まだ、日中です。
”ガタガタガタ”
カラス窓が揺れる音がして、窓を見る。
そこには青いドラゴンが、地上に降りようとしているのが見えた。
「あっ!」
私は、何かを思いついたかのように、母の形見のリュヌの銀の櫛を持って部屋を飛び出す。
”ドンドンドン”
と、私は思いっきり、とある部屋の扉を叩く。
「いったい誰ですか?」
扉が開き、中から人が顔を出す。
ライ様だ。
「サーシャ!?ここは、男性寮だぞ。易々と女性が入っていい場所じゃない。」
玄関口で注意をさせてしまったが、『はい、わかりました。』で、帰るわけにはいかない。
「安心してください。あそこに見えるは夕日。ですので、今現在日中です。」
私は、夕日に向かい手を向けて、ライ様の目線を誘導する。
「日中だろうが、ここは男性寮だ。男を誘いに来ていると思われるぞ。」
「婚約者というか、ほぼ旦那様がいる身です。そんな訳ないでしょう。」
『ほぼ旦那様』という言葉に、いい言葉を見つけたと一瞬思ってしまった私がいた。
「ったく、後の事を考えてくれよ・・・。ヘンリー様にいい訳を考えないとならないんだぞ・・・。」
そのような事をライ様が言い、ため息もつきながらも、要件を聞いて来た。
「至急、ハミッシュ陛下と連絡を取らないとならない事態になったので、ライ様のお力を貸して欲しいのです。」
ライ様というか、アマルテアの力を貸して欲しい。
ライ様は・・・ついで・・・みたいな・・・モノかな?
本人には言わないが・・・。
「貸しだぞ。」
「ならいいですわ。陛下とお近づきになりたい方は、他にもいらっしゃいますからね。」
私は、ライ様の前からトボトボゆっくり歩き去ろうとする。
「ですが、困りましたわね・・・人柄が分からない方を陛下に紹介するのは・・・。これで、とんでもない方でしたら、その対応の為に王家だけでなく、クローライト公爵家の方々にも、ご迷惑をかけるかもしれませんよね・・・。」
ワザとライ様に聞こえるように言いながら歩き、思いっきりため息をついた。
「わかったよ! 力を貸す!」
私はくるりと踵を返し、ニッコリ笑顔でライ様を見る。
ライ様は、私の顔を見るや、ため息をついた。
◇ ◇ ◇
部屋のすぐそばにドラゴンの住処があり、アマルテアがそこにいた。
ライ様と私が近づくと『キュー』と、鳴きライ様の頬に鼻を付けた。
ライ様は、わかったようにアマルテアを撫でる。
嬉しそうに『キュキュ―』と鳴いた。
「アマルテア」
と、私が呼ぶとアマルテアは私の方へ向く。
”キューキュー”
はいはい。ナデナデして欲しいのよね。
アマルテアは、撫でられる事が好きなドラゴンだ。
私が頬付近を撫でると嬉しそうに目を細める。
アマルテアを挟んで反対側ではライ様は前足辺りを撫でる。
「アマルテア。サーシャがアマルテアに頼みたい事があるようだ。」
ライ様が話を切り出してくれる一言を言ってくれた。
すると、アマルテアは私の頬に鼻をチョコンとつける。
「『いいよ』だって・・。」
「ありがとうアマルテア!」
私はアマルテアに抱き着き撫でる。
アマルテアは嬉しそうに喉を鳴らしていた。
「・・・・サーシャ、急ぎではなかったのか?」
はい、その通りです。
「アマルテア、ここから王宮にいるユピテルに伝言をする事は出来るかしら?」
アマルテアは、王宮の方を見つめ、そして『キュー』と、鳴いた。
「出来るってさ。」
「ありがとう!!」
再び、私はアマルテアに抱き着き撫でる。
「だから・・・急ぎだろうが!」
はい、そうです。
・・・だが、せっかくアマルテアに協力して貰ったのだ。
確実に陛下と会話がしたい・・・・。
「ライ様、一字一句間違えることなく伝えて欲しい事があるので、紙とペンを貸してください!!」
ライ様は、アマルテアのところに来る前に言って欲しかった風な言葉を言いながら、それでも部屋から紙と万年筆を持って来てくれた。
私は、すらすらと紙に書きライ様に渡す。
「ここは、『パット』ではなく『シート』ではないのか?」
「いいや、パットでいいのです。」
パットじゃなければおかしい内容になる。
―――――――――――――――――――――――――――――――
ハミッシュ陛下、是非急ぎ、聖ドラゴニア学園に、
視察に来ていただきたい。
陛下が、さいごに使用した自室のマウスパットが、どのような
物だったかなど、いろいろと折り入ってお話がしたいのです。
ご心配なら、ピアーズ殿も一緒に視察に同行しても構いません。
是非、いらしてください。
―――――――――――――――――――――――――――――――
今現在、ハミッシュ陛下は、視察禁止中となっている。
だが、急ぎあって話をしないとならない。
そうなると、前世用語付きの内容を伝えなければならない。
ライ様は、アマルテアに伝えてくれて、アマルテアは目を瞑り、交信をしてくれた。
少しして、陛下が来ることを伝えてくれた。