好きすぎてキスをする
朝食後、俺は通常業務である書類をさばく。
王都と違いルベライトでは、早捌きが出来るのですぐに終わらせられた。
緑とピンクの計画の方は、順調だとジェネットからの報告が挙がっていたので問題はないな。
一応、リアルガー伯爵領のアシュムの状況の変化の報告もするように依頼をする手紙を書く。
その事で、ルベライト領のある全アシュムに報告をして貰わなければならない事に気づき、父上のところへ相談をしに行き、全アシュムに書類を送る事になった。
書類は、父上が書くと言ってくれたので任せる事にした。
「カルデネは、一時期この城の預かりになったから、王都へ帰る前に一度見に行くといい。」
父上がそのように言った事により、俺はカルデネのところへと行く。
ドラゴンの温泉が見渡せる見張り台に行くと、そこにはサーシャと母上がいた。
「ヘンリー様。」
と、可愛らしく私を呼ぶ声と、その愛らしい微笑みに嬉しくなり、つい、サーシャの頬にキスをしてしまった。
「な、何をするのですか!!」
真っ赤な顔のサーシャもまた、可愛いんだよね。
母上は呆れた顔をしていたが、これだけは許して欲しい。
本当は、サーシャの唇を奪いたかったのだから・・・。
「カルデネの状況は?」
見張り台にいるドラゴン騎士に聞くと、まず伝えてくれたのが、温泉の温度を下げずに温泉に浸かれるようになったことだった。
見張り台からドラゴンの温泉を見ると、確かに氷の塊はなく、たくさんのドラゴンが温泉を浸かっていた。
「傷口も塞がりつつございますが、やはり傷が深いモノは、傷が塞がっても再び開いている箇所があります。」
ドラゴン医師から報告を受けたが、傷口の処置で肉をえぐった箇所があると聞いている。
だから、まだまだ、かかりそうだな。
「でも、リュヌの銀を使うほどの痛みはないようよ。」
と、母上の手にはリュヌの銀の櫛が握られていた。
「だから、サーシャ。リュヌの銀を持って帰りなさい。」
母上の申し出にサーシャは首を振る。
「カルデネの傷が万が一に大きく開いてしまったら、リュヌの銀が必要となりますから、リュヌの銀を預けますので持っていてください。」
見張り台にいる人たちは、困った顔をしている。
どうやら、母上とサーシャはリュヌの銀の櫛の件で、さり気なく言い争いをしているようだった。
母上は、カルデネを丁寧に扱えば、傷口が大きく開くことはないので、リュヌの銀が必要ではないので、形見なのだから持って帰れという主張。
サーシャは、持って帰ったところで金庫にしまうだけ。
万が一傷口が大きく開いた時の事を考え、母上に持っていて欲しいという主張。
「カルデネに約束をしたのです『出来る限り痛くないように傷の手当てをする』と、ですから持っていて欲しいのです。」
サーシャのこの言葉で、母上がリュヌの銀の櫛を預かる事になった。
◇ ◇ ◇
『ジイジ。カルデネの事。お願いね。』
『わかっておる。安心せい。』
と、コスモとジジイの会話が聞こえる。
早めの昼食を済ませ、俺とサーシャが王都へ戻るのだ。
サーシャはマリーのお腹を優しく触り、別れの挨拶をしてから俺の方へと向かってくる。
その際の俺を見るマリーの目が、殺気を帯びていたのは言うまでもない。
ルベライトに帰ってからサーシャの着ている服という服が、着脱に時間がかかる物だと感じているのは俺だけだろうな。
王都のサーシャの服は、全部俺が選んだ服だから、簡単に脱がせる事が出来る。
おっと、いけない。暴走するなよ俺。
こうして、俺とサーシャはコスモの背に乗り、王都へと向かった。
マリーの殺気を感じられなくなってから、すぐにサーシャをマントの中に入れる。
するとサーシャは、俺の背中に回している手に力が入り、しっかりと俺に摑まる。
ああ・・・可愛い。可愛すぎる。
俺もサーシャを支えている手に力が入る。
「サーシャ。」
と、呼びかけると俺の中で、サーシャがゆっくり身動きをする。
「・・・好きだ。」
その言葉にサーシャが瞬時に驚き俺の腕の中で身動きする。
「い、いきなり・・な・・何なんですか?」
俺の腕の中で、耳まで赤くなっているんだろうな。
頼むから恥ずかしそうに答えないで欲しい。
可愛すぎるだろう。
「サーシャが可愛いから、言うべき言葉を間違えた。」
ワザと間違えて言っている事は言うまでもないが。
サーシャはというと、俺の腕の中で体を少しすくめた。
ああ・・・本当に可愛い。
「俺は、サーシャが好きすぎて暴走していた。今ですら暴走してしまいたくなっているが、サーシャを傾国の美女になどさせたくない。」
俺は、サーシャを抱き寄せる。
「暴走している中で、アシュムの運営に尽力してくれた事感謝している。」
俺と違い、肉体的に力も体力もないのに、必死にアシュムの事を思い動いてくれた。
感謝と共に敬意も感じている。
「当然の事をしただけです。」
俺の腕の中からしっかりとした口調で言ってきた。
ああ、俺は素晴らしい女性を妻にすることが出来た幸せ者なんだ。
「サーシャ。さっきも言ったが俺はサーシャを傾国の美女にはしたくない。だが、暴走はもうしないと断言できない。」
ここで断言してしまったら、例え暴走しても、ここで断言したから暴走していないと、いい訳を言うかもしれない。
だから、ここは素直に答えるべきだ。
「もし、暴走していると思ったら、周りに助けを求めてでも、止めて欲しい。」
サーシャは、重く受け止めてくれたらしく、少し間を置き頷いてくれた。
「そして、もし、余裕があったのなら、俺の暴走に付き合って欲しい。受け止めて・・・欲しい。」
言いながら、サーシャが好きだという気持ちを受け止めて欲しいと思ってしまい。懇願してしまった。
サーシャが、身動きせず止まる。
そうだよな・・・受け止められるだけの余裕ないよね。
精一杯だよね。
俺は、謝ろうと口を開こうとした。
「その・・・伴侶の絆を結ぶ事の出来なかった約50年間を独身で過ごされた方は、独占力が半端ないという事は聞いています。」
サーシャはマントの中で顔を上げる動作をする。
「だから、暴走は仕方ないと・・・そう、思ってました。」
これまで、素直に俺の暴走に付き合ってくれたのは、そういう事だったのか?
「でも・・・私の事を、もう、国を亡ぼす行為をしたくない私の気持ちを受け止めてくださってありがとうございます。」
サーシャは、一端マントの中から出て来る。
「その・・・うれしいです。」
眩しさからぎゅっと目を瞑りながら頭を下げる。
・・・?
なかなかサーシャは頭を上げてこない。
俺は、サーシャの方を見ると耳が赤くなっていた。
「暴走して困った時は、助けを求めます。ですから、我慢しすぎないでください。」
サーシャは、顔を上げて俺を見る。
その顔は真剣で、そして、目は潤んでいた。
「愛する人の、愛される気持ちを受け止めきれないのは、私が辛いですから。」
「っ!?」
俺は、サーシャにキスをしていた。
もう、この行動は反射的だよ。
そうなるだろう。
こんな殺し文句を言われたらさ~。
キスで我慢するから付き合ってくれよ。




