脅しに、驚いたりしませんよ
本日は月曜日、学園の登校日となっていた。
聖ドラゴニア学園前の馬車の乗合所に降り立ち、学園へと向かう。
今日の放課後は、木曜日に作るクッキーをどれにするか、レシピ本を見て決めようと考えていた。
「サーシャ・トラバイト様。」
と、私を呼ぶ男性の声。
私が振り向くと、締まりのない水色の瞳が私を見ていた。
オレンジ色の髪を後ろでポニーテールで結んで白い羽の髪飾りが付けて、
チャラ度がにじみ出ている。
前髪がやたら長く流していて、暖簾のように手でかき上げて会話をすべきかしらと、思ってしまった。
まあ、はっきり言って声をかけて欲しくない人だ。
私は、再び学園へ向かう為に向きを戻し歩き始める。
「待ってくださいよサーシャ・クラウンコッパー様。」
私は、ピタッと足を止めた。クラウンコッパーの名を挙げたからだ。
「やっと、逢えた~。オレは、アルミナ商会のウィニーと言うんだ。」
ウィニーという男が自己紹介をしてきた。
アルミナ商会の人間という事は商人か・・・・あまり、関わりあいたくないわね。
私は、学園に向かって歩き出した。
「サーシャ様、オレらに協力してくださいますよね。だって、あなた様は、クラウンコッパー公爵令嬢様ですもんね~。」
前言撤回ね。脅迫する商人と全く関わりたくないわ。
私は、ウィニーという男を無視して、歩みの速度を変えずに歩く。
「サーシャ様。いいのですか?本当にばらしますよ。」
少し焦りだしたかのような口調で私に訴える。
「どうぞ、構いませんよ。」
私は、歩きながらサラッと言ってやった。
男は、驚いたように一瞬止まるが、すぐに私の行く手を遮るように私の前に来る。
「待ってください。本当にばらすんですよ。」
「どうぞ。」
再びサラッと言った。
どうやら、ウィニーという男は理解できないようだ。
私が、ウィニーを避けて、学園に向けて歩き出す。
ウィニーが私の肩に触れようと手を伸ばす。
「触れない方がいいですよ。私が叫べば、学園の護衛の者が駆け付けてくれるはずですから。」
私の言葉で、ウィニーの手が止まる。
「お嬢さん、本当にばらすんですよ。」
「しつこいですね。『どうぞ』と、何度も言っているでしょう。あなた、本当に商人なのですか?」
私は、歩みを止めることなく言う。
ウィニーは、イラっとした顔をしてついて来る。
「相手の発した一言で、どのような状況なのかを瞬時に判断し、対処が出来るのが商人だと思っていました。それも、常に相手の心を掴むような流れに、もっていくように心がけている。」
そう、ラスキンさんがいい例だわ。
そのおかげで、媚薬を頭からかけられた時も、すぐに対処してくれて大事に至らなかったんだから。
ラスキンさんからプレゼントされた本もいい例だ。
初めての時は、綺麗な柄の用紙で、ラッピングされて中身がわからず、貢物されるのが嫌だと感じていた私に、目の前で勢いよくラッピングを破いて私に渡した。
次に、私の誕生日の時は、本に直接リボンが架けられて中身が丸わかりの状態で私に渡したわ。
一度目の状況を踏まえての、さり気ない心遣いだわ。
それに比べて、この男は何だ?
脅迫して、脅迫に意味をなさなくても、何度もしつこく脅迫をしようとする。
状況を瞬時に判断できないあたり、まだまだ利益があまり出なく、焦っている感が露わになっている。
つまり、利益が出ないから脅迫もアリっていう、落ちぶれ街道を行きだした商会なのかしら。
・・・すぐに、辞めるべきね。
「あなたは、ドラゴニアにある商品を買いに来たのでしょう。あっ、でも、買いに来たにしては、すぐにドラゴニアを出ないという事は、思った以上に費用が掛かってしまったのね。それだから、それなりに利益を出そうと奮闘しているのではない?」
私は、ウィニーという男を見る。
驚いた顔をしていた。どうやらあたりの様かしら?
「なら、図書館へ行って、ドラゴニアの歴史をもう少し掘り下げて知るべきよ。ドラゴニアの国民の心を全く掴めていないからね。そうね・・・私が、クラウンコッパー家の人間でも大丈夫な理由を知るまで、歴史を深く知るべきね。」
私は、学園に向け再び歩き出した。
と、言っても、もう目の鼻の先なのだけど・・・。
「おはようございます。」
私は、挨拶をすると、学園の門に立っている門番の方が、挨拶をしてくれた。
「申し訳ありませんが、あちらの方に図書館の場所を教えて差し上げて欲しいのですが・・・。」
私は、門番に頼むと『わかりました』と、微笑んで、すぐにウィニーという男の方へと行ってくれた。
私は、門番がウィニーのところへ行ったのを見ると、門から学園へと入って行った。