黒い煙
モーリスさんが、マリーとの結婚報告をした際に届けてくれたヘンリー様からのプレゼントは、婚約指輪ではなくピアスだった。
コスモスの花の形だが、花びらが一枚付いて、中心の筒状花のところにはゴールドパールが付いていた。
不思議だよね。
これまでアクセサリーをプレゼントされるのが億劫だったのに、ヘンリー様からのアクセサリーは、すごくうれしい。
それがヘンリー様とコスモを象徴するコスモスなら、なおの事うれしいと感じる。
私も、その絆の輪の中にいられる幸福感なのだろう。
つまり、このピアスは伴侶の約束っていう意味かな?
マシュアクセサリーのピアスは外せないから、私はピアスの穴をあける。
新しく開けた方に、マシュアクセサリーのピアスを入れ、元々開いている穴にコスモスのピアスを付けた。
鏡を見て確認。
・・・うん。
私は、自然と笑顔になる。
そして、食事をしてからクレシダのところへと行く。
チェスターさんは眠っているクレシダを撫でていた。
「今さっき眠ったところだ。」
私は、そのままクレシダの体を撫でようとクレシダに触れる。
『気が付いて!』
触れたと同時に夢の中で聴いた女性の声がした。
私は驚き、チェスターさんの方を見る。
「ど、どうしたんだ?」
チェスターさんは、顔を引きつるり驚きを見せる。
『早くしないと!!』
私の体の中で声が響く。
”キュキーーーーーーーーーーッ”
クレシダが目を覚ます。
そして、私たちを押し倒して暴れだす。
”バリバリバリバリ”
と、クレシダが雷を放った。
「クレシダ落ちつけ!!」
チェスターさんが、クレシダに声をかけるが聞こえていない様子だ。
「クレシダ大丈夫だから・・・落ち着いて!」
今までにない暴れっぷりだった。
これまで一度たりとも雷まで放つことはなかった。
そのような報告も一度たりとも受けていない。
”パリンッ”
と、窓ガラスが雷を放ったことで一斉に割れる。
”キキャーーキキャーーーッ”
クレシダは我を忘れているのが一目瞭然だった。
翼が広げられる。
「クレシダ!!」
私はクレシダに飛びつく。
だか、クレシダは私がしがみついても、ものともせずに飛び立ち巣から出て飛翔する。
「クレシダ、クレシダ、気が付いて!!」
私も、クレシダに気がつけなの?
一体何に気づけばいいのよ。
「サーシャ、大丈夫か!」
チェスターさんは、自身の白いドラゴンに乗って近くまで追ってきてくれた。
「私は、大丈夫です。それより、クレシダは何て言っているのですか?」
私は、クレシダの悲鳴の内容を知りたかった。
「『怖いのが来る』って言っている。」
何が怖いの?
「クレシダ、何が怖いの?」
チェスターさんは首を振り、『怖いのが来る』しかわからない事を言う。
”キーキャキュ・・・”
クレシダの飛んでいるスピードがゆっくりとなっていき、地上へと降りる。
「クレシダ」
私が声をかけると、クレシダは私にしがみつくように抱きついてきた。
”キーキャッ”
私はクレシダを抱きしめる。
「クレシダ!」
と、空から声が聞こえる。
地上に降りてきたのは、ジェロームさんとナイジェルさんだった。
ジェロームさんのドラゴンのマブに、2人乗りで来たのだ。
「・・・クレシダ。」
ナイジェルさんは優しく声をかける。
クレシダは、ナイジェルさんに抱き着く。
”キュキューーキュキューー”
クレシダがナイジェルさんに抱きしめられながら、泣いているようだった。
クレシダが落ち着いたころ。
「クレシダ・・・絶対に俺が守るから、皆でクレシダを守るから、怖がらずに、教えてくれないか?」
”キュー”
「黒い影の塊が来る。」
そのようにジェロームさんが言う。
”キキャーーッ”
クレシダの悲鳴で3人は、一斉に剣を抜き臨戦態勢をとる。
私はクレシダのところへ行き抱きしめる。
「空だ!!」
ジェロームの一言で空を見上げる。
そこには、黒い煙の塊が一体飛んでいた。
大きさは2メートルほど、黒い煙でおおわれている為見えづらいが、翼が見える。それもドラゴンのような翼。
だが、しっぽが全く違う・・・・ライオンのようなしっぽだ。
ジェロームとチェスターはドラゴンに乗る。
”キュキュキャーッ”
クレシダが悲鳴をあげる。
その悲鳴で、2頭は黒い塊から離れる。
「何なんだあれは・・・。」
チェスターは黒い煙の塊を見て言う。
「頭が3つ、中央が馬で、サイドが羊と・・・ドラゴンか?!」
黒い煙で見えづらい中で説明を入れてくれる。
「おい、しっぽが蛇だぞ!!」
ライオンのようなしっぽと私には見えたが、チェスターさんが蛇のしっぽと言った。
「合成獣・・・キマイラ」
私は、前世で読んだ幻獣の名前を言った。
頭の動物は違うが合成獣であるのは確かだ。
「どうすればいいんだ?」
どうしたんだ?
「風や炎で攻撃するしかないだろう」
ナイジェルさんが大声で言う。
「どういうことですか?」
私はナイジェルさんに聞く。
「クレシダが、煙に触ってはダメだと言っているんだ。」
私は、クレシダの方を見る。
クレシダの体は震えている
目を瞑り、私に縋りついて顔が見えない。
空では、マブが口から風の刃のようなモノを出す。
チェルターさんのドラゴンは、口から炎をだして交戦をする。
「うわっ!」
と、合成獣の黒い煙がジェロームさんに近づく。
すぐにマブが離れて怪我はなかった。
だが、持っていた剣の先が3分の1が全く無くなっていた。
刃物の破片が地上に落ちてきてもいない。
「クレシダは、この事をわかっていたのか?」
ナイジェルはクレシダの方へ振り向く。
「・・・・前世の記憶。」
私は一つの仮説を口ずさんだ。