ドラゴンと天秤
『ドラゴンと天秤』の看板は、ドラゴニア限定の外貨交換のマークになっている。
建物が荘厳なのは、国が管理している機関だからだ。
今の時間は、私の時計で15時42分。終了時間16時に無事、間に合いました。
さっそく入ったのだが、ここは、コンサートホールの入場口ですか?
左右にスタッフがいて、奥に入るにはスタッフの指示が必要と言わんばかりの立ち位置で、鋭い目でこちらを見てるよ。
もっと優しい目で私を見てください。
こんな時間に、まだ来るのかしらっていう目をしているのですか?
・・・私はお客様よ。無理してでも入らないと野宿になるのよ。鋭い視線に戦いを挑んでやりますとも。
「あ、あの・・質に出したい物が・・・あるのですが・・・。」
アイアムチキン。だって女の子だもん許してよ。
鋭い目の受付嬢は、7番の部屋へ行くよう指示をする。
7番の部屋は廊下の一番奥にあった。
部屋に入ると再び入口に受付嬢がいた。
たらい回しされるのかしらと、不安に思いながら再び要件を伝えると、木札を渡して待合室で待つように言われた。
『P-674』と木札に彫られていた。
受付嬢の伏兵を抜けると、カフェのような待合室がそこにあった。
数人が、各々に物を待って待機をしていた。
銀食器を持っている若い男性、布にくるまれた何かを大事そうに持っている老人。
私は、どのように見られているのかしらと考えながら、窓側のテーブル席に行く。
椅子に鞄を置き、ベーカリーうみまつで買ったスコーンを鞄に締まい、鞄を窓側に追いやり、その隣の椅子に座る。
窓らか外を見ると、建物に張り付くようにドラゴンが5頭ほどいた。
やっと、この目でドラゴンを拝見することができたわ。
(会えた~、会えた~、ドラゴンたちに~、並んで~いるよ~、赤、白、緑。青い色のも~いるんだね~)
勝手に、童謡の替え歌が私の頭をよぎってしまったわ。
建物に張り付いているドラゴンは皆、国家鑑定士の相棒のドラゴンだ。
ドラゴンの習性の一つに、財宝を守護する本能的能力がある。
約5000年前、黄金のドラゴンと両替商人の契約よって、銀、銅、プラチナ、真珠に珊瑚、化石と象牙にべっ甲はドラゴンの守護から外された。
だが、財宝の知識というか、第六感のようなものは健在なのだ。
500歳ぐらいになると、その知識は確固たるものになると言われている。
だから、国家鑑定士はその知識を持ったドラゴンと契約をし、貴金属の価値を出している。
「Pの674番の札の方」
太陽を直視できるかぐらいの色に変わるころ、黒髪の男性に呼ばれた。
私は手を上げ、その職員のもとへ小走りに向かう。
近くまで行くと、男性職員は歩きだしたので、私は後ろを付いていく。
大理石の床の部屋から、絨毯の敷かれた廊下へと進む。
ドラゴニア特有の外貨交換所のマークである、ドラゴンと天秤の彫り物がされている扉を開けると、大きな窓から首から上を部屋に入れている緑色のドラゴンがいた。
私は、立ち止まらずに緑色のドラゴンに近づく。
「始めまして私はサーシャ。あなたは?」
朱色の瞳が私を見つめる。
緑色のドラゴンは小さく口を開き”ギュウ”唸るように鳴く。
「・・・・・。」
答えてはくれているのは理解してあげれるが、言葉までは理解できない。当然よね。
「カロンといいます。その・・・怖くないのですか?」
カロンの相棒である国家鑑定士は、心配そうに私を見ながら話を続けた。
「国民でもドラゴンを怖がる人がいるのに、そんな素振り見せずにカロンに近づくとは・・・。」
私はクスッと微笑むように笑う。そしてカロンの頬に手をやり撫でる。
結構しっとりとしているのね。陶器の上薬を塗った部分のような手触りに似ているわ。
「ドラゴンは確かに強暴な力を持っています。でもそれとは裏腹に、とても優しい心を持っているわ。」
カロンが目を細め気持ちよさそうな顔をした。
そんな顔をされたら、なお一層撫でるしかないじゃない。
「ドラゴニアに来る前に、かつてユニコーンが住んでいたホルンメーネ国に、いたことがあるのですが・・・。」
本当に、ほんの数週間滞在してました。
「『一日遅れの花婿』というオペラをご存じですか?」
カロンの相棒は首を振り、知らないことを伝えてきた。
ホルンメーネ国では有名な悲恋のストーリーで、実話をもとに創られている。私からすれば胸糞悪いストーリーなのよね。
『ドラフラ』『続・ドラフラ』では、かつてユニコーンがいたというくだりしか語られていないが、ゲームの公式小説には、ユニコーンことが詳しく書かれていた。
独自のユニコーンの設定だったが、その設定がなぜかしっくり来るのよね。
そもそも、何故ユニコーンは処女の前だと大人しくなるのかという、理由なき理由に、その設定がしっくりくるのよ。
残酷なんだけどね。
それ故、ラーイ界からユニコーンが絶滅したと思われる。
「ユニコーンは、子孫を増やす際に30歳の処女の生贄が必要になるのです。」
カロンの相棒は、顔をこわばらせ私を見る。
「生贄にされた女性は、髪の毛しか残らないと、書物に記されていました。」
髪の毛だけ、きれいに髪の毛しか残さない。
うわ~、思い出しただけで体が震えがきたよ。
一日遅れの花婿は、一日花嫁を迎えに来るのが遅かったせいで、花嫁が生贄にされてしまったというストーリー。
ストーリーの中で、ドラゴンの国に避難するぐらいなら死ぬのを選びますっていう花嫁。
意味なき無駄なプライドが悲劇を生んだストーリーに、感動なんてしてるほど、私の心は広くはなかった。
ストーリーに付き合いきれず、胸糞悪さが印象に残ったオペラだったわ。
「ドラゴンは力が強暴なだけで、話し合えば協力もしてくれる。凶暴な姿といわれているけど、私からすれば凛々しい、勇ましい、ああ、ハンサムっていう言葉も正しいわね。その様に私は見てますよ。」
「ありがとうございます。」
カロンの相棒の方からお礼を言われてしまった。
そして、ソファーに座るように促された。
私は、言われた通りにソファーに座る。
”ガタガタガタ”
と、窓ガラスが風で揺れ、カロンの首のあたりの隙間から風が中に入って来た。
すると、カロンの相棒の方がソファーから立ち上がり、カロンの方を向く。
「カロン。北の総括長のいう通りにして。」
カロンの相棒が言うと、カロンはバックして首を部屋から出し、庭の真ん中まで下がる。
”ドーンッ”
と、カロンのいた場所に降りてきた黒いドラゴンが、窓から中に首から上を入れてきた。
「ヴァルナ!!」