臣下の真かに・・・
遅くなりました。
「皆は、どうしてもサーシャ殿を否定したいようですが、サーシャ殿がドラゴニアに来てからの功績をご存じでですの?」
「クリスティーナ。それを知らないから、サーシャを否定するんだよ。それも、自身のしたことは・・・棚に上げてね。」
”ゾワッ”
食堂に寒気が漂う。
フレディのオーラに、当てられているからだろう。
生徒たちは皆、顔を見合わせて、何を棚上げしたのかを聞いていた。
だが、それが分からなかった。
「・・・嘆かわしいよね~。」
フレディは、大きなため息をつく。
そして、ため息をついた瞬間から辺りの寒気に、重みも感じだした。
長年付き合いがあると、このオーラにも慣れるが、慣れないとキツイようだ。ライナスの顔色が、他の生徒たちとあまり変わらなく青い。
「学園に隣接したアジュムにいたカルデネの仕打ち、許される事ではないのに、忘れるとは・・・。」
「カルデネが怪我をした時点で、学園もしくはアジュムの施設の者に報告すべき事項ではありませんの?」
普通はそうだよな。
ここにいる生徒は、それを放置した。
サーシャが発見した時は、青いドラゴンのはずのカルデネが、赤いドラゴンと思うほどに、体中が傷だらけでただれ、悪臭まで放っていた。
「カルデネの怪我の処置の他に、他のアジュムの管理の見直しを提案したのはサーシャ殿ですのよ。」
クリスティーナが怒り気味に言う。
「サーシャ様は、アジュムの管理運営を、よりよいモノにするために、キンバーライトとクローライトの仲の修正にも尽力をしてくださいました。」
セラとセシルも来たのか・・・。
「この食堂で、昆布を削げるように、必死になって打ち込んでいたのは、その為です。」
セラは俺たちの所へ向かいながら話をして、俺の前で一礼をする。
「サーシャ様は、このドラゴニアに来て2年程しか経っていませんのに、いろいろとドラゴニアに貢献なさっておいでです。」
「ここにいる生徒は、ドラゴニアの出身者。生まれてから今までの間、ドラゴニアの為に何をしたのかな~?」
セラとセシルの言葉に、何も言えないでいる生徒たち。
「だって、わたくしたちは、まだ学生ですもの。」
生徒たちは、学生だから許されると勝手に思っているようだ。
・・・・困ったモノだね。
「サーシャ様は、生まれ故郷であるイリス帝国に、新たな政策を打ち出したのは、10歳にも満たなかったと聞いております。」
生徒たちが、信じられないとばかりに驚いた顔をしている。
「その10歳にも満たない子の提案した案が、国民を動かし、今のイリス帝国の革命へとなっているのですよ。」
セラが、言っている事は事実だが、その事がサーシャを苦しめている。
その案を世に出したことで、人がたくさん死んでいるのだからな。
「学生だから許して何になるの?」
生徒がセシルの言葉に、返す言葉がなかった。
「この学園の卒業者は、それなりの箔がつくけど、それって責任もついてくるって、わかっているのかな・・・。」
フレディが俺の前に向かいながら言う。
「この国をしょって立つ者が、感謝こそする人を寄ってたかっていじめる。あまりにも箔の使い道、責任の導き方がなっていないよね。」
”ニコッ”
と、俺に向かって満面の笑みを見せた。
・・・やばいのが来るぞ。
「陛下は名君として、床を舐めろと下してはいけない立場だけど・・・代わりに臣下である僕がしてあげる事はできるんだよ。」
フレディよ。
顔が天使だが、発している言葉が悪魔だぞ。
「臣下が代わりに下した後から、王が臣下を制する・・・。王は名君として成り立っているよね・・・それって凄いと思わない?」
誰に答えを求めている。
別に、誰でもない事を切に願う。
「上に立つ者としての振る舞いが解らないのなら、僕が教えてあげてもいいけど・・・僕よりも息子のカイルの方が適任なんだよね。」
どうしてカイルなんだと聞くべきなのか?
・・・いや、辞めておこう。
「カイルにかかれば、優秀な人物に育つよ。」
『優秀』が『従順』という言葉に置き換えられる気がするのだが、質問すべきか?
・・・いや、辞めておこう。
「まあ、人物だけどね。」
先ほどから何故か『物』という言葉に力が入っている気がする。
フレディが言っている言葉も気になる。
普通・・・『人物』でなく『人材』という言葉ではないのか?
あえて『人物』と言っているのは何故か聞くべきか?
・・・いや、辞めておこう。
聞いてしまったら、もっと恐ろしい事が起きそうだ。
「それで、ドラゴニアの公爵よりも下のモノとしての立場をわきまえ、振る舞えるように、調整する?」
フレディよ。
調整ではなく調教だと思うのだが・・・それを言うべきか?
・・・いや、辞めておこう。
そして、何故だろう。
サーシャがクラウンコッパーの者としてあからさまになった事で集まったはずなのに、フレディの横暴な行動をいつでもできます宣言に、全てを持って行かれたような気がするのだが・・・。
まあ・・・フレディだから仕方がないか。
『臣下の真かに・・・』のサブタイトル。
『・・・いや、辞めておこう』という、サブタイトルの案もありました。
そして、辞めておきました。(笑)