元ブルーア・ラリマー邸
「サーシャお姉ちゃん。こっちこっち。」
と、私の手を繋ぎ、屋敷の中に入る。
・・・・・・え?
美的感覚が困惑をしている。
美術品の一つ一つは、綺麗な物なのよ。
身長程の大きな壺。
綺麗な女性の石膏。
大きな猫の置物。
ドラゴンの置物。
甲冑の置物。
鹿のはく製。
それが、玄関正面に置かれた大きな飾り棚に、まとめて置かれている。
「あははっ、そんな顔になるわよね・・・ヘンリー様以外は。」
ルイーズさんが、私の顔を見て言った。
「成金の美術品のコレクションって、一貫性がなく、高価な物なら何でも購入して、それを見せびらかす為に、ぐっちゃに展示するから嫌よね。時間が出来たら倉庫に片付けるつもり。だから、今は我慢してね。」
そのように、ルイーズさんが言うと、リディアちゃんは、大きな猫の置物とドラゴンの置物は、倉庫にしまわないでとルイーズさんに頼んだ。
「皆のところへ案内するわね。」
と、ルイーズさんは言い。屋敷の中へと案内をしてくれる。
ルイーズさんの後ろにヘンリー様で、その後ろをリディアちゃんと手を繋ぎ歩く。
廊下を歩くたびに、一つ一つは立派で、品のある美術品なのに、品なく置かれているのが見て取れた。
こうも、美術品がもったいないと感じるとは・・・。
階数によって、展示物を種類ごとにまとめるとかすればいいのに・・・。
「先ほど玄関ロビーに鹿のはく製があったが、馬のはく製も屋敷にあったら、元所有者が、笑いを誘うために置いたとしか思えないな。」
ヘンリー様はボソッと言う。
「お馬の置物もあるよ。」
リディアちゃんが答えてくれて、『ほら、そこに』と、階段の踊り場のところに馬のはく製があった。
「・・・馬鹿の住む屋敷。」
再び、ヘンリー様がボソッと言った。
元住人は、気づいてなかったんじゃないかしら。
「ヘンリー様。ここは、元ブルーア・ラリマー伯爵の邸宅です。」
私は、ジジイ様とコスモに逆鱗を打たれた者の家だと説明をする。
「納得できる者の家だな。」
本当ですね、ヘンリー様。
「それにしても、どうして、ここまで美術品購入できるほどの収入があるのに、ブルーア地方は領地分割されなかったのでしょうか?爵位相当の収入をはるかに超えてますよね。」
少し前の授業で、領地分割のところを学んだところを指摘した。
ドラゴニアでの爵位は、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の5つ。
公爵家は、ルベライト、クローライト、ダンビュライト、キンバーライトの4公爵家のみ。
王家であるトリプライト王家からと、公爵家から分家となると、侯爵の位が与えられ、その侯爵家が、王家、公爵家と侯爵家の繋がりなく5代続くと、伯爵位に落とされる。
伯爵には、実は2種類あって、一般国民の功績により貰う最高の位が、伯爵である。
つまり、血統による伯爵と、功績による伯爵。
元ここの住民であったブルーア・ラリマー伯爵は、血統による伯爵で交換島伯爵、百年伯爵は、功績による伯爵が、その例だね。
そして、収入の見込める土地もあれば、見込めない土地もある。
2年前の全収入から3割が、税金として納める金額。
その内訳が、王家に1割、公爵家に1割。最後の1割が、土地を管理している侯爵か、伯爵かに渡る。
子、男の爵位は、王家もしくは公爵家から、爵位手当という、特別手当がそれぞれ頂ける。
ここまでが、爵位の話で、領地分割には、この爵位が関係している。
侯爵、伯爵の収入源である税金。
その税金は、位に応じての収入となるので、多ければ収入源である管理している土地が割かれ、少なければ管理の土地が増える。
毎年、管理者が変わる土地もあったり、いきなり新任の伯爵が管理者になったりもする。
交換島伯爵や、百年伯爵の土地は特別区なので、また別モノになるが、基本的な土地と税金と爵位の話はこうなる。
そして、このブルーア地方は、伯爵の収入以上の物が、ブルーア・ラリマー伯爵家に払われて、分割して別の管理者となるべきだと、私は言っているのだ。