包み隠されたもの
水曜日の放課後となった。
私は、ラスキンさんのお願いで、おぼろ昆布の最後の削りの技術をラスキン商会の数人に教えていた。
教えると言っても、練習あるのみのような感じになるので、手芸の授業の進みが気になり、自主的に手芸をしている。
月曜の授業と違い寝不足がないために、進み具合が早い、早い。
この調子なら、クッション6個作れそうね。
「サーシャ様。」
と、食堂にラスキンさんが来た。
そして、手に持っていた手紙を私に渡す。
「今日もありがとうございます。」
ラスキンさんは、このところ毎日、ルベライトの屋敷に届いた私宛の手紙を届けてくれているのだ。
アジュムの件の手紙と、おぼろ昆布の工場の件の手紙が多く、早く進展するようにと、動いてくれているのだろう。
手紙の内容が気になるようだ。
私は刺繍の手を止めて、届けてくれた手紙の差出人を見る。
ヘンリー様からの手紙に、キャサリン様、シルヴィア様からの手紙だ。
まずは・・・・王太子妃様からの手紙よね。
私は、シルヴィア様からの手紙を見る。
「アジュムの会合を、王主催の舞踏会の翌日の昼過ぎに、開催することが決まりそうよ。」
王主催の舞踏会だ、滅多なことがない限り、出席するモノだから、妥当かしらね。
舞踏会前に開かれないのは、舞踏会に向けてのお肌の手入れや、場合によってはギリギリに王宮に付く可能性もあると示唆してのことだろう。
お昼過ぎという事は、お茶会のような感じで話し合いたいというのだろね。
ガチガチだと、発言したくても出来ないって事があり得るからね。
・・・いい選択だわ。
私は、返事の手紙をその場で書き、ラスキンさんに渡す。
「次は、ヘンリー様のを見てあげてください。」
と、ラスキンさんが言って来たので、ヘンリー様の手紙を見る。
・・・・・・・・。
私の手がプルプルと震え、すぐに落胆するように肩を降ろす。
「ヘンリー様から預かっている物です。」
と、ラスキンさんが、手のひらの半分ほどの紙袋を取り出す。
「いりません。」
私は、きっぱりと言った。
「サーシャ様らしくないですね。」
私は、一応中身を見てしまったかを確認する。
すぐに、信用第一の商会の人間が、届け先より先に中身を見るのは反則だときっぱり言ってくれた。
「・・・捨てるなら私が」
「貰おうとしないで!」
”がばっ”
と、ラスキンさんの手から、ヘンリー様からのプレゼント奪い取る。
「全く、素直じゃないんだから・・・。」
ラスキンさんは、苦笑いを私に向ける。
ラスキンさんは中身を知らないから、そのように言うのだわ。
紙袋の中身は・・・薄緑色のパンツなのよ。
月曜日に持って行って、金曜日に履くようにとヘンリー様に言われた、いわくつきのパンツ。
ワザと学園に持って行かなかったのに・・・・。
ヘンリー様が、どんどん・・・変態様になっている気がする。
私は、どっとため息をついた。
◇ ◇ ◇
港町デュモルチェのドラゴン寮に、白いドラゴンが降りたつ。
白いドラゴンには、青緑の瞳の茶色に近いブロンドの少し癖っけの髪に、全体的に日焼けした胸板の熱い男性が乗っていた。
「元気していたかルイ・・ィーズ!!」
と、寮から出てきた人に言う。
「チェスター兄!!」
嬉しそうにルイーズが、チェスター・メシャムに抱き着く。
チェスターは複雑そうに抱擁する。だが、すぐに離れる。
すぐに離れた原因は、ルイーズにあるのだろう。
ルイーズの本名はルイ・シェルといい、男性だからだ。
ルイーズは今現在、国家鑑定士で、交換島伯爵の第一補佐官という名誉ある職業についているが、その昔、チェスターのいる傭兵団にいたのだ。
ルイーズは、ダンビュライト領の真珠の養殖をしていた家に生まれたが、幼い時に盗賊に家を襲われ、両親を殺されたのだ。その時、チェスターに拾われ傭兵団の中で育った。
その後、チェスターの勧めで、白いドラゴンのステファノ―と絆を結ぶと、国を巡回しているドラゴンドクターの専属の傭兵となり、ドラゴンドクターと一緒に国内を巡回。
ドラゴンドクターが引退を宣言すると、そのドラゴンドクターと、チェスターの勧めで、国家鑑定士の資格をとり、翌年には交換島の所属となったのだ。
「伯爵はどこにいる?」
「交換島で鑑定をしているわ。人手が少ないから、伯爵でも鑑定をするのよね。」
チェスターは、申し訳ない顔をした。
すぐにルイーズは険しい顔をして、何かあったのか聞く。
「お前に、招集だ。」
と、チェスターはルイーズに手紙を渡す。
「お前が、サーシャさんの姉さんロゼリスさんに会ったんだろう。」
ルイーズは真剣な目で頷く。
「本格的にロゼリスさんを探すことになった。」
「そうなのね・・・・。」
深刻そうな顔をしたが、次の瞬間。
「久々に、町から出られるわ~!!うずうずしていたのよね。キマイラ事件の時は、一人お留守番だったのよ~。酷いと思わない!!持ってくる物全て私とステファノ―が鑑定したのよ~。持ってくる人は待合室で待っていればいいわよ。私たちは休みなく鑑定をしないとならなかったんだから。」
チェスターがどう言葉をかけるか困る程、ルイーズは話を続ける。
「それは、キマイラの退治は大変だったのは分かるわよ。でも、私は元傭兵よ。戦闘能力に優れているわ。その能力を発揮できず、お留守番って酷いわよ。交換島の鑑定を一端中止しても良かったじゃない!!」
ルイーズは一端、息を整えた。
「大変だったな・・・。」
「そうなのよ。そうなの!!」
再び、ルイーズの弾丸トークが始まる。
チェスターは呆れた顔をしたが、懐かしさにすぐに苦笑いに変わる。