表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

330/423

ぬくもりの行方

本当に遅くなって申し訳ないです。

 「姉は、母ステラを慕っていました。」

 慕っていたからこそ許せずに、新たに来た義母と一緒になって、私をいじめていたのだろう。

 その事も、キャサリン様に伝えた。

 「ステラさんの事を慕っているのなら、ステラさんの代わりとなってサーシャを守るべきよ。」

 キャサリン様は、少しふくれっ面をしながら言う。

 「サーシャをいじめるロゼリスさんを見たら、ステラさんが悲しむわ。」

 キャサリン様は、本当に姉さまが、母さまであるステラを慕っているとは思えないと言ってくれた。

 

 キャサリン様は、私にタオルを渡した。

 そして、背中を洗って貰うために、私に背中を向ける。

 私は、キャサリン様の背中を渡されたタオルで洗いながら、別の観点から考える。 

 「もしかして・・・母さまも、私が女だった事がショックで嫌っていた。」

 それなら、辻褄が合う。

 生まれた子が、女の私でショックを受け、母ステラが私を嫌っているのを見て、そのまま義母と一緒に私をいじめた。

 

 前世に引き続き、私は実の母親に嫌われていたのか・・・・。

 

 「サーシャ?」

と、キャサリン様は首を後ろに向け私を見る。

 どうやら、背中を洗っている手が止まっていたようだ。

 私は、手を動かした。

 「キャサリン様。もし、神様が許してくれるなら、次に生まれる時は、キャサリン様の子として生まれたいです。」

 もし、その願いが叶うなら、それだけ幸せなのだろう・・・。

 リオンが死してなお、ドラゴニアを守ってくれている優しさは、きっとキャサリン様の子として生まれた影響もあるだろう。

 相手の心を読み解き、寄り添おうとする想いが、人の心を豊かにさせる。

 キャサリン様のような人になりたい・・・。

 そう思っても、無理なのは判ってしまう。

 自分の置かれた環境が、どれほど乏しいのか、かけ離れているのか。

 だけど、そう思えるだけでも、幸せなのかもしれない。


 「サーシャ。私の子として生まれたいと、言ってくれてうれしいわ。」

 やはり、キャサリン様は、こんな私だとしても、うれしいと言ってくれる。

 ・・・私って、幸せなんだな。

 「でもね。お腹を痛めて生んでなくても、サーシャは私の子よ。」

 キャサリン様は、私の方に体制を向けて、私の手からタオルを受け取る。

 「お腹を痛めなくても、心を痛めて生まれた子よ。だから、サーシャは間違えなく私の子よ。」

 ・・・・・っ!?

 何か言いたくて、伝えたくて口を開けるも、言うべき言葉が解らずに、口をパクパクさせるしか出来ない。

 その、代わりに、目から大量の涙が溢れて来る。

 「まあまあ・・・洗い流しましょうね。」

 キャサリン様は、シャワーヘットを持ち私にシャワーをかける。

 「サーシャ、頭も洗いましょう。」

 そういい、キャサリン様に成すがままに、キャサリン様に頭を洗って貰い。交換でキャサリン様の頭を洗うと言ったが、『また、今度ね。』と、言われてしまい、先に温泉に浸かる。

 浸かりながら、周りの人々に恵まれて幸せだと、ドラゴニアに来て本当に良かったと思った。

 こんな贅沢な幸せ。

 貰ってばかりで・・・何も・・・返していない。

 私は、自分の事ばかりで、何も返せていない。

 それどころか、迷惑ばかりかけて・・・情けない。

 ・・・・いつか、嫌われてしまう。

 でも、どうすればいいのか・・・わからない。

 「サーシャ・・・?」

 髪を洗って来たキャサリン様が声をかけてきた。

 「私・・・・何も、返せない。それどころか、迷惑ばかりで・・・私って・・・なんて情けない人間なんだろう・・・いつか・・・嫌われてしまう。」

 「何を言っているの、嫌うわけないじゃない。」

 キャサリン様は私の両肩を掴む。

 「でも、私は温かなモノを持っていない。そんな環境で育っていないから・・・人が人らしく生きていく当たり前なモノが・・・乏しくて・・・温もりを貰ってばかりで・・・何も返せない。」

 キャサリン様は私を抱きしめる。

 「人の温もりをわかっているだけでいいのよ。」

 そんなのだめ。

 私は首を左右に振る。

 ・・・貰ってばかりでは、いつか嫌われる。

 「今は、それでいいの。いつかは温もりを返せばいいのよ。貰っているばかりではダメと思っているだけで、今はいいの。」

 キャサリン様は、体勢を変えて、私の横に、肩と肩が触れる位置に座る。

 「手探りでも感じているのなら、いつかは返せるわ。今は貰っていればいいの。楽しみに待っているわね。」

 私は頷き、涙を流した。

 

 

 

 

 


 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ