帰路の空にて・・・
アジュムに私は一人で向かう。
ライ様は、アマルテアに乗ってアジュムに行く事になっているからだ。
アジュムに行くと、ルベライトの騎士が、包帯ぐるぐる巻きのカルデネの運輸の準備をしている。
そろそろ準備が終わる頃で、カルデネを乗せた布の、どの位置を誰が持つかの話合いをしている。
「お待たせいたしました。」
私は、無表情という無表情でみんなの前に来る。
「・・・サーシャ。」
ヘンリー様が、私の方を振り向き、目が合うと、私はすぐに目を逸らし俯く。そしてヘンリー様の横を通り過ぎる。
「どうぞ、よろしくお願いします。」
と、ライ様にお辞儀をする。
「あっ・・・ああ。」
微妙に驚くライ様をしり目に、私の唇は震えていた。
そして、アマルテアに乗ったライ様の後ろに乗る。
「・・・・では、行くぞ!!・・・丁寧に扱え!!」
と、ヘンリー様が言うと、カルデネの乗せたドラゴンが平衡を保つように飛翔する。
無言で、王都の空を飛んでいる。
何とも・・暗い感じがする。
耳を通り過ぎる風の音も、無音を誘うような、とぎれとぎれの音が通り過ぎる。
息遣いも皆、息を飲むような息遣いをしている。
カルデネを丁寧に運輸することもそうだが、この雰囲気にのみ込まれているようにも見える。
そして、王都を通り抜けて、森の上空になった。
「サーシャ・・・気を付けろよな。」
と、ライ様は心配そうに、森の上空で、ヘンリー様のいるコスモに移る。
「サーシャ。手を伸ばせ。」
私は、おどおどしながらも手を伸ばす。
そして、手を捕まえられると、あっという間に、ヘンリー様に引かれ腕の中に納まる。
”ギュウッ”
と、ヘンリー様の背中に手を回す。
「・・・・・・うっ・・うぐっ・・・」
ヘンリー様の胸に顔をうずめて抑えきれない衝動が溢れて来る。
涙が止まらないのだ。
悲しくて・・・情けなくて・・・どうしようもない感情が、ヘンリー様の温もりを直に振れたことで溢れてしまっていた。
「・・・サーシャは、風邪ひきやすいからな。」
そう言い、ヘンリー様は自分のマントに中に私を包み込む。
「うう・・・うう・・悪くないのに・・カルデネは・・・何も悪いことしていないのに・・・。」
マントの中から私の声が漏れている。
「ああ・・・。」
ヘンリー様は、マントの上から私を抱きしめる。
「ふっ・・・ヘンリー殿。それでは、これで・・・。サーシャ、月曜日にな。」
”キューーーッ”
アマルテアの鳴き声でなんとなく、クローライト領の方へ向かったことを察した。
「俺らも、ルベルタへ行こう。」
ヘンリー様が優しく言ってくれた。
「ぐす・・・うう・・・・カルデネは何も・・・何も・・・悪くない・・・ぐすっ・・。」
マントの中から、涙ながら何度も訴える。
「そうだな・・・カルデネは何も悪くない・・・そして、サーシャだって、何も悪い事はしていない・・・・。」
ヘンリー様は、マントの上から私に頬ずりをする。
「クローライト公爵家に、ドラゴンの卵の盗賊団を取り締まるのは、身体的に酷だ。それを判って中央に任せた。サーシャに落ち度はない。」
ただ、悪い方向に事が動いてしまった・・・。
「悔しいよ・・・・悔しい・・・うう・・・。」
静かながら泣きじゃくる私をあやすヘンリー様。
「ああ・・・皆、悔しいと思っている。」
「・・・悲しいよ~・・・うう・・・悲しいよ~・・・。」
”キュゥ”
と、微かだがカルデネの鳴き声が聞こえた。
その鳴き声に、辺りが明るくなったような雰囲気に包まれた。
「・・・ああ、悲しいな。」
”キュゥ”
カルデネが、『ありがとう』と、何度も私たちに伝えていた事を後日知る事になる。




