嫁がいない朝食
目を覚ますと、そこにはサーシャがいなかった。
モーリスに聞くと、母上がサーシャを連れて行ってしまった。
今日の昼には、ルベライトを発ち王都へ戻らないとならない中、朝の温泉に一緒に入れないのは残念でしかない。
朝食をしに食堂へと向かう。
そこには、父上が座っていた。
「やあ、おはようヘンリー。」
満面の笑みで挨拶をする父上に、朝の挨拶をしてから席に座る。
「ヘンリー。いつも以上に膨れっ面な顔をしているように見えるのだが、そんなにサーシャがいない朝は寂しかったのか?」
当たり前な事を父上が言って来た。
明日からサーシャは、再び学校へ行ってしまう。
もう、今日しかサーシャといられる時間がないのだ。
だから、離れたくないと思ってしまうのは当然だと思うのだが・・・。
「なんだ、図星か。それなら、この父のところに来て一緒に温泉に入ればよかっただろう。もう、ヘンリーは可愛いな~。」
何なんだこの親は・・・大丈夫なのか?
俺が寂しいと思うのは、サーシャがいなかったからであって、サーシャの変わりは誰にも出来ない。
サーシャがいいのだ。
サーシャがいないからって、父上と男の会話で紛らわすなど、俺はそんに寂しがり屋ではない。
馬鹿にしないで欲しい。
「あのな、ヘンリー・・・。」
何か父上が伝えようとしている所に、食堂の扉が開かれた。
俺は、扉の方を見る。
すると母上が入って来た。
後ろには・・・・・。
サーシャが付いてきていない。
どういうことだ?
「母上・・おはようございます。」
母上は、挨拶を返してくれた。
父上が席から立ち上がり、母上をエスコートして席に座らせる。
「母上・・・サーシャは?」
「サーシャは、私の部屋で重要な作業をしているわ。」
朝食は部屋で採るように指示を出している事を説明する。
俺は、サーシャのもとへ行こうと席を立つ。
「待ちなさい!!」
と、母上は俺を止める。
そして、扉の前には使用人が俺の行く手を塞ぐ。
「どうして、行く手を塞がれないとならないのだ?」
サーシャは俺の嫁だぞ。
嫁を想って何が悪い。
「いつまで、女に現を抜かしているのですか?」
「サーシャは俺の嫁です。」
母上は何を言っているのだ?
母上にとっても、ルベライト公爵家にとっても跡取りを産んでくれる大事な存在のはず。
俺がサーシャを想って、嫁を想って何が悪いのだ。
「嫁も女よね。ヘンリーにとって、サーシャはいつから女でなくなったの?」
「ヴァネッサ。今のヘンリーには、言っている言葉の意味が解りづらいよ。」
父上が、微笑を浮かべながら、会話に参戦する。
「この場合はね『嫁に現を抜かすな』もしくは『サーシャに現を抜かし過ぎている』が正しいかな~。『サーシャを傾国の美女にするつもりか?』でも可だね。」
父上が、真面目な顔で俺を見る。
サーシャは故郷に革命を起こした張本人だと、傾国の公女だと思っている。
・・・・俺は、これまでサーシャの為に何をしてたんだ?
「ヘンリー、座りなさい。」
と、父上の言葉に促され席に座る。