プログラマーだった俺
「エナ・ファルティーの企画課、ロードネーションチームプログラマーの椋梨翔英です。」
「妹の花蓮です。」
俺は、巻基という女性と名刺交換をする。
「1年前の事件は悲しいモノでしたね。」
物思いに巻基さんが言う。
「あの事件の真相を詳しくご存じですか?」
巻基さんは、2人を殺した後、スプレー缶を買い、周りを巻き込んで自殺をした事しか知らなかった。
「犯人が殺した2人は、お兄ちゃんの会社の人なの。」
チームメロティーのシナリオライターの2人。
シナリオライターのアリスさんに、アリスさんの後輩の同じシナリオライターのみちよさんだ。
「アリスさんは、俺の大先輩で、そのシナリオに憧れて入社する人も多く、みちよさんもその一人だったんです。」
チームメロティーのチームリーダーも影から支える、肝っ玉母さんのような人だと誰かがいっていたな。
「みちよさんは、斬新なアイデアのシナリオを描くライターさんです。」
妹は、巻基さんにシナリオライターのみちよさんの方の説明をしてくれた。
乙女ゲームのシナリオだけでなく、ロールプレイングゲームのシナリオにも携わる事もあったが、憧れのアリスさんと同じ乙女ゲーム部門で仕事をしたいと、頑なにチーム変更をしなかった事を、妹は伝えてくれた。
「チームメロティーで、みちよさんのシナリオが採用されたのは一つ。」
女性向けバージョン、男性向けバージョンの2つのバージョンがあるゲーム。
結構人気が出て、2弾も出して欲しいと言われていたな。
「その一つに、熱狂的なファンの男性が付いたのです。」
それが犯人だ。
「みちよさんは最初悩みましたが、アリスさんも普通にたくさんのファンがいた事で気にしなくなったんです。」
みちよさん自身もアリスさんのファンだからな・・・。
「そんなある時、チームリーダーの夢に、ドラゴンが飛んでいる夢を見て、翌朝その事を旦那さんに打ち明けたら、旦那さんも同じようにドラゴンが飛んでいる夢を見た事を知り、『ドラゴン・フライ』という名のゲームを出すことにしたんです。」
妹は、小説のあとがきに載ってた内容を伝えた。
その小説を見終わった後、チームリーダーの顔を知りたいと妹にせがまれたっけな・・・。
「チームメロティーのシナリオライターさんに、その題でゲームのシナリオを出すよう通達。すぐに、みちよさんがシナリオを描きあげ提出すると、他のライターさんは、みちよさんのシナリオを押した。」
内容は不明だが、斬新的で素晴らしいと同僚が言ってたな・・・。
「だけど、シナリオの提出最終日に出されたアリスさんのシナリオが、あまりにもいいモノで、即採用されることになったの。」
妹に勧められ『ドラフラ』『続・ドラフラ』をやったが、傑作・・・その言葉が当てはまるゲームだった。
「それが、みちよさんの熱狂的ファンの耳に入り、みちよさんのシナリオが世に出なかったのが、アリスさんのせいだと、アリスさんを殺害。その事をみちよさんに報告するが、到底受け入れて貰えず、みちよさんも殺害・・・それが、真実ですよ。」
・・・・・・・。
沈黙な状態になった。
「イチゴスムージー苺と、ベリースムージー・ティラミス、それから抹茶スムージー・フルーツをお持ちしました。」
と、店員が頼んだ物を持って来てくれた。
「お兄ちゃん、味見させてね。」
「わかっているよ。」
妹の会話で、雰囲気が変わった。
「溶けますから食べましょう。」
そう言い、俺たちはかき氷を食べる。
◇ ◇ ◇
「サーシャ様、起きてください。月曜日ですよ。」
”パチッ”
私は、月曜日という言葉に、一気に目が明いた。
「フィオナ・・おはよう。」
私の専属メイドのフィオナが起こしに来てくれたのだ。
フィオナのメイド服の襟元には、しっかりと紫色のパールのピンバッチ、それにマルベリー柄のピンバッチが付けられている。
私は、ヘンリー様の腕から脱出し、上体を起こす。
まだ眠く、重たい瞼の上を手の甲でこする。
「支度にお時間がかかるので、早めに起こしています。」
フィオナがカーテンを少し開ける。
まだ、外は薄暗かった。
「気にしないで・・・支度かかるのはしょうがないわ・・・・。」
徐々に状況を把握する。
うん・・・今の私、裸だぞ!
”ガバッ”
すぐに顔を真っ赤にして、見えていたであろう上半身をベッドカバーで隠す。
えっと、服は・・・記憶にございません。
「どうぞ」
と、新しいバスローブを渡してくれた。
渡してくれたフィオナの顔が微笑ましく私を見ている。
なんか・・・恥ずかしいな~。
「あ、ありがとう。」
私は、バスローブを着てベッドから出て、すぐに浴室へと向かう。
体を洗い、脱衣所に出るとバスタオルの他に制服も準備されていた。
ありがたいと感じながら、制服に着替える。
脱衣所を出ると、フィオナがバルコニーに案内をしてくれた。
そこには、黒い瞳の赤いドラゴンがいて、口から風を出してくれる。
その風で髪を乾かす。
・・・それにしても、フィオナは気が利く。
元メイドをしていた私の行動が、幼稚に思えて来る。
フィオナは、元クローライト公爵家で働いていたメイドで、クローライト公爵家に行ったばかりの時にコートを貸してくれた人である。
母のデボラ・エルシリカと一緒に、私の専属メイドになってくれたのだ。
バルコニーで髪を結わいて貰う。
しっかりと風を送ってくれたドラゴンにお礼を言うと、ドラゴンの小屋に帰って行くのを見送り、部屋の中に戻る。
ヘンリー様は、まだぐっすり寝ている。
だが、私には学校が待っている。
部屋を出て朝食をとる。
再び寝室へ戻り、歯磨きをする。
「サーシャ様、そろそろ時間がせまっております。」
歯磨きを済ませて急ぎ部屋を出る。
・・・・。
まだ、ベッドで眠っているヘンリー様を見る。
「ヘンリー様、行ってきます。」
そう言い、フィオナが見ている中であろうが・・・するべきだと、意を決して、ヘンリー様の唇にキスをして、急ぎ足で玄関まで向かう。
玄関へ向かいながらフィオナから鞄を受け取る。
玄関の扉が、使用人の男性によって開けられる。
「サーシャ様。お忘れ物です。」
と、フィオナから渡されたのは、コンパクトミラーだった。
コンパクトミラーには、鈴蘭の模様が施されている。
フィオナの故郷では、婚約者を守ってくれる花とされ、婚約したら鈴蘭の柄の物をお守りとして持っているという習慣があると説明をしてくれた。
なので、私は、フィオナと一緒に鈴蘭の柄の物を探し、コンパクトミラーが気に入り持つようにしている。
「ありがとう、フィオナ・・・どうか、私を守ってくださいね。」
そう、念をコンパクトミラーに込めてから、制服のポケットに鈴蘭の柄のコンパクトミラーを入れ、玄関を出た。




