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黒に苦労していても・・・

ブックマーク登録、それから評価もして頂きありがとうございます。

 火曜日となった。

 ヘンリー様にとって火曜日は、曜日を認知させる日だわね。

 朝にジュースを飲んだのだろうな~。

 私は昨日に引き続き、昆布と格闘をしている。

 昆布が切れてしまうのだ。

 力が強いのかと思い、弱めると今度は、昆布の上を刃物が行きかうだけで削げている気配が全くない。

 何がいけないのだろうか・・・・。

 私が不器用なだけなら、そうだと答えて欲しいわ。

 うん・・・・困った。


 「サーシャ。ダンスレッスンをしてくれる曜日なんだが・・・。」

と、ライ様が食堂の私の下へと来る。

 ライ様のダンスレッスンは毎週火曜日にしようと約束はしているが・・・。

 「昆布と戯れていたいか?」

 戯れるって・・・昆布に遊ばれている気がしますが、言い方が酷いです。

 私は、ライ様を睨みつける。

 「サーシャはその昆布をどのようにしたいのだ?」

 ライ様は、椅子を持ってきながら言う。

 「うっすらと透き通る程に薄く、紙のように削ぎたいのです。」

 ライ様は椅子に座り、私の答えを真剣に聞いてくれるようだ。

 「薄くして、いい事があるのか?」

 私は薄く削げなく、小さな塊となた薄緑色の物をライ様に渡し食べるように言う。

 「この国で昆布と言ったら出汁を取るしか使われていません。ですが、実は他にも用途があるのです。それを拒んでいるのが黒という色です。」


 海苔もそうだが、どうしても黒い食べ物を拒んでしまうのだ。

 おにぎりも、海苔を付けた方がおいしいのに・・・拒む。

 一時受け入れやれても、流行りのように、すぐに黒い物を食べていたのが嘘のようになってしまう傾向にある。


 太巻きを作った時も、受け入れやすくするために、細巻を作りそれを組み合わせて、太巻きの外側には薄焼き卵で包んで、黒い部分を見せるのを極端に減らして作っていた。

 だけどどうだろう、ライ様に小さな塊となった薄緑色の塊をすんなりと食べていた。

 元は黒い色だというのに、昆布をそのまま食べられるのを広めたい。

 そして、似たような色の海苔を流行りでは終わらしたくないのだ。


 「食べられる物を毒のように見るのは、はっきり言って、もったいないです。」

 私は、訴えるようにライ様に言う。

 「なあ、サーシャ。前から思っていたのだが、イリス帝国にいた頃、ロクに食べ物を食べさせて貰えていなかったのか?」

 私はライ様の質問に、ちょとんとする。

 「普通、貴族となると、何もしなくても時間になったら料理が出て来るイメージがあるのだが、サーシャは食に関して、いろんな物を取り入れて来るだろう。それだけ飢えているのかと思ってしまうのだよ。」

 なるほどね。

 私はクスッと笑う。

 前世で、キャベツの芯を捨てずに磨り潰して使ったり、ニンジンの皮も食べられると、千切りにしてみそ汁に入れるなど、貧乏生活をしていたな。

 前世の食べ物に関しての感覚が未だに根付いているようだ。

 

 「サーシャ。大丈夫か?」

 笑っている私に対してライ様が心配して言って来た。

 「貴族のそれも貢物を贈られてくるような家ですから、食事は当然不自由なく食べられていましたよ。」

 それは、豪華に並べられていましたとも、そこまでしなくてもいいのではと思うほどに・・・。

 「でも、その一方で餓死する国民もいました。革命前ですから、きっと想像以上にいたと思います。」

 革命中の今・・・国民は食べ物に在りつけているのだろうか・・・。

 「私は、そんな中にいて、何もしてあげられていなかったです。」

 「だが、貢物のありかを教えてから亡命したんだろう。」

 確かにライ様のいう通りで、屋敷の隠し部屋の通路を革命家に教えてから国を出たわ。

 だけど・・・。

 「貴金属で得たお金で、食料を得ても、全ての国民に行き渡る事は出来ません。まして、革命家に教えたのです。きっと武器や防具に持って行かれたでしょうね。」

 ライ様は、困惑した顔をした。

 「・・・たくさんの人が亡くなっています。」

 国民が、国を出れたとしても、その先の国で職にありつけるとも限らない。もっと貧困な生活が待っているかもしれない。

 「革命で新たなる時代の仕組みが出来ても、人々がそれなりに豊かな生活に戻るには、革命で苦しんでいた年月など、一瞬の事のような月日が必要です。」

 それこそ、何十年と・・・百年と言っても過言ではない。

 「無力だから許される・・・それは自分の甘え。地位のある者は、無力な事が許されないのです。」

 無力な事で逃げる事も本当はしては、いけなかったのかもしれない。

 ゲームの舞台であるドラゴニアに行きたいと思って、ルンルン気分で亡命の準備をしていたが、亡命して気づいた。

 自分の行動の愚かさを・・・情けなさを・・・酷さを・・・。

 だけど・・・もう、遅い。

 イリス帝国に対して何もしなかった私なのだ。

 そう、言い聞かせるしかないのだ。

 そして・・・・。

 「過去の過ちを胸に生きていく者として、出来る限りの事を成す。それが私の歩む道です。」

 私は、ライ様を見て、ドラゴニアに来て決意をしていた事を伝える。

 「その一つが、食料って事か・・・。」

 ライ様の発した言葉に『はい。』と答えた。

 するとライ様は、私の持っている昆布をよく見る。

 「サーシャ。昆布の端が凸凹しているが、そんな所も入れて綺麗に削げるのか?」

 私は、昆布をしっかりと見る。

 確かにライ様のいう通り、昆布の端が波打っている感じに凸凹している。

 次に手の持っている刃を見る。まっすぐとした刃だ。

 刃に平行に昆布を持って行かないと削げるわけはない。

 「私・・・これまで何をしていたんだろう。」

 例え昆布が柔らかくなっても、波の部分を延ばせば平行になる訳はない。

 邪魔なだけだ。

 「ライ様、お願いがあります。ラスキンさんのところへ行って、昆布も切れるようなハサミを買ってきてください。」

 ライ様は、微笑した後、椅子から立ち上がり、ハサミを買いに食堂を出て行った。    

 

 

 


 

 

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