髪を乾かしましょう
シャワーを浴びて浴室を出ると、キャサリン様が服を用意してくれていた。
「母さま、授業がありますから制服に着替えないと・・・。」
クローゼットに綺麗な制服がある事をキャサリン様に伝える。
「今日の授業はないと思うわ。それに、サーシャは今日は休みなさい。熱が出るかもしれないでしょ。」
と、キャサリン様が言い、洋服を私に渡す。
「下着も汚れたと思うから、出さないとね・・・。」
キャサリン様の言葉に、何故がヘンリー様を思い出してしまい。
自分で選ぶと、タオル一枚の姿でタンスに向かった。
”ガタガタガタ”
と、窓ガラスが強風で揺れる。
私は、着替え終わると、椅子に座るようにキャサリン様に促され、座るとキャサリン様が、私の頭をタオルで拭き始める。
「自分で拭けますから・・。」
「私にさせて頂戴。」
と、タオルを返してくれなかった。
「これから、サーシャの立場はぐるりを変わるわ。サーシャの立場や身分で近づく者が来るわ・・・大丈夫?」
「それは、慣れてます。」
イシス帝国を出るまでは、クラウンコッパー公爵家の娘として、ヘリオドール侯爵家の血族者として、権力を手に入れようと群がって来た者たちを相手にしてきたのだ。
「慣れているのは知っているわ。私が言いたいのは、亡命してそのような者たちから解放されたのに、再び相手にしないとならないでしょう。気持ち的に大丈夫かと心配なのよ。」
私は、少し俯く。
そう、キャサリン様のいう通り、私は亡命したことで、私に群がる権力の亡者から解放された。
今回の事で、再び権力の亡者が群がる事に、気持ちが億劫でない訳がない。
その事を心配しているのだ。
「婚約破棄は絶対にありえませんから、求婚する者はいません。ですから、イリス帝国よりも楽なはずです。」
私は、自分の鎖骨と胸の間に手を置く。
ここには、伴侶の絆が刻まれている。
王家、公爵家以外なら、婚姻の成立された夫婦としてみなされる。
だが王家、公爵家は、ドラゴンの大樹の守護者としての役割がある。
ドラゴンの大樹の前で、誓いの言葉を交わして、正式な夫婦として認められる。
ヘンリー様と私は、一般的に夫婦であっても、正式な夫婦ではない。
かといって、仮夫婦でもない。
私が、内縁の妻とかでもないし・・・・。
何せ複雑だが、それでも夫婦の解消は出来ない域なのだ。
だから、求婚者が群がり、貢物をすることはない。
それだけが救いだ。
「それならいいけど、あまりにも酷ければ、その者がサーシャに近づけないように力を貸すからね。」
「ありがとうございます。」
キャサリン様の言葉に、なお一層、安心して権力の亡者たちの中に入ってい行けそうだと感じた。
「サーシャ!!」
と、部屋の扉が開きヘンリー様が入って来た。
「丁度良かったわ、ヘンリー殿・・・・って、まあまあ。」
ヘンリー様は、キャサリン様がいる前でお構いなしに私を抱きしめた。
「へ、ヘンリー様・・・ま、まって。」
このままじゃ、お構いなしにキスしてくる。
「ヘンリー殿。サーシャが風邪を引き前に、そうですね・・・屋上で、サーシャの髪を乾かして貰えませんか?コスモの温かい風なら、風邪を引かずに済みそうですから。」
キャサリン様は、微笑ましい顔をしながら私たちに言って来た。
「わかりました。サーシャ行こう。」
と、ヘンリー様は手を差し伸べてきた。
私は、その手を握る。
「ヘンリー様。学園にたくさんのドラゴンが来てますよね。陛下、もしくはマティアスに、どこで髪を乾かしたらいいか聞いた方がいいですね。」
ドラゴンがたくさん来ているって、マティアス様のフォボスに、ハミッシュ陛下のユピテルの他にいるのかと聞いてみると、フレディ様のオルクスに、セシル様のセドナが来ていると、ヘンリー様が説明してくれた。
それなら、髪を乾かす場所を聞かないとならないわね。
こうして、ヘンリー様に連れられて屋上へと行くと、そこにはもうコスモが待機をしてくれていた。
「コスモ、お願いしていいかしら?」
と、頬を撫でながら言うと、すぐに暖かな風が吹いて来た。
「サーシャ、こっちだ。」
と、手を強くひかれて、その場に座り込む。
「熱は・・・。」
私の額に、ヘンリー様の額が合わさる。
「うん、大丈夫だな。チュッ」
額が離れると唇が重なる。
私は、頭をすぐに引き、ヘンリー様の唇から離れる。
「風邪が移るかもしれないんですよ!!」
引き始めが危ないっていうでしょう!!
「まだ、熱はないから大丈夫だ。ほら、髪を乾かさないと・・・チュッ」
再びヘンリー様にキスされる。
そして、私の後頭部にヘンリー様の手が添えられてしまい、唇にキスの嵐が降り注がれる。
「うん、少し向きを変えよう・・・。」
と、ボソッとヘンリー様が言うと、今度は耳にキスをされた挙句に甘噛みまでされる。
「っ・・・ヘンリー様・・・ダメ。髪を乾かしているんだから・・・。」
「乾かしているよ。」
わざとらしく、私の髪をヘンリー様は、手櫛で梳かす。
「うん、そろそろ逆向きだね。」
と、逆の耳まで、キスされ甘噛みされて・・・。
しっかり手櫛をしてくるから、何も言えなくなってしまった。
それをいいことに、再び唇にキスをして・・・気が付けば、舌で答えていた。