朝食に報告を
「・・・リー・・きろ・・ヘン・・・ろ・・。」
誰かの喋り声が聞こえるな・・・。
「サーシャが襲われた!!」
何だって!!
俺は、勢いよく起き上がる。
「言ってみただけだ。おはようヘンリー殿。」
そこにいたのはデリック先生だった。
学生時代の歴史教師で、もう、教師はしてなく、現在は国家鑑定士の北の総括長をしているのだが、教師らしい風貌な為に未だに先生と言ってしまっている。
そう言えば、サーシャもデリック先生と、言っていたっけな。
「未だに朝が弱いのだな。」
「理解してくれて、ありがたいです。」
こればかりは、どうも治らない。
本当は、朝起きて、すぐにサーシャを抱きしめてキスして・・・抱いてしまいたいのだが、それが出来ないでいるのだ。
非常にもったいないと思っているのだが・・・どうしても治らない。
「それにしても、デリック先生が、この屋敷に来るとは珍しい。何かあったのですか?」
まあ、サーシャが襲われたという事はなさそうだ。
「サーシャを学園まで送って行ったのだがな。」
デリック先生は、現在サーシャの姉ロゼリスの捜索部隊の司令官をしているようだ。
報告を兼ねて、サーシャを学園までヴァルナで送ったと説明してくれた。
「ヘンリー殿は、ライナス殿に頼んだそうだが、妻子持ちの私の方が適任だと思ってな。」
ライナス殿よりは断然信頼出来るな。
「ありがとうございます。俺にも、サーシャに伝えた内容を教えて頂きたいのですが・・・。」
「聞く格好に問題があるので、教える気は起きないな。それが公子ならなおのことだ。」
ごもっともだな。
「デリック先生は、朝食がまだですよね。」
俺は、デリック先生にも朝食を用意するように使用人に伝えて、シャワーを浴びる。
シャワーを浴びた際に気づいたのだが、サーシャは俺の肩付近の背中に爪跡を残していった。
キスマークも残して欲しいモノだな。
着替えをして、食堂へ行くとデリック先生はコーヒーを飲んでいた。
どうも、待っていてくれたようだ。
俺が席に着き食事が始まった。
「食事がまずくなるかもしれないが、食事をしながらロゼリス捜索の報告をしてもいいか?」
デリック先生の発言に、俺はそのようにして欲しいと言う。
「ロゼリスが入国してから月日があまりにも経っている。アクセサリーをお金にしていたが、とっくに使い切ったと思う。そうなると、仕事をして生計を立てているか、亡くなっているか、実は仲間がドラゴニアにいて落ち合っているかが挙げられる。」
「最後以外、ありえそうだな。」
これまで聞いて来たロゼリスの性格から、仲間がいるとは考えられない。
「ヘンリー殿は、そう見るか・・・。」
デリック先生は、困った感じに言葉を発した。
「捜索隊のこれまでの成果等を考えると、一番可能性が高いのは、仲間がいるという見解なんだがな。」
俺は、一端ナイフとフォークを置き、デリック先生の話を聞くことに集中する。
「ロゼリスの身体的特徴から、ロゼリスが仕事をしていたら、それなりに有名になると思う。」
サーシャから、相当胸が豊かだと聞いた。
仕事をすれば、身体的特徴で周りに広まる事になる。
それが無いということか・・・。
つまり、同じ理由で、死体が上がっていないという事だな。
「そう言われると・・・納得がいく。だが、ホルンメーネ国の者が、ドラゴニアに入国するのはあり得ない。あったとしたら、それは・・・。」
「ドラゴニアにとって危険だ。」
ホルンメーネの者が、ドラゴンの大樹を無き物にする為に入国をする事が多い。
なので、入国の際の審査が厳しいし、入国後も監視が付けられる。
「一応、ハミッシュ陛下に報告して、ドラゴンの大樹の護衛を増やしている。」
デリック先生が鼻で笑いながら言う。
陛下はどんな護衛隊を派遣したのやら・・・。
俺は、つい、ため息をついてしまった。
「次に考えられる仲間と言ったら、イリス帝国の者。だから、送りがてらサーシャに聞いてみたんだが・・・。」
デリック先生は、ため息をついた。
「ヘリオドール家が、革命後の国の為に、上流階級の者が国外に逃げられない様にしている事を話してくれたんだよ。」
おいおい、それは本当かよ。
「もし、国外に逃げられたら、革命後の国の戻って来て、国の発展の邪魔をしかねないからな。クラウンコッパー家が逃げられたのは、サーシャの特権のおかげなんだよ。」
そうまでして、義理であっても、家族を逃がしてあげたのに、このような結果になってしまったとは・・・サーシャの苦労が報われてないな。
「逃げられた下級貴族だが、その者たちは、こぞってロゼリスを嫌っていたようだ。だから、仲間になる事はない。」
なら考えられるのは・・・。
「イリス帝国の商人か・・・。」
俺は、答えを出した。
「ああ、イリス帝国にいた頃に仲の良かった商会名を数件教えて貰った。そこから調査しようと思う。」
俺は、デリック先生にお礼を言った。
こうして、ロゼリスの報告をしてもらい、デリック先生はヴァルナに乗って帰って行った。




