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クッキーの答え

 「今日は、これぐらいにしましょうか、明日の放課後は、ライナス様のダンスレッスンの日となっていますから、明後日の放課後に、またここで商売のお話をしましょう。」

 ラスキンさんが言い、商売の話は終わった。

 「それより『ふっくらクッキー』は、どうでしたか?」

と、ラスキンさんは話をぐるりと変えて、先週作ったクッキーの件を取り上げてきた。

 ライ様も、その事が気になっているようで、興味津々の表情で私の答えを待っていた。


  そう『ふっくらクッキー』が、クッキーなのかパンなのか、ヘンリー様に聞くという内容の答えを、この2人は待っているのだ。


 「ヘンリー様に答えを聞いたのが間違えでした。」

 私は、ムスッとした顔で答える。

 「エリック様かヴァネッサ様に聞くべきでした。」

 「それは、どうしてだ?」

 ライ様が、不思議そうに聞いて来た。

 「だって・・・欲しい答えをくれないのよ。」

 私は、ノートと万年筆をしまった鞄を抱きしめ俯く。

 「答えないとは、ヘンリー様はクッキー祭りに参加している方ですよ。」

 ラスキンさんが、そのように言っても、欲しい答えをくれないの。

 「答えが欲しければ、ラスキンさんが作った物を食べさしてください。」

 それも、それで悔しいな。

 ライ様とラスキンさんが顔を合わせて、困っていた。

 そんな顔をしても、仕方がないんだもん。

 「ヘンリー様が、ふっくらクッキーを落としたとか?」

 「落としてませんし、落とさせません・・・もったいない。」

 食べ物を無駄にはしてはいけません。

 例え落としたとしても、そのままにせず。

 鳥とか動物に食べさせるにしても、どこに置けばいいとか、食べやすいように細かくするとか、出来る限りの事をします。

 それが食べ物に対しての感謝の意でしょ。

 貧しい国では、お腹が空いても食べられずに、餓死する事もあるのよ。

 「なら、どうしてそんな剥れ顔をしているのだ?」

 ライ様が言い、言ってくれないとどうすればいいのか不安になり困る事を説明をする。

 「それで、サーシャ様。ヘンリー様と何があったのですか?」

 そこまで言われると、言わないとならなくなるじゃないか。

 「可愛いと・・・。」

 「は?」

 ライ様とライナスさんは、一瞬止まった。

 「『可愛い』と、しか言ってくれないのよ!!」

 そうよ、金曜日にライ様にルベライト屋敷の屋上まで送って貰って、そのまま屋敷に入らず、コスモに乗りブルーア地方へ向かっている時に、ヘンリー様に食べさせたのよ。

 それなのに、それなのに・・・。

 『可愛い』と・・・。

 『可愛い』でしか・・・。

 『可愛い』のみの答えしか返ってこないのよ。

 「『可愛いから指まで舐めたくなる』って、何なのよ!!」

 ヘンリー様の変態!!

 

 私が剥れている横で、ライ様とライナスさんは、呆れた風に、ため息をついた。


 2人共。

 私の方が悲しくてため息をつきたいのよ!!


 「ヘンリー様好みのクッキーを作りたいのに・・・酷すぎるわ。」

 私は、ふっくらクッキーの残りを全部コスモに食べさせたのを言う。

 「『蜂蜜やジャムを漬けたら美味しいかも』って、コスモの方が素敵な答えをくれるってどういう事よ!」

 ヘンリー様は、コスモの言ったことを寂しそうに答えたけど、そんなの知らないわよ。

 「私は、ヘンリー様に答えて欲しいのに・・・。」

 このまま、一生『可愛い』で、終わるの?

 クッキー作っている意味がないわよ!!

 「ライナス様・・・これって・・。」

 ラスキンさんは、ライ様を見て言う。

 「・・・驚きの溺愛。」

 ライ様はラスキンさんに、面食らうように答える。

 「信じられません。あの独身貴族のヘンリー様が、ここまでの溺愛っぷり・・・あの、ヘンリー様がですよ。」

 「俺も、信じがたい・・・あの顔で『可愛い』と、デレているとか、変化ない顔だから想像できるが・・・通常ありえないぞ。」

 2人して、信じられないと言い合っているが、事実です。

 「どうすれば、クッキーの味を言ってくれるようになるの?」

 「そんな事より、見てみたいと思ってしまうのは、私だけでしょうか?」

 ラスキンさんが、興味深々な感じに言って来た。

 「顔の変化はないと思いますよ。」

 もしあったら、それこそ驚きだ。

 「そうであっても、見たい。事実を確認すべきだ。」

 ライ様も身を乗り出す感じに言って来た。

 「面白がってませんか?」

と、私が言うと、2人は顔を見合わせ首を振り、そんな事はないと否定する。

 その否定・・・信じられません。


 「次は、どのようなクッキーを作るのですか?」

 「せっかくなんだから、旬の物を使ったクッキーを作りたいな・・・。」

 ライ様の要望に、ラスキンさんは持っていたクッキーレシピ本を取り出し、テーブルに広げる。

 「旬の果物をジャムにして、クッキーの生地に乗せて、一緒に焼くという物がありますね。今の時期ですと・・・あんず何てどうでしょうか。」

 「うん、それがいいな。」

 勝手に木曜日に作るクッキーのレシピが決まっているのですが・・・。

 まあ、考える手間が省けていいけど・・・・

 「今は、クッキーを作る気がないのですが。」

 「そんな事で、クッキーを作らなくなったら、後で後悔するぞ。」

 ライ様に説得されてしまった。

 

 こうして、木曜日は、あんずクッキーを作る事になった。

 

 

 

 

 


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