困惑が隠せない理由
サーシャが、マブ・ラリマー邸に行ってから1ヵ月となろうとしていた。
これまで、2通ほど私たちクロ―ライトの家族宛て手紙が来たが、今回は私の名前のみが書かれていていた。
それを家族の前で開けると、封筒の中にまた封筒が入っていた。
そして、その封筒には女性ならではの話の為、女性以外は見ないで欲しいと書いてあった。
なので、私はその手紙を貰い自室へ戻る。
封筒を開けて、中の手紙を見る。
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親愛なる母さま
困った事がありまして、このような手紙を書いてます。
実は、結婚初夜の作法が分かりません。
作法と言っても、初夜の行為というモノはわかっています。
格好が分からないのです。
マブ・ラリマー邸の使用人の方々から
『結婚初夜にお使いください』
と、メモがされたプレゼントを頂きました。
『前のリボンを引けば、簡単に解けるレースの胸当て』
『サイドのリボンを引けば、簡単に解けるレースのショーツ』
『前のリボンを引けば、簡単に解けるスケスケスケのガウン』
なのですが、これであっているのでしょうか?
結婚初夜から過激に殿方を誘うのが作法なのでしょうか?
そうだとしても、相当落ち着いた格好をと思うのです。
私は、間違っているのでしょうか?
どうか教えてくださいお願いします。
サーシャ・トラバイト
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あらまあ、セクシー過ぎる過激なネグリジェを頂いたのね。
そんな格好したらヘンリー殿が、暴走するに決まている。
サーシャに欲望を叩きつけ、懐妊するまで部屋に監禁される事になるわね。
・・・でも、早く懐妊をしてもらわないと、臙脂様が精神崩壊してドラゴニアが大変なことになるわ。
でも・・・このような手紙をサーシャが書くという事は、想像以上の品なのかもしれない。
私に出来る事は・・・もう少し落ち着いた。
そうねぇ・・軽い監禁ぐらいの品を贈る事かしらね。
私は、そう思い出かける準備をする。
◇ ◇ ◇
私が起き身支度をしてから食堂へ行くと、そこには幻覚のような姿があった。
こちらに向かってくる。
「サーシャ様。」
『さん』から『様』になったか・・・。
そこにいたのは、懐かしのモーリスさんだった。
ピンクアメジとピンクスピネ、ピンクカルサの緑とピンクの計画で、現地に滞在する際に別れたきりだ。
「幻かと思いました。お久しぶりです。モーリスさん。」
モーリスさんは何かぎこちなく『本当にお久しぶりです。』と、返事をする。
「もしかして、私が起きるまで待ってくれたのかしら?」
今は昼の時間帯だが・・・。
モーリスさんは3時間前に来たことを伝えてくれた。
「それで、モーリスさん自らここ来た理由は、ルベライトで何かあったのでしょうか?」
その一言で、モーリスさんは、私の前のテーブルに小箱を置く。
「ヘンリー様から預かった物です。」
箱の大きさからして・・・婚約指輪かしら?
もし、そうならヘンリー様自ら届けて欲しかったな。
まあ・・我儘かもしれないけど。
「その・・サーシャ様に報告がございまして・・。」
それにしても、モーリスさんどうしたのかしら?
本当にぎこちない。
・・・・もしかして・・・病気?
脳梗塞の前兆?!
私は、モーリスさんの顔を正面で見ようと振り向く。
「モーリスさん、こっちを向いてください。」
モーリスさんは、私の方に正面を向ける。
顔の片方にゆがみは?
左右の顔の違いが如実に表れていないか?
大丈夫か?
・・・・うん、普通の顔。
なら、なんでこんなにモーリスさんはぎこちないのだ?
「よろしいでしょうか?」
モーリスさんの言葉に、私は心配ながら『どうぞ。』と返事をする。
「その・・・マリーが妊娠をしました。」
・・・・え?
マリーが、あのマリーが?
・・・でも、舞踏会の時・・・綺麗になってた。
そうか・・・恋をして。
・・・誰の子?
「それで・・・父親は誰ですか?」
モーリスは目を見開き一瞬止まる。
な・・何・・どうしたの?
「ゴホッ・・・私です。」
モーリスさんは軽く手を上げて答えた。