被害者は私のはず
”ピーポーピーポー”
救急車の音で目が覚める。
私は、あたりを見回す。
うん・・病室のベッドだわ。
これって、入院をしたって事よね。
サイドテーブルの上の大きなビニール袋を見る。
血で染まったブラウスが入っていた。
私は自分の着ているものを確認、病院着を着ていた。
・・・服、どうしよう。
病院内で服売ってるかしら?
Tシャツぐらいは・・・って、今は冬だから、風邪ひくわ。
入院費の支払いの他に、洋服代もかかるわね。
今月の出費が~。
私は、頭を抱えた。
・・・うん、痛いわ。
頭に巻かれた包帯。
あらあら・・私が頭を抱えてしまったせいで、包帯が解けた。
えっと・・・ナースコール押していいのかしら?
うん、押そう。
私は、ナースコールを押すと、すぐに看護師が来てくれた。
「目を覚まされたのですね。」
私は、看護師に謝り、包帯を巻きなおして貰う。
「昨日、救急搬送で病院に運ばれたのは覚えているかしら?」
「頭を叩きつけられてから意識ないのでわからないのですが・・・その・・私、保証人がいません。ですので、入院費というのか・・先に預り金を預けた方がいいのかしら?」
看護師が、一瞬止まったのがわかった。
私は、学生時代に入院を経験している事。その際、保証人の事で病院ともめた事を伝えた。
すると、看護師もわかってくれたようで、担当の者を呼んでくれると言ってくれた。
怪我の方は、出血が酷かったが、軽い脳震とうで済んだ。
頭を打ち付けたところに、小石などの突起物があったのだろうと医師が言っていた。
着替えのことだが、病院内にあったコンビニでTシャツの他にカイロを買い寒さ対策をして自宅に帰宅。
病院内にいた時に会社に連絡を入れたら、今日一日は休めと言われたので、ゆっくり休むことになった。
翌日、出社すると、やはり私の顔を見るや、コソコソ話をする人がいた。
あそこにも、向こうでも・・・どこにでもって感じに・・・。
私、被害者ですが・・・。
はあ~・・・真面目に仕事しよう。
私は、自分の机で真面目にコツコツと仕事をしだす。
書類のチェック・・・困ったな。
・・・佐賀宮副部長の担当なんだよね。・・・・仕方ない。
これも、仕事よ!
私は、意を決して佐賀宮副部長のところへ行く。
「佐賀宮副部長、チェックをお願いします。」
私は、書類を渡すとすぐに自分の机に戻ろうとする。
「浅見さん。昨夜は妻が失礼な事をした。」
佐賀宮副部長が、私の方を見ず、書類を見ながら言った。
「先にハラスメントをするつもりはないとだけ言っておく。だが、言わせてもらう。今回の件、浅見さんがビッチと噂があるから、このような事が起きた事。しっかり反省して欲しい。」
・・・・何だと?
私は、血が沸騰しそうな思いで佐賀宮副部長を見る。
私・・・処女ですが。
「なんだその顔は、真面目な顔して、凄い事をしているだろう。チェックは終わったから席に戻れ。」
佐賀宮副部長は立ち上がる。そして私の横を素通りして、その場を去って行った。
社員たちのコソコソ会話があちらこちらに見える。
私は、自分の机に戻る。
そして・・・処女のビッチってどんなよと、思いながら我慢して作業をする。
一か月後。
私は住枝部長に呼び出され、会議室に入る。
「浅見さん。仕事大変だろう・・。どうだろう浅見さんの実家は、菱部と聞くが、菱部支社に移動はどうかね。」
左遷の勧めか・・・。
来るのではと予想したくはなかったが・・・。
でも私、被害者です。
どうして、左遷されなくてはならないの?
そして、左遷場所がお決まりのように実家なの?
「住枝部長。私は実家との折り合いが悪く、大学を期に家を出た身ですので、その話しは、なかったことにできませんか?」
被害者なのだから、この話し自体がおかしいのだが・・。
「わかった、だが、他の支社に移動となるから用意をしておくように。」
「恐れ入りますが、私は被害者ですよ。どうして左遷のような事をされないとならないのでしょうか?」
私は、一応被害者であることは伝えるべきという思いで言った。
「被害者だろうと、問題を起こした。佐賀宮副部長も別の支社に移動となる。」
住枝部長は、働き頭である佐賀宮副部長の移動を惜しむ言葉を私にわざと言い。仕事に戻るように言われた。
その一か月後、私は穂野支社に移動となった。