嘘は言ってません
「始めまして、サーシャ・トラバイトと申します。どうぞ、よろしくお願いします。」
私が、丁寧にあいさつをする。
そう、私は今日から聖ドラゴニア学園の2学年に入学をした。
わざわざ、学園長のダニエル・スペサルティンが、一緒に教室に入ってくれたのは、私が飛び級での入学だったからだ。
教室は、大学の教室のような造りの教室で、段々式の階段に机が並べられている。
その為、今いる教壇付近からは生徒の顔が良く見える。
学園長の『仲良くしてあげてください』の言葉に一同拍手で向かい入れてくれた。
・・・ひとまず、良かった~。
そうそう、先ほどサーシャ・トラバイトと名乗ったが、サーシャ・トラバイトであっています。
例え、私の鎖骨と胸の間に金色の文様が刻まれていようが、その伴侶の絆の文様の上からキスマークを付けられていようが・・・。
まだ、ドラゴンの大樹の前で、誓いを交わす式を挙げていませんから『サーシャ・ルベライト』とは・・名乗っていません。
と、言うか・・・いろんな方々のご厚意で逃げ場確保をしてくれた結果です。
えっと・・・この場を借りましてお礼を申し上げます。
私には、逃げ場が必要です。
どうして、私の逃げ場確保に、周りの方が奮闘してくれたかの経緯はと言うと・・・・・まあ、想像にお任せしますってことで。
なので、私はサーシャ・トラバイトとして聖ドラゴニア学園に、一年間生徒として勉学をすることになった。
休憩時間になると、私の周りに人が群がる。
そして、矢継ぎ早にいろいろと質問してくるという洗礼を受ける。
一番聞きたい質問は、どうして飛び級までしたのか・・・だろうね。
「婚約者が、跡取り息子なもので、その・・・嫁ぎ先の事情と・・言いますでしょうか・・・・早く孫の顔をみたいそうです。」
その言葉で皆がある程度わかってくれた。
「では、先に子を産んでからでも遅くないのではなくって?」
はいはい、その質問の答えも用意してますよ。
って、どうなさったのですか皆さん。
空気が変わったような感じがするのですが・・・。
おお・・周りを囲っていた人だかりが、避けていくよ。
えっと、ですね・・・。
もう・・とっくに、『ドラフラ』と『続・ドラフラ』の乙女ゲームの世界はとっくにエンディングを迎えてますよ~。
それも100年以上前・・127年前になるのか?
人だかりが避けた先に、取り巻きを連れてのご令嬢様が見えようが、ゲームの世界は終わっています。
なのに・・この行動は・・・。
ご令嬢様、ご令嬢様・・・あなたは、悪役令嬢様ですか?
こちらが、質問したいです。
まあ、残念なのが・・黒髪なのに、縦巻きロールではありません。
きっと縦巻きロールがお似合いになるのだろうな・・・出来れば服は袴姿でお願いします。和服似合いそうだ。例え縦巻きロールの髪型であっても。
「始めまして、サーシャ・トラバイトです。」
私は席から立ち上がり、ご令嬢に挨拶をする。
「ラヴィニア・バサルトですわ。」
私は『よろしくお願いします。』と、言おうとしたが・・・やはり、ありました。
取り巻きによる、ラヴィニアさんのご令嬢紹介。
彼女らの紹介によると、ラヴィニアさんは、キンバーライト領の出身者で侯爵令嬢。
なんでも、バサルト侯爵家に紫色の瞳の子が生まれると、必ずその子は黒髪になると逸話のある一族との事。
ラヴィニアさんの瞳の色は紫で、しっかり黒髪をしていますよ。
さて、質問の答えですよね。
「故郷の内戦に巻き込まれないように、ドラゴニアに亡命してきたのです。」
「そういえば、独身貴族だったヘンリー様の婚約者って、亡命してきた公爵令嬢だったような・・・。」
避けた集団の中の一人が言った。
はい、私です。
そして、ありがとう。その言葉を待っていました。
皆が、私をヘンリー様の婚約者ではないかという目で見ています。
「亡命をしたので、貴族の位は過去の話なのですが・・・トラバイト家は男爵位ですよ。」
お~・・・。
一瞬で、周りの眼差しが、期待外れの目に変化してくれました。
これで私は、ヘンリー様の婚約者ではないと認識させたわよ。
つまり、媚びへつらいと、賄賂、貢物はなく、正々堂々と清らかな人間関係が築けるのだ。
「あまりというか、よくない家・・ですよね。」
男爵の位は、下級貴族の位だ。
本来の私の家であるクラウンコッパー家は、上級貴族の筆頭である3大公爵家の一つだが、クラウンコッパー家は、聖女リオンを殺した一族。
例え、姓名が同じでまったく関係ない公爵家でも、姓名のそれ自体がドラゴニアにはよろしくない。
「そのようですわね。」
上から目線ですよラヴィニアさん・・・取り巻きさんもですかね。
「私が亡命者で、あまりよくない家の者ですので、少しでも嫁ぎ先に迷惑をかけないように、こちらの学園を飛び級で入学をする事にしたのです。」
私は、用意していた質問の答えを伝える。
「いい心がけですわね。頑張りなさい。」
あらあら、上から目線炸裂してますね・・・。
「ありがとうございます。」
私は、嘘をついていない事への達成感の嬉しさを顔にだして、お礼を言った。
これまで私がした回答に嘘はありませんよね。
大掛かりな偽りはしていますが、嘘は言ってないはずですよ。
・・・嘘は。




