空洞の心に・・・
”カツッカツッ”
足音が、やけに響くのだな。
目的の牢屋の部屋は、まだ先か・・・。
薄暗いし、湿っぽい・・・そして臭い。
自分の部屋に戻るわけにはいかない。
アリシアに聞きたいことがあるのだから・・・。
悪役令嬢のアリシア・クローライト
濃紺色の髪が明るく見えるのは彼女の青い瞳がそうさせていた。
悪役令嬢らしく、縦巻きロールの髪だが、彼女らしい品の良さを引き立てていると思っていた。
今は、その髪もぐしゃぐしゃでロールが崩れているが・・・。
「アリシア。」
私が声をかけると、こちらに目を向けてくれた。
「・・・殿下。」
どっと疲れた表情をしている。
当然のことだな。
「リオンが亡くなって今日で100日目となる。」
アリシアは、少し静止した後『そうですの・・。』と、答えるだけだった。
「ドラゴンたちが日にちを数えているのだ。アリシアは数えていないのだな。」
アリシアが首謀者だとわかり牢屋に幽閉したのが82日目。
「牢屋にいるだけの暇なわたくしだとしても、くだらない数など数えませんことよ。」
くだらないか・・・本当の姉妹のように仲良しだった者のいう言葉なのか?
「何故、リオンを殺した?」
は~、と大きなため息をしたアリシア。こちらがしたいのだが。
「看守にも言って差し上げましたが、『邪魔』だったからに決まっているではありません事?」
生まれてから18年間、お妃教育を受けていた者が、ポッと出のリオンにすべてを持っていかれることに、プライドが許さなかったと、うんざりとした感じに説明する。
「アリシアが妃に、リオンがアリシアの第一女官となることが一番いいことだと、誰もが思っていたのだぞ。」
他人がいいことでも、アリシア自身は違うと否定した。
「もし、国の利害関係のみでの婚姻なら、リオンを第一女官にすることを喜んで受け入れましてよ。」
どういうことなのだ?
そうではないモノがあるのか?
大団円ルートに沿わなかった何かが?
「わたくしは、殿下をハミッシュ殿下のことをお慕い申し上げています。国の利害関係のみでは嫌なのです。」
衝撃が走った。
この怒りと、なんだこの空洞感は・・・。
「例え国の利害で結婚する事になっても、アリシアとなら夫婦の愛情を育むことが出来ると思っていた。」
・・・この空洞が俺とアリシアの亀裂となったのか?
「思っていた?・・・思っていた、思っていた、思っていた、思っていた!!」
アリシアは叫び散らすように同じ言葉を言う。
「殿下自身の心はどこにありまして?」
・・・俺の心だと?
「国を思う気持ちはご立派ですわ。ですが唯一の女性を愛する者への心はありません事よ。」
アリシアは、少しでもその気持ちが感じられたならリオンを殺さなかっただろうとも告げた。
「王となられる方が、女性に現を抜かすことはよろしくないことは分かりましてよ。それでも欲しいと、リオンが女官として王家に仕える前に欲しいと、だってリオンが第一女官として配属されたら、きっと殿下は彼女のことを愛してしまうからですわ。」
そんなことわからないだろうと感じながら、俺はリオンの攻略キャラなのだからありえてしまう事も思ってしまう。
・・・アリシアは勘が鋭いのか。
もし、大団円ルートの続きで、続きのゲームがあったとすれば・・・。
奇跡の絆は、略奪愛という泥沼の絆となるのか?
だが、『続・ドラフラ』の続きはない。
・・・それが事実だ。
「それはアリシアの女の勘だろう。勘通りの未来はたどらないことも大いにあり得る。そんなことで俺は、リオンだけでなくアリシアまで失ったのだな。」
アリシアは何も言わなくなった。
そして、アリシアの目がら涙がただ流れていたのが見えた。
◇ ◇ ◇
”ぎゅっ”
と、両手で手綱をつかんでいた左手を、前に座っている人の腰に回し自分の方へ引き寄せる。
「あなた、どうなさいましたか?」
カリスタが後ろを振り向く。
その口に俺はキスをする。
深く、深く、愛情を確認するように・・・。
口を離すと、俺にしか見せない顔をしている。
「・・・やり・・過ぎです。」
可愛い。目的地を一端宿に変えるか?
いや、目的地に急ごう。
だが、首筋にキスくらいはしとこうかな、今夜の予約のために・・・。
「あ、あなた・・なんです・・か?」
グッとくるものがあるな。
「王妃としても女性としても愛せる者に会えて、俺は幸せだ。」
グッと、抱きしめる手に力が入る。
「・・・私も、幸せです。」