港町シャーマ
私は、大きな鞄を持って船から軽やかに降りる。
感動している私がいるわ。
祝・初ドラゴニア王国到着の地『港町シャーマ』
こういう時って、大地にキスするべきかしら?
私の前をただ通り過ぎただけの野良犬でさえ、可愛いと感じているのよ、やはりここは、大地にキスって・・・野良犬がその場をクルクル回り、片足を上げて・・・シャー
催したよ。
うん、大地にキッスはやめにしよう。ゲームの世界でもここは現実。
「すう~・・・ふ~」
まずは、深呼吸をして冷静になろう。
”どんっ”
と、後ろから人がぶつかってきた。
「危ないだろうデブ!」
随分と心無い言葉をかける男性がいるのね。
あなたのお腹は臨月並みなのですが、あの人にしか見えない鏡があったのかしらね。
まあ、いいわ、今ので冷静になれたのだから。
まずは、商店街に向かわないと、向かうは外貨交換所。
それにしても、さすがは港町の商店街だわ活気に満ちている。
”ホワン、ホワン~”
海風の中からおいしい香りが、それもパンの焼ける香り・・・。
これは、もしかして、もしかしなくても
パンの香りにつられ急ぎ足で歩く。
『ベーカリーうみまつ』の看板だわ。
聖地来たーーっ!!
『ベーカリーうみまつ』
ゲームの恋愛攻略キャラのデリック・ギベオンのスチル付きイベント。
リオンが入学した聖ドラゴニア学園で歴史教師だったのが、恋愛対象者の一人デリック先生。
銀髪、水色の瞳のインテリ眼鏡キャラ年齢26歳(当時ね)
実はデリック先生には、国家鑑定士になりたい夢があった。
国家鑑定士になるには、500歳以上のドラゴンと契約を結ばないとならない規定があったのだけど、周りの協力を得られずに、教師をしていたのだ。
そんな中、ドラゴンと言葉を交わすことができる特別な能力を持つリオンの協力をえて、見事773歳だった美しい黒い雌のドラゴン『ヴァルナ』と、絆を結べたのだ。
そんでもって、ベーカリーうみまつは、ドラゴンを探しに行く際に寄ったパン屋なのよね。
スコーンの特別ブーストがあっていろんな味のスコーンが売られているの。
ゲーム中、3種類のスコーンを選ぶのだけど、チョコチップスコーンを選ばないとスチルが出てこないのよ。
それだけでなく、ハッピーエンドとバッドエンドの分岐点の選択肢にもなっているの。
・・・は?
って、普通は思うわよね。初期の段階からの重要な分岐点の選択をさせるなんて非常識だと、ネット上でも叩かれていたわ。
「デリック先生が、チョコ好き、スコーン好きでもないのに重要な選択肢にするなー!!」
って、私でも思ったわよ。
なので、デリック先生とチョコチップスコーンは、セットとして考えるという呪いのようなルールが囁かれていたわ。
まあ、そんなことで聖地巡礼しなくては、チョコチップスコーンをゲットしに行くぞ!!
◇ ◇ ◇
”カラーンッ”
ベーカリーうみまつの出入り口のドアを開けると、ドアベルが鳴る。
ドアベルの音って、こんなカウベルのような低い音だっけ?
風鈴のような高い音だったような・・・?
店内の雰囲気も、白タイルの壁ではなく、椋木と白い漆喰塗りの壁だったような気がする。
「いらっしゃいませ」
店員が明るく挨拶をしてくれた。
私は戸惑いながら入る。
「あの・・・ベーカリーうみまつって、支店があるのですか?」
「ええ、何か所か国内の港町にございますよ。」
聖地であって、聖地でなかったのね。
私は、店員に本店の場所を聞いてみたら、ドラゴニアの北東の港町イルメという町だった。
港町シャーマは、ドラゴニアの北西の港町なのでドラゴニアの北の領土内にはあるのね。
でも、そこが果たして、デリック先生がチョコチップスコーンを購入した真の聖地の場所かどうかわからないわ。
時間があったら、ベーカリーうみまつを全部行ってみるのもいいわね。
私のドラゴニアでの楽しみが増えたということで、スコーンよ、スコーン。
私は、スコーンのブーストに向かう。
えっと、チョコチップスコーンの入っている籠が3分の1を占めているってどう思う?初めての人は驚くわね。
それだけ売れているってことなのね。
あらあら、『美しき黒ドラゴン ヴァルナのお墨付き』ってポップがついているわ。
こっちのポップにはヴァルナが、3大美ドラゴンの筆頭だとも書かれている。
まあ、リオンは、ヴァルナの鱗を黒真珠のようだと褒めていたしね。
さて、チョコチップスコーンと、チーズスコーンにプレーンと、これでOKね。
レジに直行。
「700リューロンになります。」
あっ・・・お財布の中身!
・・・約1500リューロンなり。よかった購入できるわ。
先に外貨交換所に行ってから来れば、こんな変な心配をしなくてよかったのに、何してるのかしら私ってば、聖地パワー恐ろしいわ。
”カラーンッ”
「ありがとうございました。」
私は店を出て、さっそくベーカリーうみまつの紙袋からチョコチップスコーンを出し味見。
チョコチップスコーンの紙袋の中には、5つチョコチップスコーンが入っていた。その中の一つを取り出して・・・お口の中へ
ああ、おいしい。
スコーンのサクサク感の中に、大人なビターチョコの味が絡み合い、次第に咀嚼で口の中がしっとりになると、チョコの甘さが口の中に広がっていく。
ヴァルナでなくてもお墨付きをつけるよ。
”カラーンッ”
私は再びベーカリーうみまつに入る。
ここまで来れば、郷に入っては郷に従えよ。
スチル『味見は必要』
店を出て、さっそくチョコチップスコーンを食べたデリック先生が、すぐに店に戻り、残り5袋のチョコチップスコーンを購入する。
レジにて店のおかみさんに、デリック先生の口元にスコーンのお弁当がついているのを指摘され、顔を赤くして恥ずかしそうに、メガネのブリッジ部分に手をやり購入する姿がスチルなのだが、結構萌えるプレーヤーがネット上にいたな。
チョコチップ5袋購入したいが、今の所持金では3袋が限界か。だが購入。
店員の笑顔が苦笑いになっているのを気にしてはダメよ。
「ありがとうございました。」
再び明るい声で見送られ店を出る。
あっ、私ってば・・・このままでは野宿の危険があるじゃないの!!
急いで外貨交換所に行かねば。
ドラゴニアの外貨交換所は、国が取り締まっているから閉まるの早いのよ~!
他国からの来たものには地獄だ~!!