りでも感じているのなら、いつかは返せるわ。今は貰っていればいいの。楽しみに待っているわね。」
私は頷き、涙を流した。