葬送の切望
クレシダが亡くなり1ヵ月が過ぎた。
クレシダ・ラリマー邸は、光を失ったように暗かった。
ドラゴンは亡くなれば、ドラゴンの大樹の鎮魂の葉がドラゴンを迎えに来てドラゴンの大樹へと埋葬される。
金色の紅葉のような葉がドラゴンの全てを持っていく。
手元には何も残らない。
少し違うか・・・流れた血は残っていた。
相当苦痛を虐げられていたことを物語るほど無残に残っていた。
だから、なお一層悲しいのだろう。
だけど、クレシアが残した物はこれしかないのだ。
だから、誰も手を付けない。
無残に残したままだった。
クレシダが残したモノに刻みつけ、自らを諫め慰めるように・・・。
そして、もう一つ悲しみが起きようとしている。
クレシダと絆を結ぶことで、寿命を永らえていたナイジェルさん。そして伴侶の絆を結んだケートさんは、クレシダの絆がない今、寿命が尽きようとしている。
私の生まれた国の書物に、大体1ヵ月ちょっとで命を尽きると言われている。
亡くなる数時間前に一気に髪のみが老いると書いてあった。
だが、書物に書かれている現実と目の前の現実は違う。
10日前より2人とも床に伏していた。
食事ものどを通らず、クレシダが最期に消化できた焼きおにぎり風雑炊を食べていた。
・・・心がこうさせたのだろう。
心が折れ、身体に不調を訴えた結果。
2人して床に伏している。
気丈なふるまいをする騎士をこうまでする。
それほど、クレシダはナイジェルさんにとって大きな存在だったことを示している。
「ジェローム。このラリマー家の家督を譲る。」
ナイジェルさんが、皆を寝室に集めてから、ベッド上で起き上がり言う。
「本音を言えば、ジェロームが伴侶の絆を結ぶ相手を連れてきて、俺が『祖父ちゃん』と呼ばれようになってからと、思っていたが無理のようだ。」
悲壮感のある微笑みを見せるナイジェルさん。
ジェロームさんも悲壮がプラスされた困惑な顔をする。
「皆、まだまだ若く先行きが心配なジェロームだが、このラリマー家ののために力を貸して欲しい。」
ナイジェルさんが頭を下げる。
「私からも頼むわ。」
隣のベッドで休んでいたケートさんもベッド上で起き上がり、そして頭を下げる。
「そんな、当然のことです。心配しないでください。」
ドミニクさんが代表して言う。
・・・私は、ルベライト公爵家に行かないとならない。
クレシダが亡くなってから1週間後、ハミッシュ陛下から手紙が届いた。
ラリマー家が落ち着いたらルベライト公爵家に言って欲しいという手紙だった。
ドミニクさんにはこのことを伝え、2ヵ月ここにいることをドミニクさんと決めた。
残り、私がラリマー家にいる期間が、1ヵ月となろうとしていた。
クレシダ・ラリマー邸は、ジェロームさんと絆を結んだマブというドラゴンの名をとって『マブ・ラリマー邸』となった。
屋敷の表札の名札が変えられても、心機一転の気持ちになれないでいる。
それは、屋敷の者も、ハウラの街の者たちもそうだった。
「サーシャ殿。ケート様がお呼びです。」
ドミニクさんに言われ私は寝室へ行く。
”トントントン”
と、寝室の扉をノックして入る。
「サーシャです。」
そういうと、ケートさんがベッドの近くまで来るように言われ、近くまで行くと、椅子を用意するように近くにいるメイドにケートさんは言った。
私は、自分で用意するといい、椅子を用意すると椅子に座る。
「ナイジェルと話し合って、あなたにお願いがあって呼んだんのよ。」
ケートさんは、憂いに満ちた笑顔を私に見せる。
「私たちの髪が白くなったら歌を歌って欲しいの、クレシダを見送ったあの歌を・・・できれば皆で歌って欲しいわ。」
理由を聞いたら、ケートさんが初めてナイジェルさんとクレシダにあったきっかけがあの歌だったことを伝えてくれた。
ケートさんは代々傭兵をしている一族の娘で、彼女も女傭兵として働いていた。
たまたまケートさんが口ずさんで歌っていたら、クレシダがナイジェルさんを乗せケートさんのもとへ空から降りてきたのが始まりとか。
「歌があったから私はクレシダに会い、ナイジェルと恋に落ちた。」
二人は見つめあいお互い微笑む。
「私にとって伴侶の絆は、ナイジェルとの絆だけでなく、クレシダとの絆とも考える。だから伴侶の絆を結んだ時、私の歌はクレシダのモノと心に決めたのよ。」
子供に歌をせがまれた時も、クレシダがいなければ歌わなかった事も言った。
「だから、歌の中でクレシダを逝かせたのは、私にとっては良かったのではと思う。悲しいには変わりないけど・・・。」
再び、最期は歌の中で死にたいから歌って欲しいとお願いされた。
「わかりました。うまく歌えるかわかりませんが、ご要望通りに・・・。」
2人にお礼を言われた。