役割と分別
「ヘンリー様。ドラゴンの子供の育児の件は、カリスタ様が主体となって動いています。同じようにアジュムの運用に関わりたいのです。」
私は、考えていた事を伝える。
国のトップである国王の妃であるカリスタ様が、ドラゴンの子供の事に関わっているのなら、ドラゴンのトップであるヘンリー様の妻となる私が、アジュムに主体となって関わる事が出来るはずと思ったのだ。
ヘンリー様は立ち上がり、私の隣に座る。
「それは、サーシャのここに黄金のドラゴンの文様があるからかい?」
と、ヘンリー様は私の鎖骨と胸の間を指さす。
「はい。」
私は、真剣な眼差しでヘンリー様を見て言う。
ヘンリー様は、ため息をついた。
「それなら、させてあげられない。」
「どうしてですか!?」
私は、その場を立ち上がり訴える。
「サーシャ。まあ、まずは座って。」
と、私の腕を掴み、再び座らせる。
「サーシャは、これから俺と長い時を生きていくことになる。」
それは、もちろんの事だわ。
「でも、永遠ではない・・・わかるね。」
私は頷き、ヘンリー様の話の続きを聞く。
「サーシャが亡くなった後は誰が引き継ぐんだ?」
・・・・っ!
「金色のドラゴンは易々と生まれはしない。もし、生まれたとしてコスモの様に、すぐに絆を結ぶともわからない。そうなった時は、どうするんだ?」
忘れていた。
そうだ、ヘンリー様はドラゴンのトップである黄金のドラゴンと絆を結んだけど、引き継がれるモノではない。
王族とは違い、一時許された地位だ。
ヘンリー様は公爵家の者でしかない。
「・・・私は、まだまだのようですね。」
イリス帝国でのクラウンとついた公爵家の地位は、確かにここの公爵家の地位とは変わらない、皇族がいてその下に3大公爵家。
でも、ドラゴニアとの違いは、2大公爵家であるクラウンサルファー家とクラウングアノ家が皇族の権力を握っている。
そして、母の故郷であるナーガ王国は、母の実家であるヘリオドール侯爵家が王家を監視して、時に王族を操っている。
だが、ドラゴニア王国は、トリプライト王家の立場をわきまえて公爵家が動いている。
あの、腹黒堕天使のフレディ様ですら、ピューゼン王国の王女を妻に迎えたとしても王家と公爵家の立場をわきまえているわ。
「私は、未だにイリス帝国のクラウンコッパー家の人間をしているのですね。」
・・・嫌で嫌で、クラウンコッパー家の事を忘れたいと思うのに、未だに切り離せないでいる。
「クソくらいなのに・・・。」
ヘンリー様は私の頭を撫でる。
「私は、王家をないがしろにするつもりはありません。支えていきたいです。」
ヘンリー様は、頭にやった手を伸ばし、肩を寄せ合わせてくれた。
「うん、わかっている。」
優しく私をあやすように、ヘンリー様は私に言ってくれた。
さっきまで、胸糞悪さが一瞬で柔らかい気持ちになって行く。
「でも・・・そしたら、どうしたらいいのでしょうか・・・。」
やはり、そのままには出来ない。
「アジュムの管理の事を呼びかけるのは、サーシャで問題ないと思う。」
私はヘンリー様の肩にやった頭を起き上がらせ、ヘンリー様を見る。
「公爵夫人に、アジュムの運用を主体となって動いて貰うように、呼びかける事は可能なはずだ。」
私は、目をパチクリする。
「クローライトはきっとキャサリン殿が引き受けるだろう。」
うん、ヘンリー様のいう通りキャサリン様なら、引き受けてくれるはずだ。
もし、キャサリン様の仕事量が多い時は、私が手を貸すことも出来るはず。
一応、クローライトが私の後見人なのだから。
「ダンビュライトは、クリスティーナ殿と、仲良しなんだろう。」
うん、その通りで、手紙のやり取りをしている。
クリスティーナ様が、ピューゼン王国で、試験的にもち米の栽培をしようとしている事を手紙で伝えて来てくれたわ。
だから、呼びかけに応じてくれるかもしれない。
「クリスティーナ殿が動いてくれれば、王太子妃のシルヴィア様は、クリスティーナ殿の娘だから、必ず引き受けてくれる。」
私の目はどんどんと大きくなり、事が動かせることの喜びをひしひしと感じていた。
「そして、キンバーライトは、サーシャが聖ドラゴニア学園に通っている今だからこそ、つながりが出来るはずだ。」
私は、何なのかわからずに呆気にとられた顔をヘンリー様に見せる。
「セシル殿の夫人はセラ殿と言って、結婚前はセラ・シナバーという名前だ。」
シナバー・・・どこかで聞いた姓名だな。
「一石二鳥以上を経営している店主の姉上のはずだ。」
初耳だわ!!
・・・私、知らず知らずにとんでもない方々と繋がりを持っていたんだ。
「大丈夫。サーシャはしっかりドラゴニアの人間として生きている。」
ヘンリー様は私を抱きしめてくれた。
私は、嬉しくて、嬉しくて、そのぬくもりに顔をうずめた。
アジュムの管理が、今後、公爵夫人の役割となっていく事が出来る。
・・・・私の胸にやりがいを感じていた。