過労死メーター再び
マブ・ラリマー邸に来てから約10日が過ぎた。
”キーーーーッキキャーーーーッ”
クレシダが眠りについて1時間半。
手をバタバタさせ、その場を行ったり来たりしている。
クルクル回り、十分ほど・・・。
”キーキャッ”
クレシダは私に気づき抱きついて来る。
「クレシダ、大丈夫だよ・・・。」
私もクレシダに抱きつき、クレシダをさする。
”キーキャッ キュキャキャッ”
クレシダが何を言っている。
私は、少し離れたところにいるドラゴン騎士の方を見る。
その方から、クレシダが歌を所望していると聞き、私は歌を歌う。
「♪~♪♪~♪~」
前世で聴いた穏やかで優しい歌。
曲調で泣き、歌詞でも泣いた歌。
私はその歌を歌う。
クレシダの私の抱きしめている手の力が緩くなる。
歌を歌いながら、クレシダの体を沈ませる。
体を沈ませながらクレシダの片手を握り座る。
クレシダは目をつぶったまま寝息を立て始め・・・・眠る。
今度は何時間眠ってくれるかしら?
今回のように歌を歌ってはいいが、ボール遊びしての時はしんどかった。
トス回しをするのだが・・・。
私、運動系ではないので、クレシダが疲れて眠ってしまう前に、私がくたばりそうになる。
まあ、その前に周りにいる人に助けて貰っている。
一応、クレシダに当たる人は数人いる。
私の場合はドラゴンの言葉が分からないので、必ずドラゴンと絆を結んでいる人がついてくれる。
ドラゴン騎士だったり、チェスターさんの部下だったりと、つまり体育会系の人が必ずついてくれる。
任せるしかないでしょう。
私のへなちょこトスより、緩急つきのトスの方がいいでしょう。
「・・・サーシャ。」
と、小さな声でジェロームさんが来る。
クレシダが寝ているのを起こさないように近づいて来る。
そろそろ交代時間か・・・。
「ジェロームさん、クレシダが不安がると思うので、私がクレシダの手を離したら、すぐにクレシダの手を握ってあげて下さい。」
私の言葉で、すぐにジェロームさんが近くまで来てくれる。
『せーの』の合図でクレシダの手をジェロームさんに渡す。
クレシダは・・・良かった。目を覚ますことはなかった。
私は、今日のクレシダといた6時間の報告をして、次の屋敷の仕事へと向かおうと扉へ向かう。
扉は開いていて、そこには数人のメイドがいた。
「サーシャさん、待っていたわ。」
わかっています。今日はこれから食材を買いに行く事を約束していたのだ。
数人のメイドと荷馬車に乗り街中へと向かう。
荷馬車の手綱を引くのは、マブ・ラリマー邸の庭師の人だ。
「町に着いたら伝えて」
と、言いメイドさんたちは眠りにつく。
よくもまあ・・・結構揺れる荷馬車で寝れるな~。おかしくない?
ん?
3分ぐらいで眠っているよ。
ん?
一日36時間。うち8時間が睡眠という決まり。
最初の3日間はきつかった。
8時間でなく10時間から12時間寝てましたから・・・。
今は、8時間で身支度の他に自分の時間も作れている。
屋敷の使用人たちの中には、クマが凄い人が数人いたりするが、そうでなかったりもする。
因みにここの人たちは酷い分類です。
私は、町に着いてもメイドたちを起こさずに、店の近くまで荷馬車で行って貰い買い物をする。
いつもより時間がかかるが仕方がない。
時に荷馬車だと遠回りな所では、私が早歩きで目的地の店まで行き買い物をして、荷馬車が来るまで待つといったこともあった。
まあ、仕方がない。
メイドたちを休ませよう。
ああ、忘れていた。
私は、持っていた自分のポーチから手紙を取り出し、ポストへ投函する。
マティアス様にお礼の手紙だ。
マブ・ラリマー邸に来た早々、クレシダだけでなく使用人の方々も疲労が溜まっている様子だったので、クローライト領の梅干しを定期的に送って欲しいと、その場ですぐ書きヘンリー様に託した手紙で。
ヘンリー様はすぐに届けてくれたみたいで、3日後には、梅干しとその他梅ジュースの原液が届いた。
おかげで、屋敷の使用人は、少し持ち直してはいるのだが・・・。
ここにいるメイドは疲労困憊している様子。
・・・もしかしてと、原因の予想は出来ているのだが、違う事を願っている・・・いや、そうであった方がいいのか。ここにいるメイドの方々の為にも。
買い物を済ませマブ・ラリマー邸に戻る。
荷馬車が屋敷の厨房の近くまで行き止まる。
厨房から使用人たちが出て来る。
「遅かったけど何かあったのか?」
「心配してた」
などの言葉をかけて貰った。
私は、荷馬車に乗っているメイドを揺さぶりながら起こす。
「あれ・・どうして屋敷なの?」
メイドたちは驚いていた。
それと同時に、町へ行ったら起こして欲しいと言ったににも関わらず起こしてくれなかった事を非難する。
「私を非難する前に、あなた方の今の睡眠時間を教えてください。」
8時間とっていないのではと付け加えると、4時間と答える者が多く、3時間という者もいた。
完全ブラック・・・驚きの黒さだ。
クローライト一族の者の過去より酷い。
マティアス様、ヴィンセント様は一日24時間の内3時間の睡眠だった。キャサリン様は4時間。
ここにいるメイドは、一日36時間で3時間から4時間。
よく生きていたと逆に感心するわ・・・してはダメよ、ダメ。
「今、この緊急事態の状況下でも、皆さんに8時間睡眠を強要している理由はわかりますか?」
厨房からいろんな人たちが出て来る。
「皆さんの事が大事だから、倒れれば周りに被害を被る事になる。」
苦しむのは睡眠時間を削っているメイドたちだけでなく、周りの方々も苦しむ事になる。
「なかなか素直に眠れていないクレシダは、周りに迷惑をかけている事をわかっているわ。それも含めて苦しんでいるのに、倒れでもしたらもっと悲しむことになるのよ。」
私は、大声で言う。
周りにも聞こえるように、噂話になって皆がちゃんと8時間眠るように努力するように。
「皆さんは、この屋敷それぞれのドラゴンとの絆は結んでいなくても、この屋敷という輪の中の絆を結んでいる方々のはずです。」
私以上に皆さんの方が、この屋敷の方々の事をドラゴンも含めて詳しい。
倒れる事になり、もし過労死でもしたら悲しむし苦しむ。
「もっと周りを頼り、もっと周りと協力して、もっと周りと絆を深めるべきでしょ!!」
睡眠時間を削っていたメイドたちは、頭を下げて謝った。
そして、今日からちゃんと睡眠時間を摂ることを約束した。
こうして、マブ・ラリマー邸の過労死メーターが抑えられる事になった。




