アドバイス
今後のサーシャの今後の資金となる書類に、マティアスがサインをしている。
「陛下、署名をしてください。」
と、ピアーズ殿の言葉にやっと反応しサインをする陛下。
相当、緊急視察や抜き打ち視察という名の遊興費が削られるのがショックの様子。
逆にピアーズ殿は、陛下の突発的な行動が抑えられると元気を取り戻していた。
部屋の向こう側に待機している兵が部屋に入ってきて、ピアーズ殿に耳打ちをする。
「入って来てくれ。」
ピアーズ殿の一言で扉が開く。
部屋に入って来たのはヘンリー殿だった。
ヘンリー殿も驚いたのか、数歩中に入り躓いたように止まり、そして再び部屋の中まで歩いて来る。
「ヘンリー殿。サーシャを送ってくれてありがとう。」
どうやら、サーシャをマブ・ラリマー邸に送り、その帰りに王宮に立ち寄ったようだ。
一泊したという事は・・・。
もしそうなら、マブ・ラリマー邸でしっかり仕事が出来ているかしら?
痛みが続かなければいいのだけど・・・。
ヘンリー殿は顔色変えずに、陛下に手紙を渡す。
相変わらずヘンリー殿の顔は変わらないのね。
ショックの中の陛下がサーシャの手紙を見ると、顔色が変わった。
「・・・・サーシャの夢にリオンが何度か出てきているようだ。」
リオンが?
「マティアス。この頃リオンが夢に出て来てないか?」
陛下がマティアスに聞いて来た。
マティアスは、出て来ていない事を言う。
どうしてマティアスの夢に、リオンが出て来ていないかを訊ねたのかしら?
「ドラゴンの大樹が燃えている風景と、死体の山を見せたようだ。」
「恐れ入りますが陛下。」
やはり、リオンの母だから皆、私の発言を待っているようね。
「国の危機を知らせている・・・という事でしょうか?」
「それでしたら、ドラゴンの大樹の加護を受けているマティアス殿も同様の夢を見せるのではございませんか?」
ピアーズ殿のいう通りだわ。
マティアスの瞳の色は金色。サーシャの紫色の瞳より、ドラゴンの大樹の加護を得ている。
サーシャ以上にマティアスの夢に、リオンが出てきてもいいはずだわ。
・・・では?
「今は、誰に伝えたかではなく、その内容だな。」
陛下のいう通りだわ。
この世界の最後のドラゴンの大樹の危機が、迫っている事を言っている。
「・・・・ジジイの期限が迫っている。」
ヘンリー殿と仲の良いドラゴン臙脂様の精神崩壊が近いという事。
「厄介ですね。」
ピアーズ殿は、臙脂様が金色の瞳を持っているという事。対抗できるであろう金色のドラゴンのコスモは、臙脂様の子孫で、臙脂様の事を慕っている。
退治するのは無理に近い。
そうなると、被害が計り知れない。
それこそ、死体の山がそこら中にあふれる程できるであろう。
「ジジイは、俺の子と絆を結びたいと昔から言っている。」
サーシャがいる今は、早く子供を作れとも言われていると説明してくれた。
「サーシャを怖がらせたくないから我慢をしているが・・・ジジイの事を思えば、早く子供を作るべきなのか・・・。」
つまり、ヘンリー様はマブ・ラリマー邸にサーシャを送りに行った際の一泊では、サーシャに手を出していないという事ですか・・・・。
「ヘンリー。先ほど送ったと聞いたが、サーシャは今どこにいるんだ?」
ヘンリー殿から、サーシャが不安定なクレシダの面倒を見る為マブ・ラリマー邸にいる事を伝える。
「クレシダが不安定とは・・・リオンの夢と何か関連があるのでしょうか?」
ピアーズ殿の言葉に皆が考える。
「クレシダは一度生まれ変わっている・・・死の事を思いだしたとかか?」
「それは・・・クレシダに聞かないとわかりませんね。落ち着いたら聞いてみるのもよろしいかと存じます。」
ピアーズ殿の言葉に陛下は頷く。
「一応、四公爵に伝えておく、ドラゴン騎士の信頼度が低迷している中で、緊急事態に備えろとは言い辛い。だから、軍事練習をする準備ぐらいはしておくようにと通達する。」
陛下は、軍事練習をしても差し支えない事も付け加える。
さすが陛下だわ。
『緊急事態に備えろ』では、今のドラゴン騎士低迷の中では、兵たちの士気が落ちる一方だ。
だが『軍事練習の準備をしろ』では、ドラゴン騎士の低迷下での兵の指示を学ぶが、軍事練習の内容となるのは一目瞭然。
士気の上昇を目的としているし、士気に上昇にもなろう。
同じ準備でも、言葉の違いでこうも軍の士気が変わるとは、陛下はわかっていらっしゃる。
「それからヘンリー。」
ヘンリー殿は、陛下の言葉に耳を方向ける。
「結婚前に、サーシャとの間に子供が出来ても驚かないが、お前の欲望をただサーシャに叩きつけるのはするな。」
伴侶の絆が結べない時期を独身で過ごした男性は、独占力と言うのが強い。
陛下もそうだし、有名どころはなんと言ってもフレディー殿とクリスティーナ殿だ。
伴侶の絆を結ぶと、妊娠しやすい時期が分からなくなる中で年子がいるのだ。
ヘンリー殿は、これまで我慢に我慢を重ねている。
その我慢が外れた時、何をしでかすかと皆心配をしているのだ。
「サーシャの事を分かり合いながらことを進めろよ。」