鎮静の歌・・・
「ドミニクにケートが帰ってきたことを伝えてくれ。」
ナイジェルさんは何かを覚悟したようにメイドに伝えた。
「ケート。またクレシダのために貴金属を貸してほしい。」
ナイジェルさんのその言葉にケートさんはため息をついてから、『わかった』と、言い動き出す。
「皆も、クレシダのために貴金属があったら貸してほしい。」
ナイジェルが悲壮に満ちた顔でお願いしてきた。
黄金でなくても、貴金属はドラゴンの気持ちに何らかの影響が・・・・。
「あっ!」
私は、つい声にだしてしまう。
そして、駆け足で部屋をでて、借りた金庫へ向かう。
貴金属のワンピースの一つのポケット右胸の下あたりのポケットを開け、ベロアのような生地の袋を取り出し、すぐにクレシダのもとへ向かう。
もしかしたら、もしかくなくても、もしそうなら、もしそうであるなら・・・。
私は、走っていた、そしてクレシダのいる建物の扉を開ける。
「クレシダ!!」
私は声をあげてクレシダの所へ急いで向かう。
ベロアのような生地の袋をとり、中身をクレシダの顔付近に持っていく。
”キュ・・・”
「クレシダ・・やっと、声が・・声が・・聴けた・・・。」
私は笑みをこぼす。それと同時に涙もこぼす。
・・・涙、抑えきれないよ~。
例え弱々しい鳴き声でも、これまでそれすら出来ないほどだったのだから。
案の定クレシダが涙をぬぐおうと鼻でこすりつけてきた。
「ありがとう、大丈夫よ。」
クレシダは、私の顔から離れると涙が流れていないか確認して首を元に戻す。
「それは?」
と、ナイジェルさんは聞いてくる。
私は、ナイジェルさんの前に手を持っていく。
私の手には、母の形見の銀の櫛があった。
「母の形見です。リュヌの銀で出来てます。」
銀だが金でもあるドラゴン酔わせの銀。
「母の形見の品ですので差し上げることはできませんが、お貸ししますどうかお使いください。」
私の手の櫛を受け取るナイジェル。
「これで、傷口の処置ができる。」
クレシダの傷口の処置が始める。
悔しいけどクレシダに鎖でがんじがらめにする。
ナイジェルさんがクレシダの鼻元にリュヌの銀の櫛を持っていく。
そして、たいまつの準備をし、アルコールに浸した布が傷口を覆うと、すぐにたいまつの火で、布を引火する。
”キュオオォ・・・”
クレシダが悲鳴のような鳴き声を発する。
クレシダの顔が悲鳴で天井を望む形に首を動いてしまった。
リュヌの銀の櫛が遠ざかる。
ナイジェルがクレシダの首にしがみつきリュヌの銀の櫛を少しでも顔に近づけようとする。
「うまくいっています。もう一度行きます。」
再びアルコールで浸した布が傷口を覆いたいまつの火で引火する。
傷口から血がにじみ出なくなる。
「よく頑張ったなクレシダ。皆もありがとう。」
ナイジェルが、ねぎらいの言葉をかける。
使用人たちやメイドは、ホッとする。中には抱擁をして喜びをかみしめる。
「サーシャ殿、クレシダの食事をお願いしてもいいかな。」
ナイジェルの言葉に、そこにいた者たちが待ってましたかのように、目をキラキラさせていた。
はいはい、本日のクッキングは『焼きおにぎり風雑炊』の作り方でございます。
皆さま、厨房へ集まりましょう。
そして、公開料理をした物を持っていく。
クレシダはゆっくりと食す。
”キュゥ・・”
と、クレシダが食べ終わったことを鳴き声で告げた。
「食べ終わったか・・・少し休めそうか?」
ナイジェルさんはクレシダの首を撫でながら言う。
”キュゥ・・”
クレシダの鳴き声を発すると、クレシダは目を閉じる。
「大丈夫そうね。」
ケートさんも安心したようにクレシダと旦那であるナイジェルさんを見る。
「ルルラララ~ル~ルルララ~」
と、ケートさんが歌を歌いだした。
この歌、ゲーム内で流れていた曲だわ。
リオンの歌のレパートリーの一つ、その中のクレシダが好きな歌。
・・・私、リオンよりもケートさんの歌の方が好きかも。
「ラ~ルルル~ララララ~」
「ラ~ルルル~ララララ~」
私も、ケートさんにハモルように歌いだす。
すると、ケートさんはニコッと微笑む。
一緒に歌うことを歓迎してくれた。
周りの人たちも歌いだす。
手を叩き音色を奏でる者もいた。
私も知らないうちに手を叩いてたし・・。
”キー”
と、クレシダも嬉しそうに目をつぶったままうっすらと歌うように鳴く。
そして・・・皆で皆顔を合わせ嬉しそうに歌を終わらせる。
皆、笑顔で歌を終わらせた。
「・・・ク・・クレシダ?」
ナイジェルさんの顔が固まりクレシダを呼ぶ。
「クレシダ・・・なあ・・クレシダ・・返事をしてくれ・・・息を・・してくれ・・・。」
息をしてくれ・・・・って、そんな・・どう理解をしろというの?
噓でしょ。
「クレシダーーー!!!」
ナイジェルさんの悲痛な叫びをあげる。
そこにいたものたち全員が涙を流す。
だけど、クレシダは頬ずりをしてくれない。涙をなめても・・・くれない。
・・・クレシダは、大好きな歌を聴きながら息を引き取ったのだ。