出来る事
「・・・・前世の記憶。」
私は一つの仮説を口ずさんだ。
ここにいるクレシダが、生まれてからこれまでの間、黒い煙を放つ合成獣に出くわす訳がない。
あるとしたら、前世しか考えられない。
それも、亡くなった際のあの大怪我がまさに合成獣にあったから。
しっぽは3分の2が無くなっていたあたり、ジェロームさんの剣と同じ現象だもの。
あの時は、合成獣騒ぎはなかったことからして、クレシダが身一つで退治をしたんだ。
2頭でもあんなに苦戦しているのに、たった1頭で退治をしてくれたんだ。
皆を守るために、辛くて怖い思いをして・・・。
今また、怖くて仕方がないのに・・皆の為に、伝えてくれて・・・。
ありがとうクレシダ。
”キュキャーッ”
クレシダが叫ぶ。
黒い煙がチェスターさんを狙い1メートル程伸びる。
チェスターさんは、間一髪でよける。
その時である。
”ゴーーーーーーッ”
と、合成獣に向かって、白い煙のような物が放たれた。
すると合成獣の動きが遅くなる。
「ジェローム!」
と、チェスターさんの合図で、2頭のドラゴンが一斉に合成獣に風と炎の攻撃をする。
合成獣の黒い煙がみるみる消える。
”ドーーーーンッ”
と、黒い煙が消えると、合成獣は地面へと落ちてきた。
”プシュ~プシュ~”
合成獣が焼けた音、そして焦げ臭い臭いがする。
「死んだのか?」
ナイジェルさんが合成獣に近づく。
すると、合成獣から粉のような物体が現れ、合成獣の姿が変わる。
「あっ!」
その場にいた人が驚きを見せ止まる。
合成獣の姿は、1メートル程の子供のドラゴンの亡骸だったからだ。
そして、私は似たような物を見たことがある。
「圧死されたドラゴンの子。」
そう、ハミッシュ陛下とカリスタ様と一緒に聖ライト礼拝堂で見た、圧死されたドラゴンの子の肉の塊に似ていたのだ。
全てが重なった。
聖ライト礼拝堂に送られてきた圧死されたドラゴンの子は、クレシダが戦い仕留めた合成獣。
その戦いでクレシダが負傷し、亡くなった事。
その時の恐怖が、転生した今でも恐怖としてクレシダの中で感じていて、似たような気配が来ることを察知して、眠れなかったんだ。
「もう、大丈夫だよ・・・。」
私は、クレシダに声をかける。
”キュキュキャキュー”
クレシダの体の震えはまだあった。
「サーシャ」
と、地上に降りてきたのは赤いドラゴンだった。
水色の瞳の雄のドラゴン。
「マティアス様!」
そのドラゴンに乗っていたのはマティアス様だった。
先ほどの白い煙はフォボスの吹雪攻撃だったんだ。
でも・・何でマティアス様がここに?
”ギュオ~ギューーーっ”
上空からドラゴンの鳴き声がする。
「なんだって!」
ナイジェルさんが驚き声を出した。
「何があったのですか?」
私は、恐怖を感じながら聞く。
「南の地平線から合成獣が大量にこちらへ向かっている。」
そんな・・3頭でやっと仕留めた獣が大量にって・・・。
「だから、私の夢にもでてきたのだな。」
マティアス様は私の肩を取り言う。
「リオンが、サーシャを呼んでいる。」
私は目を大きくあけ、そしてドラゴンの大樹のある方角を見る。
「・・・先ほど一瞬白昼夢のようなモノを感じました。」
私は、クレシダに触れたとたんに聞こえた声の事を話す。
『気づいて』と『早くしないと』と、言う言葉を伝える。
「私が、もっと早く気が付いていれば・・・。」
私は、落ち込む。
そして、私にしがみついているクレシダを撫でる。
「今からでも遅くない。まだ、敵は上陸していないのだから。」
ナイジェルさんが言った。
「出来る限りの事をする。わかったね。」
マティアス様は私の顔を覗きながら伝えた。
「・・・はい、やります。」
やるしかない。
それしか今はない事を悟り、マティアス様を真剣に見る。
「うん。」