おもてなし
「サーシャ様。緊張しなくても大丈夫です。」
と、フィオナが微笑みながら言ってくれた。
うん・・わ、わかっている。
でもね・・・プレゼンは緊張するモノなのよ。
肩の力が抜け切れていないけど・・・行かなくては。
私は意を決して食堂の扉を開ける。
食堂にいる皆が一斉にこちらを見て、立ち上がる。
まずは、一歩下がろうかな・・・。
「サーシャ様。後ろが、つかえていますので、お進みください。」
しっかりと正論を言って来たフィオナ。
・・・進みますとも、進みます。
「招待してくれてありがとう。」
と、キャサリン様が来てくれて、私の肩に手を置いた後、すぐに私を抱きしめてくれた。
「来てくださって、ありがとうございます。」
私はここで、やっと緊張が解れた。
うん・・・頑張れる。
キャサリン様の後に、マティアス様、ライ様と続き、エリック様とヴァネッサ様・・・そして、本題のラスキンさん。
「このような席にお招きして頂きありがとうございます。」
想像していたよりも、白タイ姿が似合っているラスキンさん。
もう少し商人らしく、うっさん臭い雰囲気を醸し出している姿を想像していた。
「クスッ、来て頂きありがとうございます。楽しんでいってください。」
その言葉に『もちろんです。』と、答えてくれる。
「ですが、サーシャ様。先ほど私を見て笑われたのは、どういう事でしょうか?」
私の笑いに、含みアリが分かってしまいましたか?
「白タイ姿・・お似合いですよ。」
と、言いながら笑ってごまかした。
「サーシャ様・・・。」
ラスキンさんは、疑いの眼差しを向けるように私を見る。
えっと・・・バレバレでしたか?
「サーシャ。」
と、私を呼ぶ声がするので、そちらを向くとヘンリー様だった。
「ヘンリー様!」
”グイッ”
と、私を腕を掴み引き寄せられる。
この後、ヘンリー様がしそうな事って!!
”チュッ”
「・・・・サーシャ?」
私は、自分の顔を手でガードして、ヘンリー様のキスを防ぐ。
「ヘンリー様。私の頭の中を、真っ白にしないでください!!」
私は、ヘンリー様に訴えにでる。
「そのように言っても、妻にキスして何が悪い。」
全く、もー!!
まだ、婚約者でしょ。
「今は大事な時です。後でいくらでも引き受けますので、遠慮願います。」
「わかった。」
ヘンリー様はやけに素直に答え、席へ向かってくれた。
どういうことだ?
「サーシャ様・・・後ほど夜の準備をいたしますね。」
と、耳元でフィオナが囁くように言ってくれた。
ああ・・・やっちゃった。
これから、緊張で疲れる事をするのに、なんてことを言ってしまったんだ。
私の脳内・・・真っ白になりそう。
◇ ◇ ◇
気合を入れなおそう・・・。
席に招待をした方々が座ると、フィオナが私の下にカートを持ってきた。
私は、再度招待に応じて来てくれた事に対してお礼を言う。
「今夜のお食事会は、皆さんに昆布の新たな利用方法を見て頂きたくお呼びいたしました。」
私は、フィオナが持ってきたカートの上に置いている固い昆布を取り、皆に見せる。
「こちらは、キンバーライト領の特産となっている昆布です。昆布だしとして使われている物です。」
私は、皆に見せた後、カートの上に置き、隣に置いてある柔らかい昆布を持ち上げる。
「お酢の入った水につけて、2週間保管しますと、このように柔らかくなります。」
先ほどの昆布と違い、カートの上で昆布の端がカートについたままで見せる。
片手で昆布をもったまま、おぼろ昆布を削る刃を持つ。
「こちらは、クローライト領で作って貰った特注の刃です。刃先がほんの少し曲がっています。この刃で昆布を削ぐと、薄い昆布のシートが出来ます。」
そういうと、使用人たちがテーブルに一皿置く。
皿の上には、おぼろ昆布が丸まって置かれていた。
「まずは、おぼろ昆布をそのまま食べてください。」
そういうと、皆がおぼろ昆布を口に入れてくれた。
皆、口に入れたと同時に、明るい顔をする。
・・・よかった、うまくいきそうだわ。
それにしても、おぼろ昆布をナイフとフォークを使って食べる所を見るとは、分かっていたけど驚きだわ。
皆さん、本当に器用にナイフとフォークを使うのね。
まあ、私も転生して使っているけど、たまにお箸が恋しくなることがあるのよね。