優しきドラゴン
クレシダ・ラリマー邸の中は、使用人たちの行動はきびきびしているが、その他の者は動きが重い感じがする。
クレシダのことがあるので、このような事になっているのだろう。
「兄上」
私を屋敷に入れてくれたハワードさんが、兄弟を見つけたようだ。
「ハワード。学園から戻ってきたのか。」
20代後半のスレンダーマッチョの好青年がこちらに来た。
「クレシダのことがあったので、短期休学届を出しました。」
ハワードさんの兄はそうかと頷き、ハワードさんの頭を撫でた。
「この者は?」
ハワードさんの兄が私を見て言う。
私は正式なお辞儀をしする。
「サーシャ・カーネリアンです。陛下からの命でこちらに来ました。」
そういうと、ハワードさんの兄は、ジェロームと名乗った。
ジェロームさんはハワードさんからハミッシュ陛下の手紙を受け取る。
「今、父はクレシダに付き添ています。」
私は、ナイジェルさんの代理が出来る者なら、手紙を見てくれて構わないと言った。
ジェロームさんは、ハミッシュ陛下の手紙を開けてみる。
「陛下が、クレシダのことを気にかけてくださっている。ありがたいです。」
ジェロームさんは頭をさげてお礼を言う。
「私にできることは少ないかもしれませんが力になります。よろしくお願いします。」
◇ ◇ ◇
前世で、このような格好をした人は、特殊な喫茶店で働いているイメージだった。
そして、そのような服を着て仕事をしている人をうらやましいと思ったが、危ない人たちに囲まれる確率があるのと、そんなところでバイトとかしたら、親に何てことを言われるかわからなかったので、着たことがなかった。
前世の普段着ですらフリフリの服を着たことがなかった。
今世で初フリフリ服を着たような感じだった。
度が過ぎると恥ずかしくなるので、程よいフリフリ感でお願いしていたが。
今、これってコスプレというのだろうか?
グレーのロングワンピースに、白いフリフリのロングエプロン。
一応、しっかり髪をアップにあげて白いフリルの髪留めを付け仕事しやすいようにはしているが・・・。
私、メイド服を着てます。
少し、ドキドキしてます。
動きやすいように、貴金属の入った服は脱いでます。
ハミッシュ陛下が、金庫の用意をしてもらうように手紙に書いてもらっていたおかげで助かりました。
金庫にしっかり貴金属服を入れてから、ハワードさんの案内され向かう。
山の頂上に近い建物に案内される。
「ここが、クレシダの部屋になります。」
扉を開けると、血なまぐさい香りが漂っていた。
中に入り、左側を見る。
「っ!?」
私は驚きで止まってしまった。
性別の区別がつくしっぽが3分の2ほどなくなっていた。
それだけでなく、左後ろ足の根本から脚にかけて骨が見えるほどの傷を負っていた。
血が流れないように傷口が焼かれているが、じわじわと血が流れている。
クレシダの顔も苦しそうだが、疲れてもいる感じもして痛々しい。
私は、一歩を踏み出す。
二歩目、三歩目を歩くと四歩目からは走っていた。
そして、クレシダの首元まで行き、クレシダを抱きしめた。
「痛いよね~、つらいよね~。」
目から涙がが流れていた。
クレシダが私を見ると、顔を近づけ涙をなめてくれた。
どんどん、あふれてくる涙を再びなめてくれた。
こんな時でも、相手をいたわる優しい。本当に優しいドラゴンなのだ。
周りにいる人たちも、すすり泣く声が聞こえる。
「・・・あなたは?」
黒髪に青い瞳、そして特徴というべき左頬の傷のあるイケメンが、憔悴しきった顔で声をかけてきた。
ナイジェル・ラリマーその人だ。
私は、額の包帯を取る。
微かにドラゴンのあざが残る。
「私は、サーシャ・カーネリアンです。ハミッシュ陛下の命で、少しでもお力になりたくて来ました。」
ナイジェルさんから感謝の言葉をかけてくれる。
「何かお困りのことはありますか?」
あふれそうになる涙をこらえて言った。
涙を流すと、クレシダがまた無理してなめてくれるから我慢しなければ・・・。
「食事がのどを通らないのです。大好きな焼きおにぎりも戻してしまって・・・。祝福のフレアまで体力を持ってもらわないと・・。」
クレシダの大好きな焼きおにぎりなら食べてくれるかもと、私もここに来る前に、米と鰹節と醤油を用意してきたが・・・。
泣いているだけでは何も解決しない。
私は手の甲で涙をぬぐう。
「厨房をお借りしてもよろしいでしょうか?」