ドラゴニアを守るために・・・
『お願い・・・あの子を・・私のところへ』
疾うに忘れたと思っていたリオンの声。
よみがえる日々と共に、この声がリオンだという事を思い出す。
「リオン。あの子とは誰の事だ?」
薄暗い中をリオンの声が聞こえた方へと歩む。
『・・・あの子に・・早く、あの子に伝えなければ・・・・。』
リオンの声が聞こえる方に、金色の光が差し込む。
「あの子とは・・・サーシャの事なのか?」
私は、なんとなくサーシャだろうとはわかっていても、聞いてみる。
『・・・・そう・・・早く・・・一刻も早く・・・』
リオンの声がかすれたように聞こえる。
私は光の方へと駆け付け、視界が開ける。
私は唖然とする。
ドラゴンの大樹が燃えている光景がそこにあったからだ。
・・・・そして、目が覚めた。
辺りはまだ真っ暗だった。
◇ ◇ ◇
ジェロームさんのドラゴンのマブは、ドラゴンの中で遠くを見るのに長けている。
故に、黒い煙の合成獣が上陸するのにはまだ時間があると言ってくれた。
かと言ってって、のんびりも出来ないのも事実。
刻一刻と大量の合成獣が近づいているのだから・・・。
私は、ナイジェルさん、ジェロームさん、そしてマティアス様から書いて貰った手紙を肩掛けのポーチに入れる。
「皆さま・・・ご武運を」
真剣な眼差しで私を見る。
私も、同じ眼差しで皆を見る。
「クレシダ・・お願いね。」
”キューッ”
私は、まだまだ小さいクレシダにしがみつく。
すると、クレシダは飛び立った。
サーシャさんを乗せたクレシダが去るのを見る。
小さい体ながらサーシャさんを運ぶことを引き受けてくれたクレシダ。
いつもお前を頼ってしまっているな。
あんなにも小さくなっても・・・。
俺はやはり弱いのだな・・・。
騎士の家に生まれながら、俺は騎士には向いていない。
例え長年騎士をしていても・・・・。
だが、俺の持てる力をすべて使う事が今できる事だ。
「ジェローム。お前の剣はダメになっていたな。」
先ほどの合成獣と戦った際にジェロームの剣の先が無くなってしまった。
「これを使え。」
俺は、自分の脇にさしている剣を出す。
「父上これは、陛下から賜った剣ではありませんか!」
終焉の戦いの功績で、陛下が愛用していた剣を賜ったのだ。
「そうだ・・・だから貸す。必ずジェロームお前が、俺に帰しに来る・・・いいな。」
ジェロームは戸惑っていた。
「ジェローム、騎士は国の為、国民の為に命が存在する。」
騎士の鉄則のようなモノ。
「国民の中にはお前の帰りを願う者がいる。それを含めてお前の命が存在することを忘れるな。」
ジェロームは俺から剣を受け取る。
「お前の命・・とことん使ってこい。」
「はい。」
ジェロームの返事をする。
俺は、ジェロームを抱擁する。
「武運を」
心の底から息子に伝える。
「父上もご武運を・・・」
ジェロームからも言葉が返ってきた。
抱擁が解かれる。
「ジェローム、ご武運を」
と、ケートがジェロームに言い、ケートもまたジェロームに抱擁する。
「母上もご武運を」
「必ず、皆で帰ってきましょう。」
そう言い、ジェロームが私たちのもとから去る。
ジェロームが外へ出ると、騎士たちが待機をしていた。
ジェロームが騎士たちに声をかける。
・・・息子も立派になったな。
そう、ジェロームの背中を見て思った。
「ナイジェル様。」
と、ドミニクが声をかけてきた。
ドミニクの手には剣があった。
俺が、終焉の戦いまで愛用していた剣だ。
「ありがとうドミニク。」
私はドミニクから受け取ると脇にさす。
「ドミニクたちも地下室に避難をしてくれ。」
ドミニクは心得ている事を言う。
そして、俺とケートは、ドラゴン騎士のドラゴンに一緒に乗せて貰い、港町へと向かう。
別のドラゴンは、目を布でふさがれた馬をぶら下げて空を飛んでいた。
港町に着き、俺とケートは降ろして貰う。
馬の目を覆っていた布を解く。
「・・・あなた。」
ケートが俺に声をかける。
目が合ったとたんに抱擁をする。
「ケート、愛している。ケートの武運が、国民とケート自身を導く事を願っている。」
「ナイジェル・・・愛しているわ。必ずまた抱擁が出来る事を信じているわ。」
ケートと目が合うと、自然とキスをした。
そして、俺とケートはそれぞれ馬に乗る。
「敵が来るぞー!!」
「地下へ避難を~!!」
馬を走らせながら港町の人たちを避難させる。