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寄り添う奇跡

 俺の腕の中で、サーシャがホッとした顔で眠っている。

 つい先ほどまで、前世の事について語っていた。

 

 サーシャの前世は、イリス帝国での生活以上に壮絶だった。

 言葉を詰まらせるたび、頭を撫でて落ち着かせ、涙が零れるなら、抱きしめた。

 

 サーシャが身籠ってもないのに『子供を産むのが怖い』と、言うだけの事はある。

 現世の義理の母だけでなく、前世も・・・それも実の母からも虐げられれば、母のイメージが地に落ちる。

 それなのに、母として子と接しなければならないとなると、恐怖でしかない。

 同じ様に接してしまう恐れだけでない。

 どのように、子と接すればいいのかも、分からない恐怖も、存在してしまうのだ。

 

 告白から婚約の一年間。

 キャサリン殿に、サーシャを預けた事が、どれだけ救われていたのか計り知れない。

 ・・・それだけ母という存在は大きい。

 キャサリン殿のように良い意味でも・・・。

 イリス帝国の義理の母、前世での実の母の悪い意味でもだ。

 将来、サーシャが母となった時、いい意味での大きな存在に、なっていくようにしないとな。


 だから、サーシャ・・・共に寄り添い生きて行こう。


 俺は、サーシャをベッドで寝かしつけるために、ソファーから立ち上がる。

 俺が立ち上がっても、目を覚まさずに安心して眠っている。


 ベットに寝かしつけ、ベット付近にあった椅子へ座る。

 そして、サーシャがもう一つ言っていた内容を思い出す。

 

 俺が、ゲームという物語に出て来る登場人物で、リオンがその物語の主人公だという事。

 いろんなシチュエーションがあると言っていたな。

 俺とリオンの恋愛に発展する物語もあるとか・・・。


 もし、そのままリオンと恋愛に発展し、その後、結婚した上で、サーシャに会ったとしたら・・・。

 俺は、サーシャを愛おしく想うこの気持ちが、湧きあがらなかったのだろう・・・か?

 もし、湧き上がったとしても、手を出すことはなかった・・・出来なかったと言える。

 リオンは、ドラゴンにとって、あまりにも特別な存在だ。

 そのリオンを妻に持ちながら、他の女性に目移りするのは非常識極まりない。

 ルベライトの地を納める者としての威厳が、信頼が失われる。

 そのような事は、出来ないし、目移りも許さないだろう。


 サーシャを想うこと事態が、奇跡なのだな。

 そして、サーシャが俺を想ってくれることも・・・奇跡なのだ。

 

 「サーシャを愛させてくれて・・・愛してくれて・・・ありがとう。」

 

 俺は、椅子から立ち、サーシャの唇にキスをする。


 「んっ・・・」

 目を覚ましてしまうのか?

 「・・・へんりー・・さま・・・」

 サーシャが手をガサガサと動かす。

 何かを探しているようだ。

 そうか・・・陶器のスプーンだ。

 今は、ないから仕方がない。

 

 俺は、ベッドに入りサーシャを抱きしめる。

 「・・ふっ・・・へんりー・・さま・・・す・・き・・・。」

 結構、心に響くな・・・それも、寝言だぞ。

 可愛すぎる。

 「俺も、愛している」

 寝言に言葉をかけると、寝ながら、可愛く微笑んできた。

 ああ・・・何でこうも、可愛いのだ。

 でも、今は安心して休ませてあげたい。

 うん・・・朝まで我慢だ。 

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