物の大切さ
「犯人だから、逃げたいのですの?」
何ですって!?
”ザワザワ”
厄介な場面とは、こういうのかしらね。
でも、先週の掃除の時に思ったことがあったのですが・・・・。
私は、人だかりの方へ戻ると、人だかりが避けてくれ、簡単にラヴィニアさんの近くまで来た。
ラヴィニアさんの足元に置かれた数本のモップ。
そのモップを手に取りよく見る。
・・・・やはりね。
「ボロボロですね。」
私は、呆れたような表情で言った。
「ボロボロにした張本人がいう事ですの!」
”そうだ。そうだ。”
と、辺りから声が聞こえる。
「静かにしろ!!」
ライ様が出て来てくれた。
「サーシャが、このような事するわけないだろう。」
ライ様が弁解をしてくれる。
「何故、公爵家の者が、そのような下級貴族を助けるのですか?」
エメラさんが文句の様に言ってくる。
「サーシャは、モップが壊れたら堂々と言う性格だ。」
ライ様・・・わかって貰えてうれしいです。
「このモップは、悪気がなくても壊れるであろうモップですから、なおの事、素直に言いますね。」
私は、持っていたモップをラヴィニアさんに見せる。
「折れた箇所が腐っているでしょう。長年使っているモップですから、木の部分が腐って折れやすくなっていたのでしょうね。」
折れた箇所は腐っていてボロボロだった。
「道具の管理者はどちらですか?」
私が言うと、施設の子供たちが、おどおどしながら来る。
腰を下ろし、子供に視線を合わせる。
「新しいモップを請求しているか、修理依頼をする予定ではありませんでしたか?」
子供たちは顔を見合わせる。
そして、一番の年長者が、手を挙げる。
「新しい柄を作っている最中です。」
うん、なるほど。
依頼でなく、自ら作るのね。
「道具を大事に使っているのですね。」
私は、満面の笑みを子供たちに見せる。
前世の貧乏性の心が、同志と感じて親近感がわきます。
「せっかく、たくさんの人がいるのですから、協力して修理してしまいましょう。」
その言葉で、子供たちの表情が一変する。
小さい子が私の手を引き、屋敷の中まで案内してくれた。
生徒たちが数人ついて来る。
ライ様も、その中に心配そうな顔立ちで付いてきてくれた。
屋敷の中の作業場というようなスペースには、ニスを縫った棒が置いてあり、後は付け替えるのみの段階だ。
「今日の作業が終わったら付け替える予定だったんだ。」
と、子供の一人が言ってくれた。
「一緒に作業が出来てうれしいわ。」
私は、ボロボロの柄を取り外す作業をしながら言った。
「お姉ちゃん、どうしてなの?」
私のズボンを掴み、可愛い女の子が言って来た。
私は、その子の頭を撫でる。
「だって、物の大切さを教えてくれたからよ。」
新しいモップを買う事は簡単な事。
でも、それをせずに子供たちは力を合わせ、修理を自する。
ここにいる子供たちは、物の大切さをちゃんと知っているのだ。
それを私たちに、直に行動で教えてくれた。
前世貧乏性の私ですら、修理依頼までしか考えなかった。
自ら修理することで愛着がわく。それも含めて、教えてくれてたのだ。
今日の授業はいい授業時間になったわ。
モノの30分ぐらいで、モップの修理が終わり、ドラゴンの巣の掃除に戻る。
子供たちも嬉しそうに掃除をしている。
・・・良かった。
”びゅ~”
と、春らしい風が吹いて来る。
「・・・?」
な、なんか・・・嫌な臭いがします。
特殊清掃の血が騒ぐというか・・・モノの例えがおかしいんだが・・・。
だって、特殊清掃をしていたのは前世であって、その血は一滴ですらないのだから・・・。
うん・・・・この場合は、記憶が騒ぐが正しいのかしらね。
「嫌ですわ~・・・あのドラゴンが近くに来ているのですわ。」
そう言ってラヴィニアさんと取り巻き3人トリオは、その場を去ろうとする。
「すみません。あのドラゴンって何ですか?」
「行ってみれば、お分かりになりましてよ。」
と、去り際に答えるだけだった。
まあ、そうですよね。
ですが、ここは前世での特殊清掃員の私です。
行きましょう。
私は臭いのする林の中へと向かう。
「サーシャ、行くのかよ。」
ライ様が鼻を押さえながらついて来る。
「辛かったら、ついてこなくても平気ですよ。」
「俺も、あのドラゴンとは何か知りたいから行くだけだ。」
そうですか・・・・。では行きましょうかね。
「サーシャはこの悪臭平気なのかよ。」
「ライ様。私は、元メイドですよ。このような臭いには多少慣れています。」
正確には、前世からですがね。
「メイドと言っても、お前は公爵令嬢だろう。」
「クソな名が入った一族の名を挙げても、説得力ありませんよ。」
ライ様は、吹きだした。
「笑わせるなよ。」
別に、笑わせるつもりはなかったのですが・・・。
林の中を行くと、黄色い小さな実がなった少し低めの木が、点々と林の木の中にあった。
そして、その実を食べているドラゴンを目にした。
「な、なんてことなの!!?」
私は自分の目を疑った。




