クローライト城にて・・・
約4ヶ月前。
クローライト城では、誰がサーシャさん、いえ、サーシャ様ですね。
サーシャ様の専属の侍女として、ルベライト城へ行く事になるか使用人たちの間で話題となってた。
フィオナは、サーシャ様にコートを貸したり、サーシャ様がキャサリン様の専属侍女としてクローライト城へ来た当初から、サーシャ様の事を気にかけ、妹のように可愛がっていたので、フィオナが一番の有力候補だろうと使用人たちの間でも、言われてはいた。
ただ、母親としては娘をルベライトへ一人行かせるのは心配をしていた。
そんな中、私とフィオナがキャサリン様の執務室に呼ばれたのです。
「フィオナ、デボラ。あなたたちに見て欲しい物があるのよ。」
と、テーブルには資料があった。
その資料は、サーシャ様の過去の事が書かれている。
キャサリン様と同じイリス帝国の出身であること。
そして、キャサリン様の実子であるリオン様を殺した一族クラウンコッパー公爵家と同じ姓名を持っていた事。
でも、一番気になったのが、サーシャ様が過酷な子供時代を過ごしていたという事だった。
サーシャ様の資料を見せるという事は、やはりフィオナがルベライトへ行く事になるのね。
「これを見た上でお願いがあるのよ。」
目をキラキラさせながら次の言葉を待つフィオナの隣で、私は複雑な気持ちでいた。
「2人にサーシャの専属侍女となって欲しいの。」
・・・・2人?
私は、キャサリン様に聞き返してしましたが、間違えではなかった。
「サーシャは、私の事を母と慕ってくれているわ。」
それは、城内だけでなく、城下でも有名なお話です。
「私を見本としても、たった一年でしょう。だから、きっと不安にさいなまれると思うの。」
キャサリン様は、もの思いにふける顔を浮かべていた。
「ルベライト城の人々が支えてくれることはわかっているけど、それでも、不安でね。」
ルベライト城は、少し前までメイドの新人いじめがあったと言われているから、それを気にしているのでしょうか?
「何せ、この私が『母』の見本よ。」
キャサリン様は鼻で笑い、悲壮な顔を浮かべる。
「アリシアの母である私。それだけではないわ。妻に逃げられたヴィンセントを育てたのも私よ。」
ヴィンセント様のお母様は、お医者で公爵家に嫁いでも、医者を辞めることなく、育児と仕事の両方を懸命に努めていました。
ですが、疲労がたまり、そのままベッドで目を覚ますことなく、永眠をされてしまったお方です。
そして、まだ幼いヴィンセント様を育てたのは、キャサリン様です。
亡くなられた母の事を言い聞かせながら育てらたと、使用人の人たちの間では有名な話です。
そのヴィンセント様は、子爵家の三女と結婚し、夫人との間にライナス様を設けますが、それ以降夫婦の営みはなく、ヴィンセント様は領民の為に奮闘するようになってしまいました。
夫人は子育てに奮闘する母にはなれず、女として生きたかったらしく愛人を作り、ライナス様を置き、その愛人と国を出て行ってしまいました。
キャサリン様は、どうやら全て自分のせいだと思われているようです。
人間性は、果たして母親の愛情の与え方で、すべてが決まってしまうモノなのでしょうか・・・。
周りの人々、環境で変わるモノと私は思うのですが。
もし、母親の愛情の与え方だけで、人間性が決まるというなら、あまりにも世の中は、母親というモノに、責任を押し付けすぎると思うのです。
母親の愛情の与え方は、人間性の一部ではあるとは思うのですが、
一部でしかないはずです。
私は、その事をキャサリン様に伝えると、嬉しそうに微笑んだ。
「だから、あなた方に頼みたいのよ。」
「わかりました。フィオナと一緒にサーシャ様の専属になります。」
私は、そのように答えると、フィオナは私も一緒という事も含めホッとしていた。
「サーシャは、自分が育った環境が良くない環境だという事しかわからないわ。」
私たちは、キャサリン様の言葉に頷きながら聞く。
「子育ての本や、資料を見ても、それがどのようにいいのかも、きっと、わからないわ。」
ここまで、過酷だとそのように思うかもしれません。
キャサリン様が心配されるのもわかります。
「ですから、生の声を聞き、時に捉え方も教えて欲しいのよ。その為にあなたたち親子が、サーシャには必要なの。」
キャサリン様は、本当にサーシャ様を思われているのですね。
こんなにも真剣に訴えるモノがあるのですから・・・。
「ルベライトのやり方と、クローライトのやり方、双方の良いところを伝えられるように、務めさせていただきます。」
私が答え頭を下げると、フィオナも頭を下げる。
「ありがとう。よろしく頼むわね。」




