誕生日は穏やかに・・・
袖口、裾口に藤色の縁がある特徴の花柄のドレスを着ている。
首元にはチョーカー。
胸元が開いていて、そこから金色の文様が見える。
若干の赤い跡は・・・この際もういい。
「サーシャ・・・今、何色の下着を着けている?」
相手エスコートで、一緒に食堂へ向かっている人が聞いて来る。
本来なら、セクハラと言うべきなのだが、婚約者なので、セクハラとは言えないでいる。
「・・・藤色です。」
小さく答えるしか出来なかった。
水色の下着は・・・もう、洗濯にだすしかない。
ドレスに着替える前に、お風呂に入る時間が取れただけ、良かったと思うしかない。
だが、しかし・・・やはりなのですが・・・。
下着ぐらい自分で選ばせてください。
その権利は、絶対にあるはずです。
人権無視をしているのですよヘンリー様!
そう思いながら、食堂へとヘンリー様と着いた。
「お誕生日おめでとう、サーシャ!!」
と、暖かな言葉と共に笑顔を私に向けてくれた。
「あ、ありがとう・・・。」
こんな、誰も裏のない笑顔を向けてくれる誕生日は、いつ以来だろうか・・・。
前世も含めて初めてな気がする。
そう思うと、目頭が熱くなり・・・。
「まあまあ・・・。」
と、キャサリン様が近づいてくれて抱きしめてくれた。
それと同時に涙が溢れだす。
「ありがとう・・ございます・・・こんな、穏やかな誕生日・・・初めてで・・うれしいです。」
皆、穏やかに微笑んでくれた。
「さあ、食事にしましょう。」
と、ヴァネッサ様が言うと、皆が席に向かう。
席に座ると、フィオナがハンカチを渡してくれた。
「ありがとうフィオナ。」
フィオナは微笑んだ後、私に耳打ちをしてから、配膳に向かって行った。
「・・・っ!?」
私は、目を見開きフィオナの後姿を見る。
「サーシャ、どうしたんだ?」
と、隣に座っているハミッシュ陛下が言って来た。
「いえ・・・でも・・・え?」
私は、脳内は混乱をしていた。
「まずは、落ちつけ。」
「そう言われましても・・・大根が乱舞しています。」
勢いよく千切りをして・・・ではなく、大混乱に陥っていた。
「陛下・・・後ほどお話したいことがあります。」
ハミッシュ陛下は、今話さないのか気にしていたが、後ほどの方が説明しやすいために、食後に約束を取り付けた。
「俺も、後ほど、サーシャに話がある。」
ハミッシュ陛下からも話しがあるのですね。
顔の表情からして、嫌な予感しかする。
そして、食事が一通り終わり、食後のデザートのクリームあんみつが出された後の事。
再び、デザートがテーブルに出される。
皿の上には、もこもこっとした、ふわふわな物が置かれていた。
ほとんどの者がこのデザートを知らない。
私は、席を立ちあがる。
「本日は私の為に来て頂きありがとうございます。」
私は、一人ひとりの顔を見る。
皆、優しく見守る優しい瞳で私を見てくれている。
「皆さまにお出しした物は、私からのほんの気持ちのデザートです。どうぞ召し上がってください。」
そう言い、椅子に座る。
「ハミッシュ陛下、もこふわと命名した物ですから。」
と、すぐにハミッシュ陛下に言う。
「靴と関りがありそうな名は、あまりにも哀れになったモノで・・・。」
ハミッシュ陛下は納得してくれたと、同時に笑いだした。
「確かに、可愛そうな名前だな。」
一応聞いてみたい事があるので、言ってみるか。
「和製英語でなく、英語でなんて言うかご存じですか?」
「うん・・・・・エクレア?」
私は、すぐに突っ込みを入れる。
「この際、エクレアでもよくないか?」
「いいえ、それはそれで哀れです。可哀そうな名前の上に、別の名前に合併されるなんて、それも明らかにエクレアの方が認知度が低いですよ。」
再び、ハミッシュ陛下が笑い出す。
「うん、うん・・・もこふわでいい。俺も許す・・ぷっ」
笑いが止まらなくなったようにへミッシュ陛下は笑い出した。
そして、食堂を出て談話室へ向かった。
談話室へ入ると、すぐにヴァネッサ様に声をかけられる。
「サーシャに渡す物があるのよ。」
そう言い、私の手を取りその手のひらに置かれた物。
ベロアのような生地の袋。
私はヴァネッサ様の顔を見る。
「カルデネの傷はもう大丈夫よ。」
私は、それでも心配だった。
すると、ヴァネッサ様はフッと微笑む。
そして、私の手を腕を握り、窓の方へと向かう。
”キュー”
と、バルコニーにいた水色の瞳の青いドラゴンが鳴く。
「カルデネなの?」
バル子に―にいるドラゴンがコクっと頷く。
「きっと元気な姿を見ないと、返されると思ってね。」
私は、バルコニーに出てカルデネを撫でる。
「傷口はもうすっかり塞がって、鱗が生えるのを待つだけよ。」
カルデネは私に体を向けて傷口を見せてくれた。
確かに傷口が塞がり、一部鱗が生えかけている箇所も見えた。
「カルデネ、来てくれてありがとう。」
”キュウ~ッ”
「カルデネは、これからどうしたい?」
私は、カルデネの意思を出来る限り尊重したいと聞いてみた。
「このまま、ルベライト城にいる事になるかな?」
答えてくれたのはエリック様だった。
「城で荷物運びなどの手伝いをして貰っているよ。」
そうだったんだ・・・。
やっと、穏やかな日々が過ごせているのね。
「良かったわ。」
”キュ~”
嬉しそうにカルデネは鳴く。
「ヴァネッサ様。こちらの預けていた物を受け取りますね。」
私は、しっかりと母の形見の櫛を握る。
「サーシャと、折り入って話しがある。」
そう、話しを切り上げたのはハミッシュ陛下だった。
私は、唾を飲み込み。ハミッシュ陛下のもとへ行き、談話室の奥の個室へカリスタ様も一緒に入って行った。