焼き加減に注意
朝食を食堂で摂っていた。
野菜に、ベーコン付きの目玉焼き、それとオニオンスープとパン
転生前での、理想の朝食が、現実となって目の前にある。
この恵みに、感謝するしかない。
「サーシャ様。」
と、私を呼ぶ声がして振り向くと、ラスキンさんがそこにいた。
「おはようございます。ラスキンさん。」
私は、何だろうと不思議に思いながらも、真剣に私を見ているラスキンさんに挨拶をする。
「サーシャ様。お願いがあります。」
私は、異様なまでの真剣な眼差しで言ってくるラスキンさんに、少し呆気にとられるように、コクっと頷く。
「本日は、学園長に許可をとってございますので、サーシャ様はこの後、食堂で昨日のもこふわを製作してください。」
お昼までエンドレスに、シュークリーム作りですか・・・。
ラスキンさんは、相当シュークリームが気に入ったようだ。
「昨夜から、もこもこ、ふわふわが止まらないのです。夢でも溢れる程に、もこふわが一つ・・・もこふわが二つ・・・もこふわが三つ・・・あぁ、大量のもこふわの夢・・・幸せでした。」
そのまま、永眠しても本望なぐらいに悦ってますよラスキンさん。
私は、朝食終了後、エプロンを持って食堂の厨房に入る。
待ってましたと言わんばかりに、ラスキンさんと、ラスキンさんの部下が数名いた。
「・・・ある意味、ひかれる格好ですね。」
筋肉隆々の厳つい男性が、フリフリの白いエプロンを付けている。
似合わなすぎだが、それがかえって目を引き付ける姿となっている。
ギャップ萌えと言うか・・・ギャップ哀れという、いたたまれないような感情が湧きたってしまうのだが・・・。
「呆気に取られていますね。」
そうも言うかもしれないな。
「この方たちに教えながらなのは・・・理解できるのですが・・・この方たちを選んだ理由を知りたいです。」
私は、ライナスさんに怖いもの見たさで聞いてみた。
「昨日、頂いたもこふわを部下たちに、お土産として持って帰ったら、この者たちが偉く気に入りましてね。」
筋肉隆々の方たちに詳しく理由を聞く。
「とても身近に感じたのです!」
”ムキムキ”
と、ボディービルダーの決めポーズをするながら言う。
「どのように身近に感じるのですか?」
”ムキムキ”
また別の決めポーズをしながら話し出す。
「もこふわの盛り上がり方が、俺らの大事な筋肉のように感じたのです。」
”ムキムキ”
背中も見てねの決めポーズをしだす。
「日々筋肉を鍛え上げなければ、贅肉となってしまう切なさを、あの柔らかさが物語っていて、とても他人事のように思えないのです。」
”ムキムキ”
再び正面からの決めポーズをする。
そのような事を思うとは・・・なんとも・・・罪な存在だわね。
シュークリームという名前もだが・・・。
私は、シュークリームをコツを教えながら、筋肉隆々の方たちと作る。
シュークリームを窯で焼いている最中、筋肉隆々の方たちは、窯の前で目を輝かせて見守もっている。
・・・ムサ可愛いというのだろうか。
「もう少し焼いた方が、美しい筋肉のように見える気がするのだが・・・。」
筋肉隆々の方たちが窯の蓋を開けて中を見て感想を言う。
・・・美しい筋肉?
窯の前の方たちは皆、素肌が小麦色に焼けている。
今、作っているシュークリームはシンプルな物。
クッキーシューのような応用を作っていない。つまり・・・焦げる~!!
「そんなに、焼すぎちゃダメ!!」
私は、窯からシュークリームの皮を取り出すように言う。
筋肉隆々の方たちはショボンとしながら、シュークリームの皮を取り出す。
・・・焦げていない。
丁度良い焼き加減のシュークリームの皮に、私はホッとしているが、筋肉隆々の方たちは、悲しそうな顔をしていた。
「美しく筋肉が見える色味があるのは理解します。ですが、完璧な筋肉を作ってしまうと、後は崩れるというか・・・衰えるだけですよ。」
筋肉隆々の方の目の輝きが変わる。
「まだ、完璧な色合いではないシュ・・・もこふわを見て、自らの筋肉の完璧を目指そうという気持ちになれたらと、私は思うのですが・・・どうでしょうか。」
私は、言葉を詰まらせていた。
だけど、筋肉隆々の方たちは、目を潤ませ感動の眼差しを私に見せてくれた。
その後、カスタードクリームの作り方も教えると、流石は筋肉。
私なら、休み休み泡だて器で、カスタードクリームをかき回すのだが、一切休みなしの、電動泡だて器のような働きをしてくれた。
凄いとしか言えなかった。
お昼に近づく頃には、筋肉隆々の方々と仲良く笑いながらシュークリームを作っていた。
「サーシャ様、お土産にもこふわを持って帰られますよね。」
窯から焼きたてを出しながら嬉しそうに言い。
決まっているように、用意をしてくれる。
「あっ、そうだわ。何個かもこふわの皮だけの物を入れておいてください。」
そう言うと、私は別の作業をしだす。
「何か作るのですか?!」
と、ラスキンさんが目を輝かして言って来た。
「もこふわの中身を途中までね。」
私は、そのように答える。
この厨房では・・・作れないからね。
「まずは、ヘンリー様に食べさせたいの!」
その一言で、残念そうにしているラスキンさんも仕方がないと思ったらしく、諦めてくれた。
こうして、今日の授業・・・と、言えるかという授業の時間が終わり、私は大きな紙の手提げ袋を持って、帰路へと向かう。