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一石二鳥以上

 『一石二鳥以上』

 何とも怪しい店の名前で、ゲーム中は『購買』としか言われていないし、スチルの片隅から見える店の看板もぼかされてわからないが、小説版には店の名前が出ていた。


 その理由は、『ドラフラ』『続・ドラフラ』の乙女ゲーム制作チーム『チームメロティー』で、この店の名前で争いがあったと言う裏話が、小説のあとがきに書かれていた。

 世界各国のいろんな商品を扱ってる店なので、怪しい物にも手を出しているに違いないという考えは、スタッフ全員にあったようだ。

 ただ、怪しいと言っても、かっこよくなるドリンクとか、可愛くなるリボンとか、そういった学生間の面白い話題に上がりそうな商品を扱っているという意味なので、犯罪になるような商品は扱っていないイメージを名前にしないとならないということで考えに、考えたようだ。

 その結果、ゲーム制作時は決まってなく、購買としてしか扱われず、小説版で初めてお披露目となった名前なのだ。

 そして、店に飾られているこの木彫りの・・・呪いと付けたくなるような変なお面もゲーム中で飾られていた。

 「ある意味・・犯罪防止の魔除けの面かしらね。」

 「よく、おわかりで、その通りなんですよ~。」

 黒髪丸眼鏡の30代ぐらいの男性が声をかけてきた。

 「いらっしゃいませ、サーシャ様。」

 私の顔を見て名前を言うところからして、この人が店主のようだ。

 「始めまして店の主さん。」

 「さすがは、頭脳面識の家柄の血を受け継いでいらっしゃいますね。」

 私は指を口元へ持って行き『しー』と言い、黙っているように示した。

 すぐに店主は『わかっています』と微笑みながら言ってくれた。

 

 『一石二鳥以上』の店主の名前は、ラスキン・シナバー。

 発注も担当している。クリスティーナ様が言っていた、困ったことがあったら頼りなさいと言っていた人のようだ。

 

 「あっ、ブルーベリージャムだわ。」

 店にブルーベリージャムが売られていた。

 「クリスティーナ様に、是非ここで販売して欲しいと言われた商品です。」

 その一言で、クリスティーナ様が私の事を心配している事に気づき、嬉しくなった。

 「私から、サーシャ様にお近づきの印です。」

と、ラスキンに長方形の包装に包まれた物を私の前に出した。

 「その品が私に必要な物だとはわかるのですが、貢物は嫌なのです。」

 私は、その包装された物を買おうとポーチの中の財布に手を伸ばす。

 ”ビリリッ”

と、紙が破ける音がする。

 ラスキンが私に渡そうとした物の包装紙を破いたのだ。

 そして、再び私の前に出す。

 『クッキーレシピ集』

 「・・・・・。」

 私は、ラスキンの満面の笑みと、クッキーのレシピ本を見て、ラスキンの考えが分かってしまった。

 そして、大きなため息をつく。

 「学園の在学中に『一石二鳥以上』で、クッキーの材料を購入させてください。」

 ラスキンは嬉しそうに、在学中だけでもうれしいと、言ってクッキーのレシピ集を私に渡してくれた。

 「申し訳ないので、ブルーベリージャムをここで販売する事を進めてくださった姫様に、渡して欲しい物があります。」

 クリスティーナ様へのお礼の品を贈る事で、店の収益になる。

 つまり、この本以上のモノをラスキンは提供してくれるのを期待しているのだ。

 お近づきと言っておきながら収益提供を要求とは・・・流石は商売人だわ。

 でも、困った時に助けて貰うためには、ここは奮発しなくては・・・。

 「お餅とチーズ、それに明日までにレシピを書きますので、それを姫様に渡して欲しいのです。」

 クリスティーナ様の故郷である隣国ピューゼン王国は、お餅を作っていない。

 ピューゼン王国でもち米の生産に『一石二鳥以上』の店が乗り出せば、大儲けとなるだろう。

 「ダンビュライト城まで運んでいただくのです。クリスティーナ様に提供するレシピを『一石二鳥以上』にも提供をしますね。」

 こうすることで、お餅レシピを広めることが出来る。

 「ありがとうございます。出来ましたら、『おかき』のレシピを加えて頂けたら嬉しいのですが・・・。」

 「それは嫌!」

 私はそっぽを向く。

 よくよく考えてみたら、未だにヘンリー様しか「おかき」を口にしていないのよ。

 そんな貴重な物を簡単に公表できるわけないわ。

 例え簡単すぎるレシピであろうが、緑とピンク計画の地であるピンクアメジ、ピンクスピネ、ピンクカルサの地の土産物として定着してからよ。

 私はそのことを言う。

 「では、水まんじゅうの作り方を・・・。」

 ”プイッ”

 私は、再びそっぽを向く。

 「それもダメ!」

 喫茶店『シンシャ』との約束のレシピを教える事は出来ません!

 「何か、『一石二鳥以上』の店の定番になるような物ありませんか?」

 私は考えあぐねた結果、ババロアのレシピを教える約束をした。


 ◇ ◇ ◇


 一日の授業が終わり、自分の寮の部屋へと行く。

 聖ドラゴニア学園は全寮制の為、寮がある。

 少しランクの高めのビジネスホテルのような雰囲気の部屋だった。

 私は部屋へ入り、机に荷物を置こうと部屋の中に進む。

 ・・・?!

 中央のテーブルの上に、置いた覚えのない物が置かれていた。

 置いた覚えはないが、見覚えのある物だ。

 ・・・・・。

 部屋の奥の机ではなく、テーブルの椅子に鞄を置き、恐る恐る見覚えのある物を手に取る。

 ・・・ベロアのような生地の袋。

 袋を開けて中の物を取り出す。

 ドラゴンの模様が彫られた銀の櫛。

 母ステラの形見のリュヌの銀の櫛だ。

 でも、どうしてここに・・・ウィリアム伯父様のところにあるはず。

 袋の中にまだ何かが入っていた、

 小さな筒状に巻かれた紙だった。

 どうやら手紙のようだ。

 私は巻かれ筒を広げて中を見た。

 ・・・・・。

 私は、その場で崩れた。

 何てことだ・・・・。

 ハミッシュ陛下に報告が必要だ。

 だが、寮からでは報告が出来ない。

 金曜日の15時までは、学園を出る事が出来ない。

 金曜日まで後2日。

 恐ろしい事が起きなければいいが・・・。

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