コスモスのピアス
・・・サーシャ。
俺があのピアスを贈ったのは、国やルベライト領とサーシャを結び付けさせる為に贈った物では断じていない。
あのピアスは・・・。
コスモス畑であった事を引用して特別に作らせた物だ。
花びら一枚を取って『ス』と言っていただろう。
そして、ゴールドパール。金の真珠の頭文字『キ』
俺がサーシャの耳元でずっと『スキ』だと囁きたい想いを形にしたモノだ。
それが、何故こんな事に・・・。
『ヘンリー・・しっかり手綱を持ったうえで目を閉じて!!』
コスモが伝えて来る。
「どうしたんだ?」
『急いでドラゴンの大樹のところへ行くんでしょう。だから早く!』
俺は、訳が分からないが、コスモの言われた通りにしっかり手綱を取り目を閉じた。
『体制も低く僕にくっつく感じで・・・行くよ!!』
”ゴゴゴゴゴゴーーーーーーッ”
ものすごい風が体にあたるのが分かる。
相当なスピードが出ている。
きっと、風の能力を使ってスピードを上げているのだ。
俺はしっかりとコスモに体を付ける。
頭のてっぺんから風が痛いと感じる。
コスモも相当体に痛みを感じているんだろう。
すまない・・・だが、一刻を争う。
すまないが我慢して欲しい。
「♪♪♪~♪~~♪」
私の歌で、ドラゴンの大樹にはたくさんの金色の花と、紫の実が出来ている。
未だかつて、ドラゴンの大樹にたくさんの花が咲いた事はないだろう。
実もこんなにも出来たことはないだろう。
この歌で、たくさんのドラゴンを助けることが出来る。
”ブワーーーーッ”
また、実が弾けて祝福のオーラがドラゴニアを包いいで行く。
もっと、もっと、たくさんの花を・・実を・・・。
”ふらりっ”
私は、歌い過ぎていたせいか足元がふらつく。
”キーキャッ”
クレシダが、声をかけてくれた。
私は大丈夫と訴えるようにクレシダを撫でる。
「・・・サーシャ・・・サーシャ・・・。」
ヘンリー様の声がする。
心の奥底でずっとヘンリー様を思っているから、とうとう幻聴まで聞こえてしまったか・・・・。
いいのか、悪いのかわからないわ。
「サーシャ!!」
えっ?
”ガシッ”
私は背中から体を鷲掴みに捕らわれ、足が地から離れた。
それと同時に私は驚き、歌が止まってしまった。
「ヘンリー様!」
私の体を鷲掴みにしてきたのはヘンリー様だった。
幻聴ではないの?
私は・・・驚きと共に、目がしらが熱くなる。
「好きだ・・好き・・・・好きだ・・好きだ・・好きだ。」
耳元でヘンリー様が囁く。
その一言、一言が私の体をくすぐり熱くなる。
「・・・ヘンリー様。」
私は、溢れる想いで名を呼ぶ。
ヘンリー様は、私の体勢を逆に向かせ、コスモの背に私を乗せる。
「サーシャ・・・愛している。」
愛おしい言葉を発した唇に、自然と自分の唇が重なり、その言葉が幻聴ではない事を絡みつく舌が証明してくれる。
ヘンリー様の私を抱きしめる腕に力が入り、私はヘンリー様の胸に手を添えた。
”コツッ”
ヘンリー様の胸元に固い物があった。
私は、それが気になり、唇が離れるとそれを見る。
「っ?!」
ヘンリー様の胸元に触れた固い物。
それは、ドラゴンとコスモスのチェーンブローチだった。
クローライトの貴金属店で予約していた物がどうして・・・。
「嫁入りのお返しの品をフライングで先に貰ったんだよ。」
嫁入りのお返しの短剣と長剣のデザインを決める為に、わざわざデザイナーをヘンリー様のところへ送った来たと言った。
「剣のデザインにと、サーシャが選んだこのブローチを持って来てな。その場で受け取りたくもなるだろう・・・ありがとうサーシャ。」
ヘンリー様が気に入ったことを言ってくれた。
私は心が熱くなり、その思いをチェーンブローチに口づけをする事で表した。
だけど・・・まだ、表しきれていない。
「ヘンリー様。好き・・です。・・・愛しています。」
私は、表しきれていない想いを口にする。
口にすれば想いが溢れ、目から涙がこぼれ落ちる。
「サーシャ。」
ヘンリー様が私を呼び、そして口づけをしてくれる。
想いがどんどん大きくなっていくのが分かる。
唇が離れていくと切なさが募る。
「コスモ!!」
と、ヘンリー様がコスモを呼ぶ。
”ギュオ~~ッ”
私の前に金色の文様が現れ、そして・・・消えた。
・・・え?
今のって・・・・。
「サーシャ、これがどういう事が分かるな。」
理解・・まだできません。
「声は我慢するな。」
そう言うとヘンリー様は、私に深い深いキスをしながら身体をコスモの背へと倒した。