もこっと、ふわっと・・・
明日は、ルベライトの屋敷に戻れる日となっている。
考えてみたら、あんな事があった後、どのようにヘンリー様に会えばいいの?
相変わらず、ラスキンさん経由でパンツが届いたし、今度のパンツは薄紫色だし・・・。
一層のこと、クローライトの屋敷にでも行こうかしら?
そんな事をしたら後が怖いか・・・。
だが、しかし、下着は水色で行くわよ。
「サーシャ様。お待ちしておりました。」
食堂の厨房に、目を輝かせているラスキンさんがいた。
今日は、ラスキンさんにデザートを教える事になっている。
私は、持ってきたエプロンをかけ始める。
「サーシャ様。お誕生日おめでとうございます。」
・・・・あっ。
ラスキンさんに言われて、私は思い出した。
今日が、私の20歳の誕生日だったと・・・。
「私でも忘れたことを、よく知っていましたね。」
私の一言に、ラスキンさんは苦笑いを見せてくれた。
まあ、先週の媚薬事件で、頭がいっぱいになっていたし・・・。
それに、前世の私の誕生日は、今日じゃないからねって事で、まるっきり忘れていても、ボケではないから大丈夫。
「サーシャ様、こちらを受け取ってください。」
と、ラスキンさんは私の前に差し出された物。
誕生日プレゼントという物だが・・・・。
『クッキーレシピ パート2』
「えっと・・・始めてラスキンさんと会った時に、プレゼントされたクッキーレシピの本の何一つ作ってないのですが・・・。」
つまりこれって・・・・。
「クッキーの材料の催促も込められているんですよね・・・。」
ラスキンさんは、ニッコリ笑顔を見せた後。
「そんな催促だなんて、物騒な事はしません。・・・ラスキン商会で、材料の購入をしてい頂く約束を忘れてないなければいいのですよ。」
つまり、それが催促だって事ではありませんでしょうか・・・。
「基本、毎週木曜日は、厨房を使う事にしますね。」
木曜にクッキーを作れば、翌日にそのクッキーをヘンリー様にお土産として持って帰れるから・・・いいわね。
つまり、今日作るデザートもお土産として持って・・・帰れないわ。
この世界に冷蔵庫なんて物はないからね。
クッキーだったら数日持つと思うが、今日作ろうとしているデザートは、当日に食べないと危険だわ。
こればっかりは仕方がない。
私は、デザートを作り出す。
「サーシャ様。何を作るのでしょうか?」
ラスキンさんは、材料を測っている私に聞いて来る。
せっかちだね。
「今日は、シュー・・・・。」
名前を言おうとして言葉が止まった。
今日作ろうとしている物はシュークリーム。
口にして言えなかったのは、シューは靴、クリームはクリームで、靴のクリームとして勘違いしてしまう。
シュークリームは和製英語。
それで、シュークリームの正式な呼び名は・・・・。
えっと・・・呼び名。
シュー、シュー、シュー・・・シュー エンドレス。
・・・分からない。
和製英語のシュークリームでいいか?
でも、口に入れる物を靴のクリームって・・・何かな~。
『靴をお舐め!!』
の、様なイメージにならない?
つまり、唾がクリームって事になるわね・・・衝撃的だわ。
でなくて、やはり、シュークリームは、ダメだわ。
なら・・・エクレア?
チョコがけするのならそれでもいいけど・・・今回は、チョコがけしないからエクレアとはいえないわ。
やはり、シュークリームよ。
・・・だから、シュークリームはダメだってば!
振り出しに戻りそう・・・。
もう、シュークリームを作っているのよ。
サイは投げられているのよ。
振り出しに戻ろうが、サイコロ振るって突き進まなくてはならないのよ。
・・・さて、どうしよう。
「名前・・・忘れました。」
ラスキンさんに、そのように伝える。
そのように伝えるしかないじゃない。
「思いだせませんか?」
私は、思い出せませんとしか言えなかった。
『靴舐めドルチェ』は、ダメでしょう。
「何せ、もこもこっとした、ふわふわっとしているドルチェです。」
こう言うしかないわ。
諦めてくださいラスキンさん。
私は、シュークリームを作りると。ラスキンさんの前に出す。
「もこもこッとした、ふわふわな物ですね。」
ええ、シュークリームという、実は残念な名前を付けられている物ですが・・・。
ラスキンさんは、シュークリームを一口食べる。
2口・・・3口・・・・・一つ、食べ終わる。
もう一つ、シュークリームを手に取り、口に運ぶ。
ペロリと食べ終わる。
「美味しい・・・感動しました。外はふわふわ、中はとろりとクリームが存在感を露わにして、でも、ふわふわ感が口に中に優しくあって・・・。」
ラスキンさんは、もう一つシュークリームを食べる。
「どうして、この感動的な食べ物の名前を忘れてしまっているのですか!!・・・このドルチェに失礼ですよ!!」
おい、作って貰っておきながら随分と失礼な言葉を言ってくれるわね・・・。
靴を舐めろと言うべきかしら?
その後、シュークリームを『もこふわ』と、命名した。
シュークリームは、英語で「クリーム・パフ」(cream puff)と、言います。




