さいこうの光を・・・
『ルイ。この藤はね。この工房の希望の光なのよ。』
母さまが嬉しそうに微笑みながら言う。
キラキラと七色に輝く樹木に、銀色の葉っぱと、白くて丸い真珠。
工房のお客様用の出入り口のフロアに飾られている藤棚。
『私たちのいるダンビュライト領は、他の領土に比べて海に面している部分が少ないの。』
母さまが僕の前に地図を出してくれる。
地図のダンビュライト領は、隣国と陸続きになっている為に、海に面した箇所が少ない。
『少ないながら、真珠を養殖している。だから、いい物を作ろうと試行錯誤して、最高級の真珠と言われる西光の白真珠と言われる物が出来たのよ。』
満面の笑みをしながら、僕に説明してくれる母さまの顔が曇る。
『でもね。最初のうちは解って貰えなかったのよ。ダンビュライト領以外の領で、たまたま最高級の真珠が出来たとしか思って貰えなかったのよ。』
僕は母さまの言っているのが本当なのか、工房の職人に顔で訴えると、顔があった職人は頷いた。
本当なんだ・・・・。
『そんな中、ルイ。あなたが生まれたのよ。』
僕は、自分を指さして、そんな大変な中で生まれてよかったのかを聞いてみた。
『もちろんよ。この藤棚は、あなたの誕生を祝って大々的に作った物なのよ。』
母さまは、腰を落とし僕と顔を合わせてくれた。
その顔は、優しい笑顔だった。
『そして、この藤棚を作ったおかげて一躍有名になり、ドラゴニア王国イチの真珠工房と呼ばれるようになったのよ。』
・・・この藤棚が、この工房を変えたんだ。
今は、たくさんのお客さんがひっきりなしに来ている。
それは、この藤棚が呼び寄せたモノ。
『ルイ。あなたが生まれたおかげで、工房の職人、それにその家族に希望を与えてくれたのよ。』
母さまは僕を抱きしめてくれる。
『だからルイ。たくさんの人を導く、最高の光を与えられる人になりなさい。』
『・・・はい!』
「ここは・・・・。」
”ガタガタ”
と、窓ガラスが揺れている。
外は、風が強いようだね。
私は、ベッドから起き上がり窓の外を見る。
ああ・・・そういう事か。
私は、部屋を出て屋上へと向かう。
濡れた金色の髪を風になびかせながら梳かしている女の子。
いや、つい最近まで女の子だった女性と言うべきね。
その女性に近づく。
「暖かめの風ね。」
「ルイーズさん、その・・・大丈夫ですか?」
サーシャさんは、心配そうに私に声をかけてくれる。
あらまあ・・・。
「サーシャさん。あなたの肌は綺麗なのに、顔が疲れている感じだし・・・目元が腫れているわね。」
サーシャさん、少し戸惑った顔をしているわね。ふふふ。
「激しかったのね。」
「・・・・・・・・っ!!」
まあまあ、顔を赤くして可愛いわね。
「えっと・・・娼婦の館で、媚薬の香を焚かれまして・・・・っ」
そういう事ね。
「コスモの風はいいわね。単なる風でなく、温度の調節が出来るのだから。」
『うん、サーシャは風邪をひきやすい体質だから、温かい風を送ってあげないと風邪ひいちゃうかもしれないだろう。』
へえ・・・サーシャさんって風邪をひきやすい体質なんだ。
私は、その事をコスモに言うと、『そうだよ。』と、答えてくれた。
「ルイーズさん。その・・・お気持ちは大丈夫ですか?」
心配そうに私を覗くように声をかけてくれる。
サーシャさん・・・初めてあったころより、断然綺麗になったわね。
「心配してくれてありがとう。犯人は捕まえてくれたのでしょう。」
『うん、ばっちりだよ!』
「捕まえてくれたのだら、大丈夫よ・・・これで、みんなの墓前に報告が出来るわ」
そんな悲しそうな顔で見つめないでよ。
私は、その事を伝えると、謝られてしまった。
困ったわね。
「私は、家族それに工房のみんなを助けてあげられなかったことで、駆け付けてくれた白き傭兵団に入り、苦しんでいる人々を助けようと思ったのよ。」
髪の毛を梳かしている手を完全に止めて、しっかりと聞こうとするサーシャさんの手から櫛を取り、サーシャさんの髪を梳かす。
「チェスター兄からドラゴンと絆を結ぶ事を進まられた際に、生きている間に犯人が解るかもしれないとも言われたわ。だから、ステファノ―と絆を結んだ時に、その覚悟もしていたわ。」
サーシャさんが後ろを向き、私の顔を見る。
「恨みはないのですか・・・その、あんなに荒げた声を上げていらしたのに・・・今は、穏やかな顔をしているように見えるのです。」
ふっ・・・もしそうならうれしいわね。
私は、サーシャさんの顔を正面に向けさせ、再びサーシャさんの髪をとかしだす。
「恨んでいた事は確かね・・・でも、その事で、今の幸せを感じられないのは生きていて愚かよ。」
私は、目を一端瞑り、再び目を開ける。
うん、今はしっかり幸せと感じられるわね。
「かと言って、生き残ったのに関わらず、命を無駄にする事は、これまで生きていた事も、死ぬ事にも恥だわ。」
サーシャさんが一瞬止まったのが後ろ姿でもわかるわ。
私は、後ろからサーシャさんの肩に手を置く。
「恨みは消え去りはしなかったけど、消え去らないと、幸せになってはいけないなんて事はないわ。素直に笑って、素直に怒って、素直に悲しんで、素直に世の中を楽しむ。素直に幸せを感じていいのよ。生きているのだから・・・。」
サーシャさんの肩が少し落ちたわね。
落ち着いたみたい。
私は、再びサーシャさんの髪を梳かしだす。
「私の場合。たくさんの人を助け、希望の光を与えられたら、尚、幸せね。」
母さまの優しく温かい言葉を思い出す。
『たくさんの人を導く、最高の光を与えられる人になりなさい。』
「ルイーズさんは、ちゃんと人々に希望を与えてますよ。交換島の国家鑑定士になりたいデリック先生に、希望を与える言葉をかけてくれたり、ライナス様に、ドラゴンと絆を結ぶ勇気を持たせる希望の言葉をかけてくれた。」
コスモが微笑んでいるわね。
サーシャの笑顔を見て、微笑んでいるのね。
「今では、ライナス様は、アマルテアと絆を結べました。」
そうね・・・そうだったわね。
「やはり、私は生き残って良かったわね。」
「はい!」