ドラゴンの神子のいる世界
「みちよ・・・僕と一緒になるしかないんだよ。」
血の気が引くと言うのはこういうのだろう。
何より、叫びたくても、叫べない。
目の前の男が、恐ろしい余り、声が出ないのだ。
「だって、君にとって邪魔な存在を消してあげたんだし・・・ほら・・ね!」
男が箱から取り出したモノ。
真っ赤に染まった・・・。
◇ ◇ ◇
「どうして、私が前世持ちだと気づいたのですか?」
私は、一人掛けのソファーの席に座る事を許されたので、座る事にした。
斜め前には、サーシャ様。
そして、テーブルを挟んで反対側の一人掛けのソファーには、前世での椋梨君であるハミッシュ陛下。
思い出したんだけど、椋梨君には、年の離れた妹さんがいたわね『花蓮』っていう妹さん。
そう言えば、陛下の第一王女って、確か・・・カレンって名前だった。
まあ、そんな事はどうでもいいわ。
何より、サーシャ様よ。
うん、ヘンリー様と手を繋がれていているわ。
少し恥ずかしそうに顔を赤らめているなんて・・・何て、可愛さなのよ。
こんな姿が見られるなんて、私は幸せ者よ~!!
もっとやれ~!!
「私の誕生日の時に『お祝いのお礼に、シュークリームをお出しします。』って、シュークリームって、靴のクリームのように感じるから、『もこほわ』って名前にしたのよ。」
確かに、あの時の私は、シュークリームって言ったわ。
「それで・・・聞きたいのだけど。」
サーシャ様、前世のお話ですよね。
「シュークリームの正しい英語の呼び名って・・何かしら?」
そっちですか?
「サーシャ。それは後で、いいような気がするが・・・実は、俺も知りたい。」
ハミッシュ陛下もですか・・・。
「それで、どうなんだ?」
「・・・エクレア。」
サーシャ様とハミッシュ陛下は、どっとため息をつき、落胆しているのが見て取れた。
「やっぱり、知らないのね。」
「ああ、悔しい・・・シュークリームの本当の英語名を知りたい。」
悔しがる2人の姿。
そんなに気になると・・・私も気になるじゃないの・・・。
シューケーキとか?
ア・ラ・シュー・・・とか?
何か・・・シューという単語から離れた方がいいような気がするわ。
「ゴホッ、陛下・・・もう、もこふわで定着しているのです。過ぎた事は忘れてください。未来の方が肝心でしょうが。」
ピアーズさんが、陛下に叱咤を投げかけている。
「もこふわって名前、可愛いではありませんか。私は好きですよ。」
カリスタ様が、穏やかに言うと、2人が落ち着いた雰囲気になって行くのが分かった。
ハミッシュ陛下が、気を取り直す。
「それで、フィオナが考えた『ドラフラ』のシナリオを聞きたい。」
「アリスさんの世界観で創られたこの世界とは違うから、なんて説明すればいいのか・・・。」
私は、何から説明すればいいのか分からなかった。
「この世界は、ドラゴンの他にユニコーンがいたけど、フィオナが考えた『ドラフラ』には、ドラゴンの他に幻獣はいるのかしら?」
サーシャ様が、世界観からアリスさんの違いを聞いて来た。
「いいえ、ドラゴンだけと言っていいです。7つの色の王国に、それぞれの色のドラゴンがいるのです。」
この世界は、白、黒、赤、黄、緑、青がいる。
金は黄で、水色は青に含まれるとして・・・。
私の世界では、それに紫が含まれ、計7色。
それに、その色の王国がある。
「7つの国の中央には、光の国と呼ばれる聖域の国があるのです。」
皆、真剣に聞いてくれる。
ピアーズさんは、紙とぺンを取り出してきて、地図を書いて欲しいといわれたので、書いてみた。
「光の国を中心にして、その周りに7つの王国があるのは分かったが、その外側に斜線が引かれているが、王国の周りには、国がないのか?」
ピアーズさんは、私の地図の事で質問をしてきた。
「ありますが・・・ドラゴンの神子の聖なる力が及ばない世界です。」
ドラゴンの神子の力が及ばない外の世界は、魔物が存在する危険な地となっている。
「聖域が存在するという事は、ドラゴンの神子の聖なる力とは、邪悪を浄化する力なのか、もしくは跳ね除ける力。シールドかもしれないな。」
ハミッシュ陛下は、これまでの話を踏まえた上で、予想してきた。
それも、ほぼ正解。
さすが、ロードネーションチームに所属してた人だわ。
「破邪と浄化の力ですね。」
大まかな答えを言った。
「なら、ドラゴンの神子と呼ばれる者を魔物との境に行かせれば、魔物がいない世界になりませんか?」
ピアーズさんが、もっともらしい答えを言ったようなのだがね・・・・。
「ドラゴンの神子の力が、その土地に馴染まなければ、行っても意味がありません。」
乙女系恋愛育成ゲームの世界なのを、忘れて貰っては困るわ。
「ドラゴンの神子は、その祈りによって、ドラゴンの花という特殊な花を芽吹かせる事が出来ます。」
「芽吹かせる・・・つまり、人々が肥料を与え、花を咲かすのかしら?」
カリスタ様、よくぞ芽吹かせるに気づいてくださいました。
「花の蕾までは、ドラゴンの神子の役目で、花を咲かすのは、ドラゴンの役目です。」
私の一言で、一斉に皆が驚きの顔を私に見せてくれる。
「どうやって、ドラゴンが花を咲かすのだ?」
驚いていると見ていいのかしらヘンリー様。
あなた様は、いつも通りの顔をなさっています。
「ドラゴンが、ドラゴンの花に近づきさえすれば、花が咲きます。花が咲くことで、そこから浄化のオーラが発動されて、辺りには魔物がいなくなるのです。」
「だから、ドラゴンの花というのだな・・・。」
納得してくれてうれしいです。
「フィオナ、乙女ゲームをやった事のある者からして・・・。」
サーシャ様、もしかして・・・私が考えた『ドラフラ』の内容を予測してくださるのですか?
・・・うれしいです。
「ドラゴンの神子の力には、衰えがあると見ていいかしら?」
・・・感動です。
「はい、神子候補としてライバルと、そして・・・サーシャ様が選ばれるのです。」
サーシャ様が、少し動揺している。
きっと、ヒロインなのを忘れていたみたいね。
「7つの王国は、それぞれ特徴があり、土地との相性があって、遠くまで花を咲かせるために、勉強やら土地の人との交流とかもあるのかしら?」
ヒロインの使命感を彷彿させるような発言。
サーシャ様は本当にいい子で、可愛くて仕方がない。
「7人の王のサポートですね。」
「その7人が、恋愛攻略キャラね。場合によっては、神子になるのをやめて、王との恋を取るとかいうイベントもあるのかしら?」
・・・ああ、幸せだ~。
録音機能で、この会話を録っておきたい気分。
「その通りです。」
私は、サーシャ様に微笑む。
「でも、みちよさんのシナリオなら、もう一捻りが、ありそうなのよね~。」
サーシャ様は、考え込んでしまったわ。
でも、でも・・・こんなに私の事を解っているとは・・・。
私は、ソファーから立ち上がりサーシャ様のそばに行く。
そして、腰を落とし、サーシャ様の手を取る。
「サーシャ様。私、一生サーシャ様に付いて行きます。」
もう、ここまで私の癖を感じてくれていたとは、どれだけ私を幸せにさせれば気が済むのよ。
一生、付いて行くしか考えられないわ。